【R18】きっかけはどうでも

テキイチ

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本編・きっかけはどうでも

07 Track Up ①

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 東棟の4階は、ここでいいんだろうか。建物が古いので、ちょっと自信が持てない。奥へ進んでいくと「三浦研究室」というプレートがあったので、ほっとしてドアをノックする。
 ほんの少し間があって、どうぞ、と声を掛けられたので、ドアを開ける。

「おはようございます。お待ちしていました」

 三浦先生は笑顔で対応してくださった。

「おはようございます。よろしくお願いいたします」
「まず、バイトの登録書類にご記入いただいて、今日はデータ入力をお願いしようと思っています」
「かしこまりました」

 登録書類に必要事項を記入し、提出すると、ノートパソコンとケーブルと封筒を渡された。

「古い型で恐縮ですが、作業はこれでお願いします。印刷もプリンタとつなげばすぐできますから」
「ありがとうございます」

 パソコンの電源ボタンを押し、しばらくすると起動したので、WindowsキーとEのキーを同時に押す。Pauseキーがあれば一発なのになあと思いつつ、システムのプロパティを開く。スペックを確認したかったのだ。このくらいでも大丈夫ということは、そう難しい作業ではないんだなとあたりをつける。

 封筒の中身は公開講座のアンケートだった。昨日のものだけではなくて、それ以前のものも併せて3回分。

「入力を溜めてしまっていて。申し訳ないです」

 先生が本当に申し訳なさそうな表情を浮かべるので、あわてて否定する。

「いいえ、それは全然。どんな風に集計するか、決まりやフォーマットはありますか?」
「いえ、特には。これ以前のアンケート入力は学生に任せていたのですが、どうもわかりにくくて。むしろ改善していただけると、とても助かります」
「そのデータはどこにありますか?」
「これです」

 指し示されたフォルダを開いて唖然とした。
 これはひどい。単に記入内容を順番に打ち込んでいるだけではないか。しかもWordのみだから集計できない。
 先生がご自身の席に戻ってからファイルを閉じ、アンケート用紙の左上に通し番号を振った。データをExcelに入力して、通し番号と内容を照らし合わせ、入力ミスがないかチェックをする。よし、問題なし。データをWordにまとめ、印刷する。

「終わりました」
「え? もうですか?」
「枚数が少なかったですし、記入内容もそう複雑ではなかったので。こんな感じでよいですか?」

 印刷したものを先生に渡すと、先生は私の声なんか耳に入らないかのように、資料に目を通している。

「うわあ、わかりやすい! お任せでここまでやっていただけて、しかもこの早さ! 本当に来ていただいてよかったです!」

 明らかに歓喜の声で、こっちがびっくりする。
 単純に各項目で有益そうな意見を抜粋し、グラフを貼りつけただけでこれって。喜びの閾値が低すぎる。

「正直、抜粋できる意見がそんなになかったので、時間もかからなかったんですよ」

 そう。ほとんどの人が「面白かったです」とか「ありがとうございました」しか書いていなかった。アンケートの記入なんて、普通その程度しかしないものなんだなと実感した。というか、自分の意見がめちゃくちゃ気合い入ってたみたいで、入力していて恥ずかしくなってしまった。
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