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後日譚・取り違えたその後の二人
133 ぶらり二人旅 ⑩ (人生を変えてくれた人・その1)
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「今からどうしても行きたいところがあるんだけど」
宿にチェックインして、荷物を下ろすなり、リカルドがおうかがいを立ててくる。
「いいよ。もちろん」
「よかった! せっかくきちんとした格好だから今日会いに行きたいし、時間もちょうどいいしで、もし難色を示されたらどう攻略しようかと、ひそかに画策しておりました」
「なに急に政治家の秘書みたいな口調になってるの?」
「それくらい会ってもらいたい人がいるんだ」
「わかった。じゃあ、ちょっとお化粧直しするね」
お昼を食べたし、だいぶ時間がたって、お化粧崩れてきてるはず。
「別にそんなことしなくても、ジュリエッタは綺麗だけどなあ」
「リカルドの大事な人なんでしょ? きちんとしてお会いしたいじゃない」
「うん。ありがとう」
準備が済むと、リカルドから声を掛けられた。
「俺の住んでた町、案内したいから、歩きでいい? あ……」
リカルドは私の足元を見ると、心配そうな表情に変わった。
「大丈夫。少しヒールあるけど、割と歩きやすいんだよ、この靴」
「そっか、よかった」
宿からゆっくり歩いて移動する。商店町を通る時、みなさんにいかにお世話になったかを少しずつ話してくれた。「ここのパン屋さんはすごくおいしくて朝行列ができるから、さばいてた時期があったんだ」とか「ここの新聞屋さんの配達で持久走が得意になったんだ」とか「本屋さんって楽そうに見えて、返品処理は体力勝負なんだよ」とか「あそこの定食屋のまかない、残り物だったんだけどすごくおいしくて、客に来てほしいような来てほしくないような複雑な心境だった」とか、リカルドのバイト経験の多さにびっくりする。
「どうしてそんなにバイトしてたの?」
「母ちゃんが病気だった頃、父ちゃんが仕事詰めすぎて倒れた日があって。もっと余裕持たせなきゃ! と思って、朝と放課後に子供でもできるバイトを斡旋してもらったんだ」
私の表情を見て、リカルドがあわてて弁解する。
「あ! みなさんものすごく親切で、たぶん、ほんとだったらしなくていいようなことにお駄賃くれてたと思うんだ。俺のためっていうより、父ちゃんと母ちゃんの人望」
当時は、俺すっげー働いてる! って思ってたんだけどね、とリカルドは苦笑いしてたけど。家族のために一生懸命がんばってるリカルド少年がありありと目に浮かんで、私は思わず泣き笑いになった。
「着いた」
リカルドがどうしても行きたいといって、私を連れてきてくれたのは、学校だった。
「俺の人生を変えてくれた人が、ここにいるんだ」
「先生?」
「そう」
あ、またアポイント取り忘れた、でも、まあ先生なら許してくれるだろ、とか、リカルドはひとりごちてる。
廊下を抜けると小さな教室があって、そこに件の先生がおられた。眼鏡とスーツが板についた、真面目そうな方。どうも、生徒の勉強を見ておられるご様子。
「懐かしいな。俺も、あんなふうに見てもらってたんだ」
「放課後に?」
「そう。勉強したいけど経済的な余裕がない生徒を、順番に見てくれてた。同級生のアンドレアもそんな風に見てもらってた一人で、神殿の町の上級学校に進学したんだ」
「すごいね」
「先生が来られてから、この町の進学率、ものすごく上がったんだ。Uターンしてきたヤツが町興ししたりして活気も出たし、先生は影の功労者なんだよ」
そんな話をしているうちに、勉強の時間が終わったみたいで、生徒が笑顔で帰っていった。
「先生!」
リカルドの声に、先生がこちらを振り返り、目を細める。
「リカルド! えらくきちんとした格好をして。見違えたよ!」
「俺、先生みたいにスーツを着こなすのが、憧れだったんですよ!」
先生と並んでるリカルド、本当に嬉しそうだなあ。大好きなのが見てるだけで伝わってくる。
