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第28話 第三十八回リバラルティア最優秀テイマー決定戦 四回戦(前編)

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「カイル選手に対しますのは、我らが純白のプリンス――レパルド・リバラルティア選手っ!」
「えっ!?」
『――なっ!』

 レパルドってフィルを捨てた、あのレパルドかっ!

『フィルっ!』
『……ああ』
『その、大丈夫ですか……?』
『何がだ? 我は全く気にしていない』

 口ではそう言っているものの、身体が小刻みに震えている。
 自分に酷い仕打ちをしてきた奴に会うんだ、怖がるのも無理はない。

『フィル、無理はするなよ』
『……問題ない』

 心配だな。ここはフィルの分まで俺が頑張らないと。

『来ましたっ……! あの人がレパルドですね……』

 反対側の通路から現れたのは、全身を白の衣装に包んだ黒髪の美形の青年だった。
 長めの前髪が左目を覆っており、確認できる右目はパチッと大きく鋭い。それに高くスッとした鼻筋、まるで王子様のような凛々しさだ。
 いや、実際にあいつは王子か。

 それほどの美形であるにも関わらず、俺達の時とは対照的に全く観客席が盛り上がっていない。
 男性はともかく、女性ならメロメロになっていてもおかしくないのに。それだけ民からの評判が悪いってことなんだろうか。

 まっ、それはいいか。それで魔物は――

『って、なんじゃありゃ……』

 レパルドを追うように出てきたおどろおどろしい魔物達の姿に、思わず声が漏れ出てしまった。

 一匹はライオンの身体にトラのようなシマ模様が浮き出ている動物、全長で四メートル近くはある。
 あれは恐らくライオンとトラを掛け合わせたライガーだ。昔、テレビで見た記憶がある。

 その左に居るのは、広がった頸部が印象的な茶色の巨大な蛇。

 右には、三つの頭を持った黒い犬が居る。
 あれって、神話で出てくるケルベロスだよな。この世界では神話の動物も普通に存在するのか……。

『あの黒いリングって……』
『ああ、我が以前付けられていたのと同じだ』

 エリノアとフィルの言葉を聞いて、もう一度レパルドの従魔達をしっかりと確認したところ、三匹とも身体のいずれかに黒いリングが付けられていた。
 強制テイムの証だ。

 ……それに何だか、彼らからは生気といったものが全く感じられない。
 まるで人形やロボットみたいだ。

「レ、レパルド様……」

 そんなことを考えていると、カイルが震えた声でレパルドの名を口にした。
 そちらに視線を向けると、カイルと司会の男性は片膝を地面に付け、頭を深く下げている。

 ああ、あれか。一応王族だからか。
 フィルにあんな酷いことをした奴に頭を下げる必要なんかないのに……。

「よせ。くだらん」

 それに対し、レパルドは見下ろしながら冷たく言い放った。
 そのまま俺達三匹のほうへ視線を向けてきたかと思うと、フィルを見た瞬間に「フン」と鼻を鳴らし、後ろへ下がっていった。

『あの野郎……! フィルのことを何だと――』
『我のことなら気にするな。今は試合のことだけに集中しろ』

 フィルは身体を震わせながらも、堂々とした口調で俺の言葉を遮った。
 くっ、悔しいけどフィルがそう言うなら……。

『分かった……』
『それでどうしますか? 三匹とも凄く強そうですけど、誰から狙えば……』
『そうだな、特に厄介なのはキングコブラだ。奴は毒液を吐いてくる。まともに食らえば身体が麻痺して身動きが取れなくなってしまう』

 神経毒ってやつか。それは確かに厄介だ。

『それじゃあ、あの蛇から狙うってことで良いか?』
『ああ』
『分かりました!』

 話し合いを済ませたところで俺達は定位置に移動し、試合が始まるのを待つ。

「みんな、頑張って!」
『おう、任せとけ!』
「それでは、四回戦第一試合っ! 開始っ!」

 カイルの言葉にそう返したと同時に、試合開始の合図が出された。

 よーし、あの野郎にギャフンと言わせてやる!

 そう思いつつ、地面を蹴ろうとした瞬間、

『えっ?』

 目と鼻の先にライガーの姿があった。
 こいつ、いつの間に――

『ぐぅっ!』

 直後、腹部に強い衝撃を感じたと共に、ライガーの姿が遠のいていく。
 その後、今度は背中に何かがぶつかるような感覚を覚えたかと思うと、全身に激痛が走った。

『アイズさんっ!』
『アイズっ!』
『だ、大丈夫だ!』

 俺はエリノアとフィルにそう返しつつ、痛みを堪えて何とか直立姿勢を取る。
 それにしても、タックルされただけで壁まで吹き飛ばされるとは……。
 蛇が厄介だってフィルは言ってたけど、あのライガーもとんでもないな。

