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本編・きっかけはどうでも
45 Repeat Playback ④
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尚さんは荒い息を吐き、そのまま私の身体に圧し掛かるようにして抱きしめてくる。なんだか夢の中にいるような不可思議な気持ちになるけれど、尚さんから伝い落ちてきた汗が、現実であることを教えてくれる。ぬるい。潤い。匂い。生きている証。
尚さんの身体が重い。でも、愛おしい人の重みはなんて幸せなんだろう。
息が整うと、尚さんは私の目を見、そっとくちづけをして、体重がかからないよう身体を移動させる。楽になったけど、少しだけ寂しい。
「あー……中出し、めちゃくちゃ興奮した」
「中出し……」
「昨日は夢中だったけど、今日はわかっててしたし」
私の顔を見て、尚さんはくすりと笑う。
「割と勘違いされやすいけど、僕はそんなにお上品な人間じゃないよ。俗物」
「俗物……」
確かに、今の尚さんは、普段のイメージとは違う。清廉潔白で平等な雰囲気ではなく、少し悪い笑みを浮かべたり、なんだかちょっと無茶なことも言ってくる、普通の人だ。でも、熱を帯びた甘い瞳で、私だけを見ている。
「明るいうちから、いっぱい駄目なことしちゃったなあ」
「う……」
「共犯」
すこぶる楽しそうな顔の尚さんに抱きしめられる。仲間から共犯に変わってしまった。
どうしよう。駄目なことは、楽しい。
「駄目な部分をたくさん見てもらいたいけど、あきれて逃げられたら困るなあという気持ちもあるから、まあ、小出しにしよう」
「たくさん見てもらいたい? 駄目な部分を?」
「うん。僕は完全な人間じゃないから、律さんに甘えたい」
「甘えたい……」
「うん。駄目な部分を見せるって、そういうことだと思う。僕も律さんのいろんなところが見たいし、荷物を重そうに抱えてたら一緒に持ちたい」
そろそろごはんを食べようと尚さんが言うので、起き上がろうとして、失敗した。
「ちから、はいんない……」
生まれたての小鹿みたいな状態になったのは初めてで、びっくりする。
「大丈夫? 無理させた?」
「ええと……」
無理というか、こんなに丹念に味わわれたことはなかったので、普段使わない筋肉使った感じ。
「そうだ。ちょっと待ってて」
しばらくすると尚さんはカップを手に戻ってきた。
「どうぞ」
受け取ったカップは温かく、ふんわり甘い香りが漂う。
「ミルクティー?」
「そう」
「いただきます」
こくりと飲む。なんだか、これまで一緒に飲んできた紅茶とは違う。きちんと手順を踏んで正確に淹れた感じではない。そんなにきっちりしていないけど、だからこそ気楽で。
「すごくおいしい……」
「よかった。温かいものがいいかと思って」
「うん」
飲み終わると、尚さんはカップを受け取ってサイドボードに置いた。
そして、微笑んでキスをし、私をやわらかく包むように抱きしめて言う。
「律さん」
「なんですか?」
「僕は教授を目指そうと思う」
定年まで准教授のままでいいと言っていたのに。どんな心境の変化だろう。
「律さんとずっと一緒にいたいから、お金と社会的な保障はあるに越したことはない、という現実的な理由と」
ここで尚さんが少し間を空けたので、合いの手を入れるように私は頷く。
「いいコネクタになるには、やっぱり肩書きがある方が有利だなと思って。もっと自分に与えられたものを活かしたいし、研究に力を入れたいんだ」
尚さんは私の頬を愛おしそうにそっとなで、続ける。
「そう思わせてくれたのは、律さんなんだ」
「私?」
「たくさんサポートしてもらって、僕にももっといろいろやれることはあるなって思わされた。そして、きっかけはどうでも、あなたが大切な人であることはもう変わらない。これからずっと」
これからどうするのかなんて、まだ全然決まってないけど。この人の隣が私の居場所だ。
私の顔を見て、彼はにっこり笑った。
尚さんの身体が重い。でも、愛おしい人の重みはなんて幸せなんだろう。
息が整うと、尚さんは私の目を見、そっとくちづけをして、体重がかからないよう身体を移動させる。楽になったけど、少しだけ寂しい。
「あー……中出し、めちゃくちゃ興奮した」
「中出し……」
「昨日は夢中だったけど、今日はわかっててしたし」
私の顔を見て、尚さんはくすりと笑う。
「割と勘違いされやすいけど、僕はそんなにお上品な人間じゃないよ。俗物」
「俗物……」
確かに、今の尚さんは、普段のイメージとは違う。清廉潔白で平等な雰囲気ではなく、少し悪い笑みを浮かべたり、なんだかちょっと無茶なことも言ってくる、普通の人だ。でも、熱を帯びた甘い瞳で、私だけを見ている。
「明るいうちから、いっぱい駄目なことしちゃったなあ」
「う……」
「共犯」
すこぶる楽しそうな顔の尚さんに抱きしめられる。仲間から共犯に変わってしまった。
どうしよう。駄目なことは、楽しい。
「駄目な部分をたくさん見てもらいたいけど、あきれて逃げられたら困るなあという気持ちもあるから、まあ、小出しにしよう」
「たくさん見てもらいたい? 駄目な部分を?」
「うん。僕は完全な人間じゃないから、律さんに甘えたい」
「甘えたい……」
「うん。駄目な部分を見せるって、そういうことだと思う。僕も律さんのいろんなところが見たいし、荷物を重そうに抱えてたら一緒に持ちたい」
そろそろごはんを食べようと尚さんが言うので、起き上がろうとして、失敗した。
「ちから、はいんない……」
生まれたての小鹿みたいな状態になったのは初めてで、びっくりする。
「大丈夫? 無理させた?」
「ええと……」
無理というか、こんなに丹念に味わわれたことはなかったので、普段使わない筋肉使った感じ。
「そうだ。ちょっと待ってて」
しばらくすると尚さんはカップを手に戻ってきた。
「どうぞ」
受け取ったカップは温かく、ふんわり甘い香りが漂う。
「ミルクティー?」
「そう」
「いただきます」
こくりと飲む。なんだか、これまで一緒に飲んできた紅茶とは違う。きちんと手順を踏んで正確に淹れた感じではない。そんなにきっちりしていないけど、だからこそ気楽で。
「すごくおいしい……」
「よかった。温かいものがいいかと思って」
「うん」
飲み終わると、尚さんはカップを受け取ってサイドボードに置いた。
そして、微笑んでキスをし、私をやわらかく包むように抱きしめて言う。
「律さん」
「なんですか?」
「僕は教授を目指そうと思う」
定年まで准教授のままでいいと言っていたのに。どんな心境の変化だろう。
「律さんとずっと一緒にいたいから、お金と社会的な保障はあるに越したことはない、という現実的な理由と」
ここで尚さんが少し間を空けたので、合いの手を入れるように私は頷く。
「いいコネクタになるには、やっぱり肩書きがある方が有利だなと思って。もっと自分に与えられたものを活かしたいし、研究に力を入れたいんだ」
尚さんは私の頬を愛おしそうにそっとなで、続ける。
「そう思わせてくれたのは、律さんなんだ」
「私?」
「たくさんサポートしてもらって、僕にももっといろいろやれることはあるなって思わされた。そして、きっかけはどうでも、あなたが大切な人であることはもう変わらない。これからずっと」
これからどうするのかなんて、まだ全然決まってないけど。この人の隣が私の居場所だ。
私の顔を見て、彼はにっこり笑った。
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