上 下
15 / 352
第一章 人の好みは説明できない

014 私の彼氏は穏やかで素敵 ⑭

しおりを挟む
 夕飯時なのもあって、お店が混んでいたから、ラーメンが運ばれてくるまで少し時間がかかった。元彼だったら、いらいらしているところ。

「ごめんね。待たせちゃって」
「え? だって北村さんのせいじゃないし。待つのも苦じゃないから、全然気にしてなかった」

 優しい。新くん、やっぱりすごく優しい。比較するのはよくないけれど、新くんはのんびりしていて、大らかな性格で、過ごしやすいなあと思う。

「ラーメン固麺煮卵付き、二つお持ちしました! ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

 店員さんがラーメンを運んできてくれたので、新くんの方にまず置いてもらい、自分の分も受け取ってお礼を言う。新くんはスマートに伝票を受け取った。

「おいしそうだねえ!」
「うん! すっごくおいしいよ!」

 喜んでもらえてよかった。自分がおすすめしたものを笑顔で受け入れてもらえるのは、やっぱり嬉しい。

「「いただきます」」

 ふーっと息を掛けて食べようとした時、新くんがぼそりと言った。

「ああ、湯気で何も見えない……」

 新くんは眼鏡を外し、曇りを拭う。カチャリ。テーブルに眼鏡を置いた新くんは、諦めたようにそのまま食べ始めた。

「み、見えなくて平気?」
「うん。僕、好き嫌いないし」

 一瞬意味がわからなくてぽかんとしてしまう。ああ、箸でつかんだものがなんであれ、食べるから大丈夫、ということかな? 何が来ても受け入れるスタンス、格好いいなあ、なんて、どこかズレたことを考えてしまう。

 新くんが何も見えていないのをいいことに、思わずじっと見つめてしまう。
 やっぱり新くんの顔、すごく好きだなあ。すっきりしていてクセはないけど、目元は少し甘い可愛らしさがあって、眉は太すぎず細すぎず、鼻筋がきちんと通っていて、口元はキリッとしている。雰囲気が好みなだけじゃなくて、バランスがすごくいいんだ。やわらかさと可愛らしさと、格好よさと凛々しさと。素敵。

「おいしかった!」

 嬉しそうにそう言うと、新くんはもう一度眼鏡を掛け直した。
 笑顔に賢そうな雰囲気がプラスされて、ますますどきどきしてしまう。私には眼鏡萌えなんてないはずなのに、新くんの眼鏡姿はものすごくときめく。

 ああ。新しい眼鏡、新くんに「合ってる」んだ。すごくしっくりきてる。好みの顔に合ってる眼鏡なんだから、ときめくのも道理。

「大丈夫? 具合悪かったりする?」

 少し心配そうに訊ねられ、はっとする。ラーメンが伸びきっている。
 言えない、あなたの顔に見とれていて食べ損ねただけですとか、絶対言えない。

「う、ううん! 大丈夫!」

 あわててずるずると啜るけど、緊張しているのかまるで味を感じない。伸びきってるけど、まずく感じなくていいかもしれない、なんてやっぱりズレたことを思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...