【R18】取り違えと運命の人

番外編・取り違えと運命の人 小話集

197 My Funny Valentine ①

「取り違えたその後の二人」の「ぶらり二人旅」のしばらく後あたりのお話。

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　今日は友達のアンナ・ビアンカ・キアラと私の四人でひさしぶりにお茶をしている。
　以前の私達は、会っている時に仕事の話を一切しなかった。たぶん、みんな、純粋に会合を楽しみたかったからだと思う。でも、最近は仕事の話も結構するようになっている。リカルドのスーツを仕立てた時に「キアラに技術を教えてもらえてすごくよかった」と私が切り出したあたりから、仕事の話もしていいんだという空気に変わったのだ。

　仕事は生活の一部だし、なにより同業者なのだから、全くふれないのは却って不自然だったのかもしれない。製作する洋服のジャンルは違っても、技術や業界の情報は役に立つ。他のみんながこぼす悩みはわかるなあと共感するし、逆に慰めてもらって心が軽くなることもある。仕事の話もするようになってからの方が、私達の仲はより深まったように感じていて、嬉しい。

「相変わらずビアンカのお店は大人気ね」
「この前通りかかった時もすごい人だかりで、さすが男子殺しの戦闘服の申し子だと思った」
「今はバレンタイン前だから、書き入れ時！　嬉しい悲鳴！」
「バレンタイン？」

　私が訊ねると、ビアンカは笑顔で教えてくれる。

「もともとは西方の国の行事で、恋人達を祝福する日、かな？　こういう行事には乗っかれる限り乗っかっていこうと思って」
「なにもない時はどうするの？」
「『お二人の記念日にこんな服はいかがでしょう？』とか『なにもない時こそ自分のために素敵な服を！』みたいな感じでマネキンにコーディネートする。私が流行を作る！」
「商魂たくましい。それでこそビアンカ」

　私の両親は忙しい上、記念日の類に全く興味を持っていないので、実家では誕生日すらなにもしなかった。リカルドはまめで、なにかと理由をつけては、お土産を買ってきたり、一緒に出掛けたりしてくれる。リカルドと暮らし始めてから一緒になにかをすることが激増したし、記念日や季節の行事が気になるようになってきた。
　リカルドは恋人という存在にすごく憧れがあるみたいだし、バレンタインもお祝いしてみようかな。