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第一章 人の好みは説明できない

014 私の彼氏は穏やかで素敵 ⑭

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 夕飯時なのもあって、お店が混んでいたから、ラーメンが運ばれてくるまで少し時間がかかった。元彼だったら、いらいらしているところ。

「ごめんね。待たせちゃって」
「え? だって北村さんのせいじゃないし。待つのも苦じゃないから、全然気にしてなかった」

 優しい。新くん、やっぱりすごく優しい。比較するのはよくないけれど、新くんはのんびりしていて、大らかな性格で、過ごしやすいなあと思う。

「ラーメン固麺煮卵付き、二つお持ちしました! ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

 店員さんがラーメンを運んできてくれたので、新くんの方にまず置いてもらい、自分の分も受け取ってお礼を言う。新くんはスマートに伝票を受け取った。

「おいしそうだねえ!」
「うん! すっごくおいしいよ!」

 喜んでもらえてよかった。自分がおすすめしたものを笑顔で受け入れてもらえるのは、やっぱり嬉しい。

「「いただきます」」

 ふーっと息を掛けて食べようとした時、新くんがぼそりと言った。

「ああ、湯気で何も見えない……」

 新くんは眼鏡を外し、曇りを拭う。カチャリ。テーブルに眼鏡を置いた新くんは、諦めたようにそのまま食べ始めた。

「み、見えなくて平気?」
「うん。僕、好き嫌いないし」

 一瞬意味がわからなくてぽかんとしてしまう。ああ、箸でつかんだものがなんであれ、食べるから大丈夫、ということかな? 何が来ても受け入れるスタンス、格好いいなあ、なんて、どこかズレたことを考えてしまう。

 新くんが何も見えていないのをいいことに、思わずじっと見つめてしまう。
 やっぱり新くんの顔、すごく好きだなあ。すっきりしていてクセはないけど、目元は少し甘い可愛らしさがあって、眉は太すぎず細すぎず、鼻筋がきちんと通っていて、口元はキリッとしている。雰囲気が好みなだけじゃなくて、バランスがすごくいいんだ。やわらかさと可愛らしさと、格好よさと凛々しさと。素敵。

「おいしかった!」

 嬉しそうにそう言うと、新くんはもう一度眼鏡を掛け直した。
 笑顔に賢そうな雰囲気がプラスされて、ますますどきどきしてしまう。私には眼鏡萌えなんてないはずなのに、新くんの眼鏡姿はものすごくときめく。

 ああ。新しい眼鏡、新くんに「合ってる」んだ。すごくしっくりきてる。好みの顔に合ってる眼鏡なんだから、ときめくのも道理。

「大丈夫? 具合悪かったりする?」

 少し心配そうに訊ねられ、はっとする。ラーメンが伸びきっている。
 言えない、あなたの顔に見とれていて食べ損ねただけですとか、絶対言えない。

「う、ううん! 大丈夫!」

 あわててずるずると啜るけど、緊張しているのかまるで味を感じない。伸びきってるけど、まずく感じなくていいかもしれない、なんてやっぱりズレたことを思った。
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