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第一章 人の好みは説明できない

019 私の彼氏は優しくて素敵 ④

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 抱擁を解くと、新くんは私の頭をゆっくりなでてくれた。なんだかとても安心する。新くんからは、ありのままの私が受け入れられ、慈しまれている感じがすごくして、嬉しいし、ありがたいなと思う。

「蝶の髪飾り、可愛い」

 新くんは私の後頭部に手を回した。

「バッグと合わせたの……」
「うん。バッグも可愛いなって思った」

 そもそも服がわからないって話だったから、新くんは私の格好にも興味がないのかと思ってた。気づいてくれてたんだ。

「危ないから、外すね」

 ぱちんと音がして、バレッタが外された。新くんはバレッタを丁寧にテーブルの上に置き、私の髪に指を差し入れ、編み込みをほどいていく。

「若葉ちゃん、いつも髪の毛綺麗にアレンジしてるけど。僕の手でほどいてみたかったんだ、ずっと」

 そう言った新くんの目がなんだか色っぽく見えて、ひどくどきどきする。髪の毛と一緒に私の気持ちもほどかれている気がする。
 髪をほどき終えると、新くんの綺麗な長い指は、少しずつ私のカーディガンのボタンを外していく。

「腕、広げて」

 そう言われたから素直に腕を広げると、新くんはそっとカーディガンを抜き取り、ハンガーに掛けた。

「すごく丁寧……」
「若葉ちゃんは服をすごく大切にしてるから。だから僕もなおさら、大切に扱いたい」

 元彼はそんなことを全然気にせず、無理に脱がそうとして、服が破れたこともあった。そんな風に気遣ってくれるのは、とても嬉しい。
 そう思っている間にブラウスのボタンも全て外されていて、丁寧に脱がされた。下に着ていたベージュのタンクトップもばんざいさせて剥がし、ブラウスとセットでハンガーに掛けてくれた。
 新くんは私を立たせるとスカートのファスナーをそっと下ろし、私の身体からゆっくり抜き取ると、これも皺にならないようにハンガーに吊るしてくれる。

「このスカート、すごく綺麗だね」
「うん。お気に入りなの。布が繊細に何層も重なってて、色が絶妙に綺麗で」
「若葉色だ」
「え……」
「初夏の、若葉の色だよね」
「……そう、若葉色なの」

 小さい頃、私は緑色が好きじゃなかった。あんまり似合わない色だと思っていたから。でも、自分と同じ名前の緑色が存在すると知った時、すごくわくわくして、大好きな色に早変わりした。
 そんな風に、時に世界は一瞬で変わる。新くんの素顔を見て、一目で恋に落ちてしまったように。

「秋だけど、今日はすごく大切な日だから、お守り代わりに着てきたの」
「そうなんだ。嬉しい」

 新くんの笑みが増し、私もとても嬉しい気持ちになる。

「このスカートを若葉ちゃんが着てるところ、前にも見たことあって。素敵だなあって思ってたんだ」
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