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第一章 人の好みは説明できない

008 私の彼氏は穏やかで素敵 ⑧

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 今日は新くんとお買い物に行く日。どきどきして十五分も早く着いてしまった。
 待ち合わせ場所は繁華街の駅ビルの大きい本屋さんの中。どこで待ち合わせようかと新くんから訊ねられたから、私が提案した。私は本屋さんで待ち合わせるのが好き。もしどちらかが遅れたとしても、楽しく暇をつぶせるから。

 元彼にもそう提案したけど、「遅れなければいいし、若葉はいろんなところをちょろちょろしがちだし、店内のどこにいるかわからないから、探すの大変だろ」ともっとわかりやすい場所にするよう促され、実行できなかった。

 何を着ようか迷って、結局、桔梗っぽい青紫のカーディガンと白いブラウスに若葉色の膝丈のふんわりしたシフォンスカートを合わせた。紫と緑の色合わせ、秋らしくて好きなんだよね。緑は植物の葉の色だから、基本、何色とでも合うし。

 足元は青紫の厚手のストッキングに焦げ茶のパンプスにした。結構歩くと思うから、ぐらつきにくいように、足首にストラップが付いているもの。
 あとは、焦げ茶の小さめのショルダーバッグ。蝶を模したレトロなデザインがお気に入り。バッグは手に持つタイプだと忘れてしまいがちだから、首か肩から下げられるタイプを買うことにしている。

 髪の毛は、横を少しだけ編み込んで、後は下ろした。新くんに私が女の子であることを意識してほしくて。編み込んだ部分はバッグに合わせて蝶の形の金のバレッタで留めた。今日も好きな格好をしているけれど、新くんに可愛いと思ってもらいたい気持ちも、やっぱり否定はできない。

「北村さん」

 新くんの声だ!

「あら……渋沢くん」

 いけない。あれからずっと心の中では新くんと呼んでいるから、つい、本人に対してもそう呼びかけそうになってしまう。ごまかしやすい名前でよかった。

「ごめんね。お待たせして」
「ううん。時間ぴったりだし」

 ふと、元彼の台詞が思い出され、探すの大変だったんじゃないかなと心配になった。

「あ、あの、私のこと、見つけるの大変じゃなかった?」
「ううん。北村さんの服、色が鮮やかだから、目立っててすぐわかった。もし見つけられなくても、電話を掛ければいいし」

 新くんがきょとんとした表情でそう言ってくれたので、ほっとした。

「あ……渋沢くん、洋服と眼鏡、どっちから買いに行く?」
「先に眼鏡がいいな」

 新くんがそう言うので、彼が普段利用しているという眼鏡屋さんにまず行くことにした。
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