【R18】人の好みは説明できない

第一章 人の好みは説明できない

005 私の彼氏は穏やかで素敵 ⑤

　元彼とは、一年の夏の半ばから付き合って、冬に別れた。

　同じ学科で語学の授業が一緒だった元彼に「北村さんは変わってるね」と話し掛けられたのがきっかけ。玲美ちゃんには「その時点で失礼」と言われたけど、ユニークだと評されることは割とあるし、彼の言い方に肯定的なニュアンスを感じたから、さほど気にしてなかった。
　元彼から「若葉と一緒にいると面白い」と言ってもらえて嬉しかった。恋愛感情の「好き」をもらったのも初めてだった。

　元彼はきちんとしていて、いつも正しくて、無駄がなかった。彼がいらだってしまったのは、私がのんびりしすぎていたからだろうと思う。

　同級生の男子達と雑談しているところを見られた時、「俺という彼氏がいるんだから、他の男と不必要なことを話すのは、あまりいい気分じゃない」と後から言われた。
　朝うっかり照明を消し忘れて、夜遅く帰ってきた時に煌々と点いてた、と失敗を笑い話にしようとしたら、「なんてもったいないことをするんだ」と叱られた。そもそも帰宅が夜遅くになったのも、バイトが終わった後に仲間と無駄話が弾んでしまったからで、「夜道は危険なんだから、もっと身の安全を考えて行動しないと」と諭された。
　全部、きちんとしていなくて、心配させるようなことを考えなしにしてしまう、私が悪い。

　デートで買い物をしていたら、「俺はこういう格好が好きだな」とショウウィンドウを示された。きちんとしていて、清楚な雰囲気で、大人っぽい人が着たら似合いそうだけど、なんだか私らしくない感じ。とりあえず「素敵だね」って返したけど、どう返すのが正解だったのか、未だにわからない。

　付き合い始めて割とすぐ、そういうことを求められたけれど、怖くて。なかなか頷くことができなかった。「付き合ってるんだから、したいと思うのは当然だ」と言われた。そうかもしれない。でも、子供っぽいかもしれないけど、気持ちが追いつくまで待ってほしいと伝えた。彼も待ってくれた。
　結局、クリスマスイヴに初めてして、それから二回したけど、私はセックスがあんまり好きになれなかった。

　ちょっとずつ冷められていくのを肌で感じた。私は人の気持ちに鈍感な方だと思うけど、やっぱりそういうのはわかる。一緒にいて笑顔を浮かべるところを見なくなっていたから。どうしたら笑ってくれるかな、最後の方はそればかり考えてた。
　一月の半ばに「別々の道を歩いた方が、お互い幸せだと思う」と言われ、私と一緒にいても彼が笑顔になることはもうないんだなと思って、別れた。

　付き合っていた期間より別れてからの方が長くなってしまったし、元彼に未練がある訳でもないけれど。私が駄目な人間だから続かなかったんだなと思ってしまって、たまに、苦しくなる。