上 下
88 / 201
本編・取り違えと運命の人

087 本当の運命の人 ①

しおりを挟む
 春野菜、多めに蒸しといて、味もつけてなくてよかった。
 腹が減っては戦ができぬ、ということで、まずはお二人に夕飯を食べていただくことにした。ルーカさんは温野菜をうまく活用して、自分用にスパゲティと明日の朝食としてグラタンを作っていた。なるほど、乾麺と小麦粉のストックはあったんだな。ジュリエッタさんはベジタリアンじゃないみたいで、私の作ったものをまんべんなく食べている。

「どれもすごくおいしい!」
「ありがとうございます」
「すごく、リカルドさんへの愛情を感じますよね」
「ルーカさん、ほとんど食べてないのに」
「食べてないけど、手をかけてるのはわかりますよ。彩りがいいし、バリエーション豊かだし、どの食材もすごく丁寧に切られてて、盛りつけも気を配ってるじゃないですか」

 ルーカさん、そんな風に思いながら見てくれてたんだ。全然気づかなかった。

「他の人が見ても、わかるんだね!」

 リカルドがにっこにこの笑顔で言うから、なんか無性に照れる、というか、ひさしぶりに恥ずか死にそうな気持ちになった。

「ええと、神託を覆すには、どうすればいいんでしょうね」

 お二人が食事を終えたので、さっそく作戦会議に入る。

「神殿では興奮してて忘れてたんだけど。私、ちょっと気になることがあるの」

 そうジュリエッタさんが切り出したので、訊ね返す。

「気になること、ですか?」
「どうして、二人は、魔法球が入れ替わってることに気づかなかったのかしら」
「「そりゃ、そっくりだから」」

 男性陣二人が声を揃えて言う。そして、どさくさに紛れて結局返却しそびれてしまった魔法球を、それぞれ取り出して見せてくれる。確かにそっくりで、入れ替わってもわからなそう。これを見分けるなんて無理だ。

「俺、ジュリエッタと話すのが楽しみだったから、魔法球に質問してないんです。ルーカさんも、基本情報しか見てないんですよね?」
「ええ。俺は、単に面倒だっただけだけど」
「そりゃ、ただのガラス玉だったら、見分けられなくても仕方ないけど。でも、これ、魔法球なんだから、そんな簡単に入れ替わる訳、ないのよ」
「どういうことですか?」

 意味がわからなくて、思わずジュリエッタさんに訊ねる。

「そんな簡単に入れ替え可能なら、役所で本人確認に使える訳ないでしょ。所有者が誰かを判別させる魔法がかけられてるのよ」
「判別?」

 ますます意味がわからない。どういうことかしら?
 ジュリエッタさんはその魔力を利用して、呪術師を生業としているそうだ。だから、魔法が関わる事例について、一般人よりはるかに詳しい。もちろんそれは、魔法球についても例外ではなかった。

「リカルドとルーカ、魔法球交換してみて」

 言われた通り、二人は魔法球を交換する。

「そのまま、反対方向に歩いて離れていって」

 素直に二人は離れていく。

「熱っ!」

 リカルドが声を上げ、魔法球を落とす。落ちた魔法球はゆっくりとルーカさんの方に転がっていった。

「痛っ!」

 今度はルーカさんが声を上げ、魔法球を落とす。そのまま魔法球は飛び跳ねるように動いて、リカルドの前に落ちた。

「こういうことよ」

 魔法球は所有者のそばを離れると、熱を持ったり、異常に光ったり、すごい勢いで元の所有者の方に転がっていったり、なんらかの拒絶反応を起こす。だから、入れ替わったら普通気づく、のだそうだ。

「でも、二人は取り違えたことに、ちっとも気づかなかった」
「「確かに全く」」
「あの……もしかして、魔法球が取り違えた後の相手を、所有者だと認めてるってことですか?」

 おずおずと訊ねてみると、ジュリエッタさんがにっこりと笑った。

「そうなんじゃないかなって、思ってるの」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

優しい先輩に溺愛されるはずがめちゃくちゃにされた話

片茹で卵
恋愛
R18台詞習作。 片想いしている先輩に溺愛されるおまじないを使ったところなぜか押し倒される話。淡々S攻。短編です。

処理中です...