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本編・取り違えと運命の人

068 来る年 ①

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「夕飯準備するから。お風呂のお湯たまったら、リカルドは先に入っといて」
「うん、お願いします。それまで俺、部屋にいるね」

 リカルドはすぐ自室に向かった。普段は「他にすることは?」みたいに聞いてくるのに。ちょっと疲れてるんじゃないかな。

「豚肉は塩水に漬けたから年明けに燻すとして。せっかく牛肉いいやつみたいだから、シンプルに塩コショウで焼くだけでいいかも。あとは昨日作っておいたスープとサラダと常備菜があるし、買ってきたケーキもあるし、今日はそこまで作らなくてもいいや」

 塊肉、結構な量があるけど、新鮮だからまだ日持ちしそう。今日無理矢理いろいろ作るより、明日もあるし、明後日もあるんだから、ちょっとずつ味つけ変えて楽しんだらいいよね。無理すると後が続かないもんなあ。

 リカルドと暮らし始めた最初の頃を思い出す。初日にごはんいっぱい作って出迎えて、あんまり喜ばれたから、しばらくごはん作るの、つい、がんばりすぎちゃったんだよね。

『ジュリエッタの料理、おいしいから、出されたら全部食べちゃうけど、俺、別に凝った料理じゃなくていいし、品数もそんなに多くなくていいんだ。量はあると嬉しいけど』

 リカルドがこう言ってくれて、正直、ちょっとほっとした。会話下手だって引け目があったから、確実に喜んでくれる料理で挽回しなきゃ、みたいな意識があったんだ。そのうち自然にしゃべれるようになって、むしろばかみたいな掛け合いもするし、黙って一緒にいるのも心地よくなった。あのまま料理で無理しすぎてたら、今頃結構大変だったかも。

「無理せずに、できることをするのが、一番うまくいくってことなのかな」

 リカルドと暮らすようになって、いろんなことを教えてもらってる気がする。



「俺、ジュリエッタと暮らすようになってから、毎日、時間過ぎるのがあっという間で」

 夕飯を食べながら、お風呂上りのリカルドがしみじみと言う。

「おんなじこと、考えてた」
「気が合うね!」

 リカルドがにこにこしながら返す。思わず私も微笑み返してしまう。

「ジュリエッタ、すごく笑顔増えた」
「それ、友達にも会うたびに言われる」
「俺と暮らすようになったから?」
「たぶん」
「そっか! それ、めちゃくちゃ嬉しい!」

 リカルド、なんだか、いつにも増して、笑顔飽和状態。

「えへへ、ジュリエッタ、ほんと可愛いなあ」

 あ。リカルドの手元を見て気づく。

「もしかして、酔ってるの?」

 今日は大晦日ということで、ちょっと羽目を外してもいいだろうと、リカルドの誕生日に職場の方がくださったワインを開けていたのだ。いつのまにかグラス空にしてるじゃない、リカルド。

「だーって、ごはんとってもおいしいし、ジュリエッタはすっごく可愛いし、一緒にいるとめっちゃくちゃ楽しいし、そりゃ、お酒も進むってもんですよ。でも、まだ酔ってない」

 そう言いながら、リカルドは私のグラスにワインを足し、自分のグラスにも少し注ぐ。うーん、確かに動きはしゃんとしてるけど……。お風呂上りだから、お酒回ってるんじゃないかな……。
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