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第一章 人の好みは説明できない

012 私の彼氏は穏やかで素敵 ⑫

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 古着屋さんを出ると、ちょうどいい頃合いだったので、眼鏡屋さんへ戻ることにした。新くんと並んで歩く。
 ヒール靴でも新くんは余裕で私より高い。180くらいかな。脚の長さが違うのに、急かされてる感じは全然しない。合わせてくれてるんだ。新くんは私の歩調に合わせて、ゆっくり歩いてくれてる。さりげなく自分が車道側に回ってくれるところも、優しいなと思う。

 私の身長は165cm。元彼は私がヒール靴を履いていると、並んで歩いてくれなかった。170弱だったから、身長を気にしていたのだと思う。私が気にしないよと言っても、却って傷つけるだろうと思ったから、言わなかった。だから、推測は外れているかもしれない。
 結局、元彼とのデートの時は、ヒール靴を履くのをやめた。元彼の歩きは少し速くて、ついていくのが大変だったのもあって。

 一緒に歩く時の見栄えなんか全然気にしないけど、身長の高い人の方が、コンプレックスを刺激して傷つけることはないし、好きな格好ができていいかな、と別れた後に思った。

 私は、好きな格好で、好きな人と、並んで歩きたい。



 眼鏡屋さんで仕上がった眼鏡をフィッティングしてもらう。これは結構大事だと、眼鏡を掛けている弟も言ってた。ここできちんと合わせておかないと、掛けていて疲れるから。

「時間、まだ大丈夫?」

 眼鏡屋さんを出てすぐ、新くんから訊ねられた。

「うん。私、一人暮らしだから、何時まででも」
「じゃあ、夕飯を食べに行こう。奢るから」
「え! そもそも私があら……渋沢くんに烏龍茶をかけちゃったからで……」
「すごくいいものを選んでもらったし、プレゼントももらったから、お礼がしたいんだ」

 新くんが微笑んだ顔にきゅんときた。
 むしろ私がお礼すべき気がするけど、夕飯を食べに行ったら、もう少し新くんと一緒にいられる。そう思って、ありがとうと言ってうなずいた。

「北村さんは何が食べたい?」
「ラーメン!」

 思わず反射的に叫んでしまって、はっとする。ここは新くんが何を食べたいのかと気遣って訊ね返すべき場面なのでは。奢ってもらう訳だし。しかも全然デートっぽくない選択。

「わかった。ラーメン食べに行こう。おすすめのお店ある?」

 私の心配をよそに、新くんがにっこり笑ってくれたので、お気に入りの醤油ラーメンのお店へ案内することにした。
 なんだろう、新くんと一緒だと、話がさくさく進む。すごく楽だなあ。
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