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本編・きっかけはどうでも
19 Shuffle ③
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「律さん、ごめんなさい。イケるクチだと思って、勧め過ぎました。完璧に酔っぱらってますよね」
「よってないですよー」
「また、酔っぱらいの定番……」
「せんせえこそ、よってないですかー」
「酔うどころか、一滴も飲んでないです。運転があるので。とりあえず、もう少しで駐車場なので、そこまではお願いします」
先生は少し困った顔をする。あんまり見たことのない表情が面白くて、つい、もっと困らせたくなった。
駐車場に着いたので、車に乗り込む。
「せんせえ!」
「はい」
「あやちゃんからきいたんですけどー、むかしのかのじょにはでにふられていらい、こいびといないそうじゃないですかー」
「……そんな話までバレてる」
先生の困った顔が可愛く見えて、なんだかとても楽しい気分になった。
「わたしもなかまー! せんせいひとりじゃないから、あんしんしてくださーい!」
「え……?」
「よねんつきあったかれしと、けっこんのはなしがうまくできなくて、じばくしていらい、もうこいとかできるきがしませんー」
「……車、出しますね」
先生は何も聞かなかったようにそう言い、運転を始める。
「大学の近所、なんですよね? お家」
「あるいてじゅっぷんくらいですー」
「駅側ですか? それとも山側?」
「えきがわー」
「わかりました。とりあえず近くになったら、またお訊ねしますね」
そんな感じで、紳士な先生は何事もなかったかのように、私を家まで送ってくれたのだけど。
目が覚めた今、ちょっといろんな意味で死にたい。そこそこ酒に強いのがアダになって、記憶はバッチリ残っている。そして、今日は平日で、研究室のバイトも当然ある。
正直、逃亡したい。逃亡したいけど、仕事に穴を開けるのは、失礼極まりないというか余計だめだ。せめて平謝りしよう、と急いでシャワーを浴び、準備をする。
研究室のドアをノックすると、いつも通り穏やかな声で「どうぞ」と言われたので、中に入る。
「おはようございます……」
「おはようございます」
「昨日は大変失礼しました!」
「え、全然……」
「いえ! お詫びのしようもなく……」
「お詫び……」
私の言葉を聞いて、先生はしばらく天井を眺めた。
「でしたら、律さんに2つお願いがあるんですけど」
「は……い?」
先生の目が光ったような気がして、ちょっとたじろいでしまう。
「1つは、これからも昨日のように午後もお仕事していただけませんか。お任せしたい作業はたくさんあるので、とても助かります」
「はい……」
それくらいならいくらでもやる。今まで以上に働こうではないか。
「もう1つは……」
先生がしばらく間をあけるので、とてもどきどきする。死刑執行される罪人は、こういう気分なのだろうか。早く執行してください。
「また食事にお付き合いいただけると、とても嬉しいです。僕は寂しい中年で、一緒にごはんを食べてくれるような仲間もあまりいないので」
「え……」
「仲間、ですよね?」
間抜けな表情を浮かべているだろう私に、先生はいたずらっぽく笑いかけた。
「よってないですよー」
「また、酔っぱらいの定番……」
「せんせえこそ、よってないですかー」
「酔うどころか、一滴も飲んでないです。運転があるので。とりあえず、もう少しで駐車場なので、そこまではお願いします」
先生は少し困った顔をする。あんまり見たことのない表情が面白くて、つい、もっと困らせたくなった。
駐車場に着いたので、車に乗り込む。
「せんせえ!」
「はい」
「あやちゃんからきいたんですけどー、むかしのかのじょにはでにふられていらい、こいびといないそうじゃないですかー」
「……そんな話までバレてる」
先生の困った顔が可愛く見えて、なんだかとても楽しい気分になった。
「わたしもなかまー! せんせいひとりじゃないから、あんしんしてくださーい!」
「え……?」
「よねんつきあったかれしと、けっこんのはなしがうまくできなくて、じばくしていらい、もうこいとかできるきがしませんー」
「……車、出しますね」
先生は何も聞かなかったようにそう言い、運転を始める。
「大学の近所、なんですよね? お家」
「あるいてじゅっぷんくらいですー」
「駅側ですか? それとも山側?」
「えきがわー」
「わかりました。とりあえず近くになったら、またお訊ねしますね」
そんな感じで、紳士な先生は何事もなかったかのように、私を家まで送ってくれたのだけど。
目が覚めた今、ちょっといろんな意味で死にたい。そこそこ酒に強いのがアダになって、記憶はバッチリ残っている。そして、今日は平日で、研究室のバイトも当然ある。
正直、逃亡したい。逃亡したいけど、仕事に穴を開けるのは、失礼極まりないというか余計だめだ。せめて平謝りしよう、と急いでシャワーを浴び、準備をする。
研究室のドアをノックすると、いつも通り穏やかな声で「どうぞ」と言われたので、中に入る。
「おはようございます……」
「おはようございます」
「昨日は大変失礼しました!」
「え、全然……」
「いえ! お詫びのしようもなく……」
「お詫び……」
私の言葉を聞いて、先生はしばらく天井を眺めた。
「でしたら、律さんに2つお願いがあるんですけど」
「は……い?」
先生の目が光ったような気がして、ちょっとたじろいでしまう。
「1つは、これからも昨日のように午後もお仕事していただけませんか。お任せしたい作業はたくさんあるので、とても助かります」
「はい……」
それくらいならいくらでもやる。今まで以上に働こうではないか。
「もう1つは……」
先生がしばらく間をあけるので、とてもどきどきする。死刑執行される罪人は、こういう気分なのだろうか。早く執行してください。
「また食事にお付き合いいただけると、とても嬉しいです。僕は寂しい中年で、一緒にごはんを食べてくれるような仲間もあまりいないので」
「え……」
「仲間、ですよね?」
間抜けな表情を浮かべているだろう私に、先生はいたずらっぽく笑いかけた。
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