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おまけ

37 ハシビロコウがたいせつ ③

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 気持ちに明確な変化があったのは、二回目のデートの日だ。俺は財布を忘れた。デートでこんなひどいミスをしたのは初めてで、自分でもびっくりした。
 確かに仕事が立て込んでいて、ちょっと疲れていたことは否めない。
 でも、もしかすると無意識に愛佳ちゃんを軽んじていたのかもしれないと今は思っていて、ひそかに心を痛めている。気合いの入った相手なら、たぶんもっと慎重に行動するから。

 愛佳ちゃんは俺を気遣って、さらりとデートプランを変えてくれた。全然不快そうな顔なんかせずに。女の子にそんな気遣いをされたことがなくて、しかも愛佳ちゃんはむしろ楽しんでくれていて。デートって、男が気を遣うものだと思っていたから、なんだか新鮮だった。散歩をのんびり楽しんでいる表情に、なんだかすごく和んだ。

 何の疑問もなく帰ろうとしていた愛佳ちゃんを、俺の家に連れ込んだ。「そもそもの目的は、この後じゃなかったっけ?」なんて言ったけど、本当は、俺が彼女としたくなってた。愛佳ちゃんが持ちかけてきた稚拙なプランに乗った振りで、自分の欲望を解消する。俺は本当に下劣な男だと思う。でも、異性愛者の男なら、程度の差はあれ、女性と都合よくヤリたい気持ちは持っているものだろう、とやっぱり自分の気持ちをごまかした。

 ご希望の無理矢理っぽいプレイは、ドMの愛佳ちゃんらしいと思ったし、やってみたら気持ちよかったけど、なんだかしっくりこなかった。いや、確かに、すごく気持ちよかったけど、身体は、すごく。

 この子をもっとわかりやすく愛でたいなと思った。
 だって、可愛かったから。待ち合わせ場所で俺に気づいた時、手を握ってポケットに突っ込んだ時、自販機で買ったミルクティーを渡した時。
 特にビーズのブレスレットをプレゼントした時の、びっくりしつつも嬉しさを隠しきれない表情が、忘れられなかった。成人してから、あんな安いプレゼントでこんなに本気で喜ばれたことはない。

 この時点で、俺は既に愛佳ちゃんのことを、結構好きになってしまっていたのかもしれない。実際、優しく抱いてみたら、たまらなくよくて、がぜん気持ちが傾いてしまった。すこぶる単純だと自分でも思う。

 でも、セックスは大事だと思う。本能なんだから。理屈では割り切れない部分も垣間見える気がする。
 愛佳ちゃんは俺とのセックスを、すごく楽しんでくれる。
 今までの彼女達は、きちんとイカせてあげてはいたものの、セックスを楽しんでくれてはいない気が、なんとなくしていた。身体は反応していても、心はあんまり反応してくれない。
 セックスを楽しんでもらえるのは、なんだかとても嬉しい。俺自身を楽しんでくれている気がして。

 愛佳ちゃんはちょっとしたことでもすごく喜んでくれた。無難な好青年ではなく、俺自身に恋するまなざしを向けてくれる。丁寧に接すれば、それだけ応えてくれる。健気な反応。
 おしゃれをしてデートに来てくれるのも、俺のためかな? と感じて嬉しいし、どんどん綺麗になっていく姿にもなんだかどきどきする。
 うすっぺらくて、つまらない、没個性な俺でも、一緒にいることを楽しんでくれる女の子。そんな純粋な付き合い、中学や高校時代にもしたことないかもしれない。
 可愛いなあ。すごく可愛い。ああ、この子が俺の彼女だったら、いいなあ。

 っていうか、この状態、付き合ってるって言ってもいいんじゃない?
 だって、セックスって恋人としかしないものだろう、本来は。
 すごく意地の悪い言い方だと思うけど、愛佳ちゃんも俺との関係を続けたいから、ああいう提案をしてきたんだと思うし。
 Win-Winじゃない?

 つい、自分に都合よく考えてしまいたくなる、俺は浅ましい人間だなと思う。
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