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本編・取り違えと運命の人
012 修理 ②
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「リカルド。袋、修理できたよ」
「もう? 早いね。ありがとう!」
「早く使いたいだろうと思ったから」
そう言って袋を両手で差し出すと、リカルドは丁寧に受け取り、じっくり眺めていた。
「すごい……。穴、全然わからないように処理してくれてるし、裏地つけ替えてくれてて、持ち手も革でしっかり補強されてる。ジュリエッタ、ほんとにありがとう……」
「最初は、穴、糸でかがるだけにしようかと思ってたんだけど、見ているうちに、リカルド、これ、一生使うんだろうから、申し訳ないけど端を少しバラして縫い直した方がいいなって思い直して。だから、少しだけサイズが小さくなったけど、穴はなくせたの」
「……一生使うって、なんで」
「この袋、替えがきかないんでしょう? 最初は、大事にしてるんだな、としか思ってなかったんだけど、確認してるうちに、買ってどうこうできるものじゃないんだって気づいたの」
リカルドはしばらく黙っていたけれど、やがてつぶやくように言った。
「これ、母ちゃんが作ってくれた袋なんだ」
「やっぱり、そうだったんだ」
「ああ。ジュリエッタみたいなプロが見れば、素人が縫ったって、わかるよね」
「ううん。すごく丁寧に縫ってあって、下手に市販されてるやつより綺麗なつくりだったよ。そうじゃなくて、内ポケットにね、お守りが縫いつけられてたの」
「お守り?」
「『リカルドが健康にすくすく成長しますように。大切な人といつまでも幸せに暮らせますように』って、丁寧に刺繍された、手作りのお守りが、内ポケットの裏地に。だから、内ポケットだけは、裏地、元のままなの。それ以外は丈夫なヤツに変えたけど」
「……内ポケット使わないから、気づかなかった」
そう言うと、リカルドは袋を開き、じっと内ポケットを見つめた。
「他にも、生地の裁ち方とか、端の始末の丁寧さとか、長く使えるように子供っぽいデザインじゃなくてシンプルで丈夫なつくりにしてたりとか、お母様の愛情をすごく感じたよ。リカルドが買い直したくなかったの、よくわかった。やっぱり、その人のために作られたものに、量販品はかなわないよね。ただ、長持ちさせるために結構な改造しちゃったから、お母様の作った部分が減っちゃって……そこは申し訳ないと思ってるの」
しばらく黙っていたリカルドが、ぼそりと言う。
「この袋、修理は無理だろうから、もう別のものを買おうかな、と諦めかけてたところで……。直っただけじゃなくて、母ちゃんとジュリエッタが協力して作ってくれたみたいになって、俺…………すごく、すごく、嬉しい……」
「そんなに、嬉しかったの?」
訊ねると、リカルドは静かにこくりとうなずいて、ゆっくりと私を抱きしめた。
いつもあんなににぎやかでよくしゃべるリカルドが、黙りこんでしまった。
「嬉しかったならよかったけど……」
リカルドが抱きしめる腕に力を込める。私もそっとリカルドの背に腕を回し、応える。
いつまでも抱きしめ続けるリカルドに対して、これ、どうやって抜け出したらいいのか……と、ひそかに悩んだのは内緒だ。
「もう? 早いね。ありがとう!」
「早く使いたいだろうと思ったから」
そう言って袋を両手で差し出すと、リカルドは丁寧に受け取り、じっくり眺めていた。
「すごい……。穴、全然わからないように処理してくれてるし、裏地つけ替えてくれてて、持ち手も革でしっかり補強されてる。ジュリエッタ、ほんとにありがとう……」
「最初は、穴、糸でかがるだけにしようかと思ってたんだけど、見ているうちに、リカルド、これ、一生使うんだろうから、申し訳ないけど端を少しバラして縫い直した方がいいなって思い直して。だから、少しだけサイズが小さくなったけど、穴はなくせたの」
「……一生使うって、なんで」
「この袋、替えがきかないんでしょう? 最初は、大事にしてるんだな、としか思ってなかったんだけど、確認してるうちに、買ってどうこうできるものじゃないんだって気づいたの」
リカルドはしばらく黙っていたけれど、やがてつぶやくように言った。
「これ、母ちゃんが作ってくれた袋なんだ」
「やっぱり、そうだったんだ」
「ああ。ジュリエッタみたいなプロが見れば、素人が縫ったって、わかるよね」
「ううん。すごく丁寧に縫ってあって、下手に市販されてるやつより綺麗なつくりだったよ。そうじゃなくて、内ポケットにね、お守りが縫いつけられてたの」
「お守り?」
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「……内ポケット使わないから、気づかなかった」
そう言うと、リカルドは袋を開き、じっと内ポケットを見つめた。
「他にも、生地の裁ち方とか、端の始末の丁寧さとか、長く使えるように子供っぽいデザインじゃなくてシンプルで丈夫なつくりにしてたりとか、お母様の愛情をすごく感じたよ。リカルドが買い直したくなかったの、よくわかった。やっぱり、その人のために作られたものに、量販品はかなわないよね。ただ、長持ちさせるために結構な改造しちゃったから、お母様の作った部分が減っちゃって……そこは申し訳ないと思ってるの」
しばらく黙っていたリカルドが、ぼそりと言う。
「この袋、修理は無理だろうから、もう別のものを買おうかな、と諦めかけてたところで……。直っただけじゃなくて、母ちゃんとジュリエッタが協力して作ってくれたみたいになって、俺…………すごく、すごく、嬉しい……」
「そんなに、嬉しかったの?」
訊ねると、リカルドは静かにこくりとうなずいて、ゆっくりと私を抱きしめた。
いつもあんなににぎやかでよくしゃべるリカルドが、黙りこんでしまった。
「嬉しかったならよかったけど……」
リカルドが抱きしめる腕に力を込める。私もそっとリカルドの背に腕を回し、応える。
いつまでも抱きしめ続けるリカルドに対して、これ、どうやって抜け出したらいいのか……と、ひそかに悩んだのは内緒だ。
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