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本編・取り違えと運命の人
095 リカルド日記(抜粋) ③
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○月×日
卒業後、働き始めて一か月経った。現場での作業はなかなか要領を得なくて大変だけど、とてもやりがいがある。
進学をやめると言った時、父ちゃんは一瞬とても悲しそうな顔になり、静かに「そうか」と答えた。「俺は一日も早く現場で働きたいんだ。ずっと憧れてた仕事だから」と返すと、「そうか」と少し微笑んでくれた。
今日は初めての給料日。父ちゃんの好きな酒を買った。もう何年も飲んでるの見たことないから、一緒に飲むのがとても楽しみだ。
○月×日
給料日のたびに父ちゃんと晩酌するのがお決まりになった。ささやかな贅沢。いつも無口な父ちゃんも、酔うと少し饒舌になる。そして、必ず同じ自慢をするのだ。
「母ちゃんに会った瞬間、こんな美人が俺の嫁さんになるのかと、一生分の幸運使い果たした気分になった!」
なんだか微笑ましくて、つい聞き入ってしまう。
「でも、そうじゃなかったと、お前が生まれた時にわかったよ」
父ちゃんは絶対にこう続けてくれるのだ。たぶん本人は酔っぱらっていて、自分の言っていることや、そのたびに俺が瞳を潤ませていることなんて、覚えていない。
「早くお前の運命の相手、見つかるといいな」
「なかなか見つからないみたいだけど、それまで働いて金貯めろってことなんじゃないかな、たぶん。気長に待ってるよ」
十八になったその日に神託の申し込みをした。けど、一年経った今も音沙汰なしだ。すぐに見つかる人もいれば、何年も待たされる人もいるようなので、きっと俺は後者なのだろう。
「でも、早く会いたいし、父ちゃんにも会わせたいな」
「そうだな。優しい子だといいな」
「きっと母ちゃんに負けないくらい優しくて素敵な子だよ」
そうこうしているうちに、父ちゃんが寝てしまったので、寝床に運ぶ。
○月×日
あまりにも突然のことだったので、未だに気持ちの整理がつかない。
新しく導入した機械が誤作動して、父ちゃんが巻き込まれた。
俺に機械のことが分かれば、誤作動を防げて、助かったかもしれないのに。
日々の仕事をこなすことで精一杯で、本来の目的だった資格を取ることや新しい機械の操作の勉強なんか、全くしてなかった。
職場のみなさんは、俺を小さい頃からよく知っているからか、とてもよくしてくださる。お礼を言うと、必ずみなさんこう返してくださるのだ。
お前の父ちゃんには世話になったからな。
父ちゃんと、職場のみなさんと、なにより俺自身のために、勉強しようと決意した。
○月×日
今日は資格試験の合格発表日だった。結果を見、その足で父ちゃんと母ちゃんの墓前に走った。目の下クマだらけで、職場のみなさんに心配かけてたから、明日安心させなければ。
○月×日
資格があると、扱える機械が増えるし、現場の作業も効率化できる。これから他の資格も取ろうと決意を新たにする。
上級学校に進学していたら、資格や技術の習得が現場に入る前にある程度できたから、やっぱりよかったのかな、と思うこともあった。でも、父ちゃんの運命が変わらなかったなら、進学していたら一緒に働くことはできなかった。
やっぱりこの選択でよかったんだと思う。というか、提示された運命と選択した道以外はなくなっていくのだから、その後最善を尽くすしかない。
卒業後、働き始めて一か月経った。現場での作業はなかなか要領を得なくて大変だけど、とてもやりがいがある。
進学をやめると言った時、父ちゃんは一瞬とても悲しそうな顔になり、静かに「そうか」と答えた。「俺は一日も早く現場で働きたいんだ。ずっと憧れてた仕事だから」と返すと、「そうか」と少し微笑んでくれた。
今日は初めての給料日。父ちゃんの好きな酒を買った。もう何年も飲んでるの見たことないから、一緒に飲むのがとても楽しみだ。
○月×日
給料日のたびに父ちゃんと晩酌するのがお決まりになった。ささやかな贅沢。いつも無口な父ちゃんも、酔うと少し饒舌になる。そして、必ず同じ自慢をするのだ。
「母ちゃんに会った瞬間、こんな美人が俺の嫁さんになるのかと、一生分の幸運使い果たした気分になった!」
なんだか微笑ましくて、つい聞き入ってしまう。
「でも、そうじゃなかったと、お前が生まれた時にわかったよ」
父ちゃんは絶対にこう続けてくれるのだ。たぶん本人は酔っぱらっていて、自分の言っていることや、そのたびに俺が瞳を潤ませていることなんて、覚えていない。
「早くお前の運命の相手、見つかるといいな」
「なかなか見つからないみたいだけど、それまで働いて金貯めろってことなんじゃないかな、たぶん。気長に待ってるよ」
十八になったその日に神託の申し込みをした。けど、一年経った今も音沙汰なしだ。すぐに見つかる人もいれば、何年も待たされる人もいるようなので、きっと俺は後者なのだろう。
「でも、早く会いたいし、父ちゃんにも会わせたいな」
「そうだな。優しい子だといいな」
「きっと母ちゃんに負けないくらい優しくて素敵な子だよ」
そうこうしているうちに、父ちゃんが寝てしまったので、寝床に運ぶ。
○月×日
あまりにも突然のことだったので、未だに気持ちの整理がつかない。
新しく導入した機械が誤作動して、父ちゃんが巻き込まれた。
俺に機械のことが分かれば、誤作動を防げて、助かったかもしれないのに。
日々の仕事をこなすことで精一杯で、本来の目的だった資格を取ることや新しい機械の操作の勉強なんか、全くしてなかった。
職場のみなさんは、俺を小さい頃からよく知っているからか、とてもよくしてくださる。お礼を言うと、必ずみなさんこう返してくださるのだ。
お前の父ちゃんには世話になったからな。
父ちゃんと、職場のみなさんと、なにより俺自身のために、勉強しようと決意した。
○月×日
今日は資格試験の合格発表日だった。結果を見、その足で父ちゃんと母ちゃんの墓前に走った。目の下クマだらけで、職場のみなさんに心配かけてたから、明日安心させなければ。
○月×日
資格があると、扱える機械が増えるし、現場の作業も効率化できる。これから他の資格も取ろうと決意を新たにする。
上級学校に進学していたら、資格や技術の習得が現場に入る前にある程度できたから、やっぱりよかったのかな、と思うこともあった。でも、父ちゃんの運命が変わらなかったなら、進学していたら一緒に働くことはできなかった。
やっぱりこの選択でよかったんだと思う。というか、提示された運命と選択した道以外はなくなっていくのだから、その後最善を尽くすしかない。
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