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本編・取り違えと運命の人

078 取り違え ②

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 案内されて中に入ると、若い女の子の声が聞こえる。神聖な雰囲気をぶち壊すような、結構大きな声。

「そんなはずないでしょう? ルーカはちゃんと魔法球を持ってきたし、役所でも特になにも言われなかったって」
「ただの役人には魔法球の真贋なんて見分けられませんからね」
「なによ! この魔法球が偽物だって言うの?」
「いえ、魔法球そのものは本物なんですが……」

 係の人が若い女の子の対応をしているもう一人に声を掛けた。

「神のお引き合わせか、ちょうど問題のもう一組も、今日、おいでになっていた」

 問題のもう一組、、、、、、、
 なんだか胸騒ぎがする。
 しゃべっていたのが若い女の子だっただけで、その横にもう一人若い男の人がいた。係の人の声に、若い女の子がこちらを振り返る。

「あ、さっきの……」

 美少女ロリ巨乳と王子様だ。美少女、ゴリゴリに気が強そうで、見た目の儚げなイメージと全然違うんですけど。

「どうやら魔法球の取り違えが起きておりまして。本来、リカルドさんが持っているべき魔法球をルーカさんが、ルーカさんが持っているべき魔法球をリカルドさんが持っているようなんです」

 私達を案内してくれた係の人がそう言うと、美少女ロリ巨乳の対応をしていた係の人が、続ける。

「先程、ルーカさんが魔法球の返却に来られたので、こちらの記録と照合してみたところ、判明しました」

 取り違えって?
 魔法球は、運命の相手についての情報が搭載されているもの、なんでしょう?

「俺も、魔法球の返却、しようと思っていたので、今日、持ってきてます」

 リカルドは袋から魔法球を取り出した。思わずリカルドを見つめる。

「魔法球、資源に限りがあるから、なるべく神殿に来た時返却してくれって、もらった時頼まれてたんだ。俺、魔法球、使う気なかったし」

 リサイクルですか。
 リカルドの魔法球を美少女ロリ巨乳の対応をしていた係の人が神殿の記録と照合する。

「やはり、こちらがルーカさんに渡された魔法球です」
「でも、魔法球に私の名前が……」

 あわてて係の人達にそう訴える。

「こちらのお嬢さんも、ジュリエッタさん、なんです」

 同じ名前。

「生年月日は……」

 驚いたことに、これも同じ。

「でも、他の情報訊ねれば、違うってわかるはずで」

 そこまで言って、はっと気づいた。リカルドは私との会話を楽しみにしてくれてたから、基本情報の三つしか見てない。位置と方向なんて相手が動けば変わるから、そんなに気にしないだろうし。

「俺、細かいことは本人に聞けばいいと思ってたから、魔法球に訊ねてないんです」

 向こうの男性、ルーカさんが、リカルドと似たようなことを言う。

「あの……もしかして、駅でぶつかった……」

 ずっと思案顔だったリカルドが、相手の男性に話しかける。

「どこかで見たことある気がすると思ったら」

 相手も腑に落ちた様子。

「もしかして、あのぶつかって荷物ぶちまけた時に……あなたの魔法球と俺の魔法球が、入れ替わってしまった……?」
「俺、自分しか、魔法球持ってないと思ってたから、目についたのが自分のだと……」

 確かに、リカルドは家に初めて来た日、人とぶつかったり、荷物ぶちまけたりしたって言ってた。列車を乗り間違って遅くなったとも言ってたけど、もしかして、向こうの、、、、ジュリエッタさんの、、、、、、、、、家に行くための列車だとしたら、正しかった……?

「で、でも、一年も経ってそんなこと言われても」

 もうお互い暮らし始めてしまっているし、このままで、いいよね? と言おうとして、リカルドの方を見たことを、後悔した。
 こんなに表情のないリカルドを、私は初めて見た。

「この組み合わせが、本当の運命の人同士、なんですよね……?」

 しばらく押し黙っていたリカルドが、神殿の人に念を押すように訊ね、そうだと言われる。
 リカルドは決意を固めたように口を開いた。

「ルーカさん」

 リカルドは私の「本当の運命の人」に向かって、深く頭を下げ、続ける。

「ジュリエッタ、ほんとに、いい子なんです。どうか、大切にしてあげてください」

 この一年、特に大きななにかがあった訳じゃない。でも、なにげない日常が、リカルドと一緒なだけでとても楽しく感じて、かけがえのない一年だったと思う。二人の仲もよくて、お互い仕事もうまくいってる。なんの不満もない平穏な日々。これがずっと続くんだったら、きっと幸せな人生なんだろう。

 そんな風に思ったのは、ごく数日前だったのに。

「では、今日から本当の組み合わせで、生活を……」

 神殿の係の人がなにか言ってるようだったけど、耳に入らなかった。
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