【R18】きっかけはどうでも

テキイチ

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本編・きっかけはどうでも

34 Stop ④

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 10日目の朝。

「だめだ。家にいるとろくなことを考えない」

 そうつぶやいて外に出てみたものの、行く場所を大学しか思いつかない自分にあきれてしまう。行っても先生はいないのに。

「律ちゃん!」

 彩ちゃんの声にびっくりして振り向く。案の定、彩ちゃんは笑顔で手を振ってくれている。声だけで彩ちゃんだとわかったことが、なんだか妙に嬉しかった。

「彩ちゃん」
「こんな時間にどうしたの? 三浦先生のバイトは?」
「先生出張中だから、休み」

 休みなのにどうしてここにいるの? そう問われたら、説明しづらい。気づいたら来ていたなんて、理由になってない。
 私の焦りを吹き飛ばすように、彩ちゃんは素敵な笑顔を浮かべる。

「じゃあ、今、暇?」
「うん」
「それなら、一緒に学食でごはん食べない?」
「いいけど、お友達とか……」
「今日、友達と予定合わないから、一人寂しく食べる予定だったの! 律ちゃんと一緒に食べたい!」

 少し早いけど、今の方が空いてるから。そう言われ、そのまま食堂に連行された。

「ずっと律ちゃんと一緒にごはん食べたかったんだ!」
「そんなの、いつでもいいのに」
「だって連絡先知らないし」

 言われて気づいた。私と彩ちゃんは連絡先を交換していない。テーブルに着くとすぐ、お互いの電話番号とSNSを登録しあった。

「やったー! これから連絡するね!」
「うん。楽しみにしてる」
「すっごいくだんないスタンプ、いっぱい送ろうっと!」
「それはほどほどにして」

 お互いあははと笑いあい、おそろいのハンバーグ定食を食べる。普段お弁当を持参していたけど、食堂で食べるのも気分が変わってよかったかもしれない。

 食べ終わり、ゆっくりお茶を飲む。彩ちゃんも食べ終え、少しぼんやり外を眺めている。改めて見ると、綺麗な顔立ちの子だ。芸能人と言われてもおかしくないような。
 ずっと不思議だった。なぜこの子は私を慕ってくるんだろう。特にこれといって関わりもなかったと思うのに。

「私ねえ、律ちゃんに救われたんだぁ」

 彩ちゃんはぼんやり外を眺めたままそう言った。まさに私の考えていたことに対する答が急に降ってきた気がした。

「救われた?」
「うん。救われた」
「私は何もしてないし、彩ちゃんはいつも笑顔で楽しそうで、困ってる様子なんか全然……」

 彩ちゃんはこちらに向き直り、話を続ける。

「私立中、合格したのに、失敗しちゃって。友達はみんな公立中に行っちゃったし、クラスメイトとは合わないし、勉強もついていけなくて。学校行けなくなっちゃった」

 そういえば、そんな時期もあったな、と思い出す。親戚に情報は筒抜けだ。

「法事とかお盆やお正月とか、顔を出さないと却って面倒になるから行ってたんだけど、親戚のおじさんやおばさんの目が怖くて」

 本当は嫌な目で見られていなかったとしても、いたたまれない気持ちになるのはわかる。まさに今、私自身がそんな状態だから、意地でも帰りたくなくて、一人暮らしの部屋に残り続けている。実家は本家だから、親戚との関わりが避けられない。
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