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本編・きっかけはどうでも
26 Track Down ②
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三浦先生から夕飯をごちそうしていただくことになった。
「お鮨」
「ええ。資料をたくさん見ていただいて、とても助かりましたから、お礼に」
笑顔でおっしゃるので断れない。
大学の近くということだったので、歩いて行った。こぢんまりとしているけれど、綺麗に整えられたお店。知る人ぞ知る、みたいな。
お品書きはあるけれど、値段が書かれていない。時価。これは、高いお店だ。学生に見つかることはないだろう。学生は、入れない。私も、選べない。
「何がお好きですか?」
「特に、これといっては」
「じゃあ、今の季節のおすすめをお願いしましょう。日本酒、大丈夫ですか?」
「はい。辛口が好きです」
「それはよかった。一緒に飲んだ方がおいしいので。冷酒と熱燗、どちらがお好きですか?」
「……冷やが」
先生は辛口の日本酒の冷やを2つ頼んだ。
今日は先生も飲まれるんだ。だから徒歩か。
たぶんすごくおいしいお店なんだと思う。ゆっくり食べ、飲み、先生の話を聞く。笑顔が作れていたか、味も話もどうだったのか、よくわからなかったけど。
「……ごちそうさま、でした」
お店を出て頭を下げると、先生が少し心配そうな目で私を見ている。
「律さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「少し顔色が、悪い気がします」
「そうですか?」
自覚はない。気分は、よくはないけれど、悪くもない。
「タクシー、呼びましょう」
これ以上先生にお金かけさせたくないな。夜風にあたりながら歩けばきっとなんとかなるだろう。そう思い首を振る。
「えーっと……。じゃあ、送りますから。律さん、足元、少しおぼつかない」
どうして私は先生とお酒を飲むと失敗してしまうんだろう。気を楽にしてると飲みすぎるし、緊張しても飲みすぎるし。
「少し、休んでいってもいいですか」
「え……」
近くに公園があったので、ベンチを指す。
先生は一瞬目を見開いたけれど、息を吐き、そうですねと静かに答えた。
ベンチに腰掛け、夜空を眺める。空気が澄んでいるからだろう。星が綺麗。
バイトを始めたのは初秋だった。立春を過ぎたから、もう暦の上では春だ。時の流れは速すぎる。
オリオン座の三つ星が目に入る。等間隔で並んでいるようだけど、地球からそう見えるだけかもしれない。真横の星よりも遠く離れているように見える肩の部分の星の方が近い、なんてこともありうる。実際どうなのか、知らないけど。
宇宙の中で私はすごくちっぽけな存在で、いなくなったところで何も変わらないし、悩んだことも塵芥に過ぎない。
それでも、誰かに聞いてほしい時はある。
「お鮨」
「ええ。資料をたくさん見ていただいて、とても助かりましたから、お礼に」
笑顔でおっしゃるので断れない。
大学の近くということだったので、歩いて行った。こぢんまりとしているけれど、綺麗に整えられたお店。知る人ぞ知る、みたいな。
お品書きはあるけれど、値段が書かれていない。時価。これは、高いお店だ。学生に見つかることはないだろう。学生は、入れない。私も、選べない。
「何がお好きですか?」
「特に、これといっては」
「じゃあ、今の季節のおすすめをお願いしましょう。日本酒、大丈夫ですか?」
「はい。辛口が好きです」
「それはよかった。一緒に飲んだ方がおいしいので。冷酒と熱燗、どちらがお好きですか?」
「……冷やが」
先生は辛口の日本酒の冷やを2つ頼んだ。
今日は先生も飲まれるんだ。だから徒歩か。
たぶんすごくおいしいお店なんだと思う。ゆっくり食べ、飲み、先生の話を聞く。笑顔が作れていたか、味も話もどうだったのか、よくわからなかったけど。
「……ごちそうさま、でした」
お店を出て頭を下げると、先生が少し心配そうな目で私を見ている。
「律さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「少し顔色が、悪い気がします」
「そうですか?」
自覚はない。気分は、よくはないけれど、悪くもない。
「タクシー、呼びましょう」
これ以上先生にお金かけさせたくないな。夜風にあたりながら歩けばきっとなんとかなるだろう。そう思い首を振る。
「えーっと……。じゃあ、送りますから。律さん、足元、少しおぼつかない」
どうして私は先生とお酒を飲むと失敗してしまうんだろう。気を楽にしてると飲みすぎるし、緊張しても飲みすぎるし。
「少し、休んでいってもいいですか」
「え……」
近くに公園があったので、ベンチを指す。
先生は一瞬目を見開いたけれど、息を吐き、そうですねと静かに答えた。
ベンチに腰掛け、夜空を眺める。空気が澄んでいるからだろう。星が綺麗。
バイトを始めたのは初秋だった。立春を過ぎたから、もう暦の上では春だ。時の流れは速すぎる。
オリオン座の三つ星が目に入る。等間隔で並んでいるようだけど、地球からそう見えるだけかもしれない。真横の星よりも遠く離れているように見える肩の部分の星の方が近い、なんてこともありうる。実際どうなのか、知らないけど。
宇宙の中で私はすごくちっぽけな存在で、いなくなったところで何も変わらないし、悩んだことも塵芥に過ぎない。
それでも、誰かに聞いてほしい時はある。
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