「ジュリエッタ! こちらがロベルト先生!」
私に紹介してくれるリカルドが、すっかり少年の顔になっていて、思わず微笑んでしまう。
宿にチェックインして、荷物を下ろすなり、リカルドがおうかがいを立ててくる。
「いいよ。もちろん」
「よかった! せっかくきちんとした格好だから今日会いに行きたいし、時間もちょうどいいしで、もし難色を示されたらどう攻略しようかと、ひそかに画策しておりました」
「なに急に政治家の秘書みたいな口調になってるの?」
「それくらい会ってもらいたい人がいるんだ」
「わかった。じゃあ、ちょっとお化粧直しするね」
お昼を食べたし、だいぶ時間がたって、お化粧崩れてきてるはず。
「別にそんなことしなくても、ジュリエッタは綺麗だけどなあ」
「リカルドの大事な人なんでしょ? きちんとしてお会いしたいじゃない」
「うん。ありがとう」
準備が済むと、リカルドから声を掛けられた。
「俺の住んでた町、案内したいから、歩きでいい? あ……」
リカルドは私の足元を見ると、心配そうな表情に変わった。
「大丈夫。少しヒールあるけど、割と歩きやすいんだよ、この靴」
「そっか、よかった」
宿からゆっくり歩いて移動する。商店町を通る時、みなさんにいかにお世話になったかを少しずつ話してくれた。「ここのパン屋さんはすごくおいしくて朝行列ができるから、さばいてた時期があったんだ」とか「ここの新聞屋さんの配達で持久走が得意になったんだ」とか「本屋さんって楽そうに見えて、返品処理は体力勝負なんだよ」とか「あそこの定食屋のまかない、残り物だったんだけどすごくおいしくて、客に来てほしいような来てほしくないような複雑な心境だった」とか、リカルドのバイト経験の多さにびっくりする。
「どうしてそんなにバイトしてたの?」
「母ちゃんが病気だった頃、父ちゃんが仕事詰めすぎて倒れた日があって。もっと余裕持たせなきゃ! と思って、朝と放課後に子供でもできるバイトを斡旋してもらったんだ」
私の表情を見て、リカルドがあわてて弁解する。
「あ! みなさんものすごく親切で、たぶん、ほんとだったらしなくていいようなことにお駄賃くれてたと思うんだ。俺のためっていうより、父ちゃんと母ちゃんの人望」
当時は、俺すっげー働いてる! って思ってたんだけどね、とリカルドは苦笑いしてたけど。家族のために一生懸命がんばってるリカルド少年がありありと目に浮かんで、私は思わず泣き笑いになった。
「着いた」
リカルドがどうしても行きたいといって、私を連れてきてくれたのは、学校だった。
「俺の人生を変えてくれた人が、ここにいるんだ」
「先生?」
「そう」
あ、またアポイント取り忘れた、でも、まあ先生なら許してくれるだろ、とか、リカルドはひとりごちてる。
廊下を抜けると小さな教室があって、そこに件の先生がおられた。眼鏡とスーツが板についた、真面目そうな方。どうも、生徒の勉強を見ておられるご様子。
「懐かしいな。俺も、あんなふうに見てもらってたんだ」
「放課後に?」
「そう。勉強したいけど経済的な余裕がない生徒を、順番に見てくれてた。同級生のアンドレアもそんな風に見てもらってた一人で、神殿の町の上級学校に進学したんだ」
「すごいね」
「先生が来られてから、この町の進学率、ものすごく上がったんだ。Uターンしてきたヤツが町興ししたりして活気も出たし、先生は影の功労者なんだよ」
そんな話をしているうちに、勉強の時間が終わったみたいで、生徒が笑顔で帰っていった。
「先生!」
リカルドの声に、先生がこちらを振り返り、目を細める。
「リカルド! えらくきちんとした格好をして。見違えたよ!」
「俺、先生みたいにスーツを着こなすのが、憧れだったんですよ!」
先生と並んでるリカルド、本当に嬉しそうだなあ。大好きなのが見てるだけで伝わってくる。
「ジュリエッタ! こちらがロベルト先生!」
私に紹介してくれるリカルドが、すっかり少年の顔になっていて、思わず微笑んでしまう。
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