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本編・きっかけはどうでも
03 Pause ③
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へえ。「目には目を」って、敵討ちみたいな意味じゃないんだ。
その後も、相手の目を潰した場合、罰の上限が目を潰されるところまでと規定されているだけであるとか、聖書で引用されている「目には目を」が攻撃的な文脈であるのが誤解の原因なのではないか等々、素人の私にも想像しやすく説明してくれる。
さすが先生、話すことに慣れてる。そして、流れるように進んでいくから、その場その場はなるほどと思うんだけど。でも。
「よろしければ、お手元のアンケートのご記入にご協力いただければと思います」
先生の言葉に少しびっくりする。ひさびさに集中して聞き入ってしまい、あっというまに講義が終わってしまった。テレビの流しっぱなしとは全然違う。
「アンケートねえ……」
今回の公開講座を何で知りましたか、会場までどのような手段でおいでになりましたか等々、列挙されている。
アンケートを見ると、つい、具体的に記入すべきと思ってしまう。よかった点も、悪かった点も。向こうも仕事で取ってる訳だし。自由記述欄が結構多めだから書こうかな、と思ってしまったのがいけなかった。
真剣に記入しすぎてしまい、書き終わって顔を上げると、会場には私と従姉妹しかいない。いや、あと一人……話してくださった先生ご自身が前で待っている。
「……ごめん。書き出したら、つい、止まらなくなって……」
「先生、絶対喜ぶ! 出しに行こう!」
従姉妹は元気よく立ち上がると、私を半ば無理矢理、先生の方へ引っ張っていった。
「三浦先生!」
「高橋さん」
「あの、私の従姉妹なんですけど! すっごくいっぱいアンケート書いてくれて!」
彩ちゃんがアンケートを提出させようとするので、私は先生に無言で差し出す。
「従姉妹ってもしかして……」
先生はアンケートを受け取ると、一瞬目を見開いた。紙をめくり、裏面にもびっちり記入があることを確かめ、もう一度私に向き直る。
「ありがとうございます。こんなにたくさん書いていただいたの、初めてです」
本当に嬉しそうに微笑んでくださるので、書いてよかったのかな、と思う。
「律ちゃん、今、暇なんだよね?」
従姉妹が私にそっと訊ねてくる。
「まあ、無職だし……」
「先生! バイト、従姉妹に頼んでみたらどうですか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの子は。そう思っていると、先生はなるほどとつぶやき、私に話しかけてくる。
「それはいい案ですね。あの、今からお時間ありますか? この教室、退出時刻がもう迫っているので、近所の喫茶店にでも」
行きませんかと訊ねられる。
暇ならいくらでもある。とはいえ、初めてお会いした方とお茶……? よくわからない展開に、少したじろいでしまう。
けれども、先生ににっこりと微笑まれると、まあいいや、という気になった。だって暇だし。
その後も、相手の目を潰した場合、罰の上限が目を潰されるところまでと規定されているだけであるとか、聖書で引用されている「目には目を」が攻撃的な文脈であるのが誤解の原因なのではないか等々、素人の私にも想像しやすく説明してくれる。
さすが先生、話すことに慣れてる。そして、流れるように進んでいくから、その場その場はなるほどと思うんだけど。でも。
「よろしければ、お手元のアンケートのご記入にご協力いただければと思います」
先生の言葉に少しびっくりする。ひさびさに集中して聞き入ってしまい、あっというまに講義が終わってしまった。テレビの流しっぱなしとは全然違う。
「アンケートねえ……」
今回の公開講座を何で知りましたか、会場までどのような手段でおいでになりましたか等々、列挙されている。
アンケートを見ると、つい、具体的に記入すべきと思ってしまう。よかった点も、悪かった点も。向こうも仕事で取ってる訳だし。自由記述欄が結構多めだから書こうかな、と思ってしまったのがいけなかった。
真剣に記入しすぎてしまい、書き終わって顔を上げると、会場には私と従姉妹しかいない。いや、あと一人……話してくださった先生ご自身が前で待っている。
「……ごめん。書き出したら、つい、止まらなくなって……」
「先生、絶対喜ぶ! 出しに行こう!」
従姉妹は元気よく立ち上がると、私を半ば無理矢理、先生の方へ引っ張っていった。
「三浦先生!」
「高橋さん」
「あの、私の従姉妹なんですけど! すっごくいっぱいアンケート書いてくれて!」
彩ちゃんがアンケートを提出させようとするので、私は先生に無言で差し出す。
「従姉妹ってもしかして……」
先生はアンケートを受け取ると、一瞬目を見開いた。紙をめくり、裏面にもびっちり記入があることを確かめ、もう一度私に向き直る。
「ありがとうございます。こんなにたくさん書いていただいたの、初めてです」
本当に嬉しそうに微笑んでくださるので、書いてよかったのかな、と思う。
「律ちゃん、今、暇なんだよね?」
従姉妹が私にそっと訊ねてくる。
「まあ、無職だし……」
「先生! バイト、従姉妹に頼んでみたらどうですか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの子は。そう思っていると、先生はなるほどとつぶやき、私に話しかけてくる。
「それはいい案ですね。あの、今からお時間ありますか? この教室、退出時刻がもう迫っているので、近所の喫茶店にでも」
行きませんかと訊ねられる。
暇ならいくらでもある。とはいえ、初めてお会いした方とお茶……? よくわからない展開に、少したじろいでしまう。
けれども、先生ににっこりと微笑まれると、まあいいや、という気になった。だって暇だし。
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