【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

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本編・取り違えと運命の人

067 行く年 ③

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「ん、気づかないか」
「え?」

 リカルドが指を動かして、私の手をポケットの奥に追いやる。なにか、箱、みたいなもの? つるっとした紙の手触り。包装紙?

「なあに、これ?」
「だから、待たせたおわび」
「……私がまだ買い物してて、リカルドの方が待たされる側だったら、なんて言うつもりだったの?」
「んー、その時は、お歳暮?」
「夫婦でお歳暮とか、聞いたことない!」
「ぶらぶらしてたら、ジュリエッタに似合いそうなのがあったから、つい」
「いっつも人のことばっかり……」
「えー、俺、好きにしてるだけだよー」
「……塊肉、絶対おいしく料理するから」
「あ、それ、すごく嬉しい! しばらくごちそうだ!」

 リカルドは私に箱を握らせて、ゆっくり手をひっぱり出した。

「どうぞ」
「ありがとう」
「ええと、よかったら開けてみて!」

 近くにあるベンチに腰掛けるようにうながされるので座り、包装を丁寧に外す。

「あ……綺麗……!」
「あの首飾り、今日みたいな服の時は、ちょっと仰々しすぎるかなあと思って」

 リカルドがくれたのは、銀の台座に留めた透明な石を一つ、鎖に下げただけのシンプルなネックレスだった。リカルドの言う通り、装飾が少ないタイプの普段着にあの首飾りは立派すぎると思ったので、着けていない。でも、このネックレスなら、普段着でもしっくりくる。

「今日、髪型すごく可愛いけど、ちょっとだけ首元がさびしいかなって思ったんだよね」

 そっとネックレスを取り、私の首につけてくれる。

「うん。いいね、とっても似合う」

 そう言ってリカルドはにこにこ微笑む。

「ちょうど、こういうの、自分で買おうと思ってたとこで……」
「あ、ごめん。勝手に選んじゃった」
「……私がほしかったの、これだったんだなあって、びっくりした」

 漠然と考えていたものが、綺麗に具現化されたみたい。必要なものではないから、たぶん、自分一人だったら後回しし続けてたと思う。確かに嬉しい。嬉しいんだけど。

「気に入ってくれた?」
「うん、とっても。ありがとう。リカルド、私のもの選ぶの、ほんと上手」
「なんかいいのがあると、これだ! ってピンとくるんだよね。俺、直感派だから」
「うん、ハズレなし」
「よかった!」

 また、あのおひさまみたいな笑顔になった。ほっとして、ネックレスの箱と包装紙を鞄にしまう。そして、立ち上がって声をかける。

「帰ろ。あとは家でゆっくり過ごそうよ」
「うん」

 私の言葉にリカルドも立ち上がり、また私の手を自分の外套のポケットにつっこんで歩き出した。
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