 十メートルほど先で佇んでいるライガーにそんな感想を抱いていると、その獣は俺に向かって驚くほどのスピードで突っ込んできた。

 それを俺は横に飛び退くことで、間一髪のところで避けることに成功。
 ライガーは勢い余ってそのまま壁に激突し、頭がめり込んでいた。

 その隙にフィルとエリノアの様子を確かめると、フィルは蛇が口から吐いている黄色い液体を飛びながら避けている。

 一方、エリノアはケルベロスの噛み付きから寸前のところで逃れていたものの、

『うぁっ!』

 次の瞬間、右側にある頭の鋭い牙が真っ白な身体を捉えてしまった。
 直後、真ん中と左側の頭も牙を剥きだしにして襲い掛かろうとしている。

『――エリノアっ!』

 それを見た俺は全速力でケルベロスの元に駆け寄り、頭目掛けて思いっ切り右腕を振り下ろした。

 すると、俺に気付いた左側の頭がこちらに向かって大きく口を開き、鉤爪の先端を牙で受け止めてきた。
 挙句、そのままくわえて離そうとしない。

 それなら――と次は左腕を叩きつけると、今度は真ん中の頭が鉤爪をくわえてきた。
 俺は腕に力を入れ、何とかケルベロスの口から鉤爪を引き離そうとするも、顎の力が強すぎてピクリとも動かない。

 くそっ、なんつー力だ。
 こりゃ鉤爪を腕から外すしか――いや、待てよ。
 鉤爪をくわえて動こうとしないのなら!

『エリノア! ちょっと熱いかもしれないけど、我慢してくれ!』
『――ふぇっ?』

 俺は鉤爪を全力で引っ張ったまま、左側と真ん中の頭目掛けて炎を吐いた。
 その瞬間、ケルベロスは鉤爪とエリノアを口から離して炎を避けようとしていたものの、間に合わなかったようで身体に火が灯る。

『エリノア、今だ!』
『は、はいっ!』

 直後、ケルベロスに向かって数十の氷柱が飛んでいく。
 それらが頭や身体にグサグサと突き刺さると、ケルベロスはふらっとよろめいた。

 その隙に俺は素早く鉤爪を振るい、二度三度と身体を切り裂く。
 その度に鮮血が散り、やがてケルベロスはその場にバタっと倒れた。

 氷柱が溶けてくれたお陰で火も消えたし、これであいつも命に別状はないはず。
 それを確認した俺はエリノアの側に駆け寄った。

『大丈夫か、エリノア!?』

 身体を見ると、牙を突き付けられていたところからだくだくと血が流れている。

『私は何とか……。それよりも残りの二匹を――』
『――アイズ、エリノア、後ろだっ!』

 フィルの叫ぶ声に反応して後ろに振り返ると、ライガーが迫ってきている。

 ――しまった、もう避けられない!
 このままじゃ二匹とも……。こうなったら!

『きゃっ!』

 俺はエリノアを思いっ切り突き飛ばした。
 同時に激しい衝撃が全身に伝わり、一瞬宙に浮いた感覚を覚える。
 直後、地面に背中から落ち、四度の跳ね返りを経たところでようやく身体の自由を手に入れた。

 それからすぐ、俺はライガーに攻撃を仕掛けるべく、立ち上がるために腕に力を込めた瞬間、

『――うっ!』

 身体中に激痛が走る。
 自然と腕から力が抜け、気付けば地面に横たわっていた。

「あ、アイズっ!」

 そんな情けない俺に向かって、カイルが声を掛けてくる。
 何とか顔を動かしてカイルのほうを向くと、心配してくれているのか今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、こちらを見つめていた。


 ……あんな顔はこれ以上見たくない。
 カイルは笑顔で居るのが一番だ。

 俺は痛みを堪え、何とか立ち上がった。
 すると、カイルは咲いた花のように華やかな笑顔を見せてくる。

 そうだ。やっぱりカイルは笑ってないとな。

『ふぅ……』

 ゆっくり深呼吸をして、痛みの感覚を自分の奥底へと隠す。

 ――よしっ!

 俺は地面を蹴り、走りながら今の状況を確認した。

 エリノアはライガーの攻撃を辛うじてかわしているものの、出血が酷く、そろそろ限界といった様子。

 フィルは先ほどと同様、蛇の毒液を避けながら風魔法を放っている。
 その様子を見ているとフィルがこちらを向き、くちばしをエリノアが居るほうにクイっと動かした。

 ――分かった、そっちは任せたぞ。

 心の中でそう伝え、俺はライガーとエリノアの元に駆け寄る。
 そうして二匹の間に割り込むと、ライガーは俺目掛けて四度目の突進攻撃を仕掛けてきた。

 直撃する寸前で俺は高く跳躍してタックルを回避し、空中で縦に一回転してから尻部分に深く鉤爪を突き刺す。
 そのまま抉るようにもう一度縦に回転すると、皮膚と肉、多量の鮮血が散り、獰猛どうもうな獣は一瞬動きを止めた。

 直後、今までに見てきた以上の数の氷柱が飛んできて、ライガーの横っ腹にズブリズブリと突き刺さっていく。

 自然とエリノアのほうへ目を向けると、白い身体が横たわっていた。
 きっと力を振り絞っての攻撃だったんだろう。

 よくやった、エリノア! 後は任せろっ!

 俺はすかさずライガーの脇腹目掛けて突進、氷柱をさらに奥へと押し込んだ。

『ぐぅっ!』

 これまで一言も発さなかった獣が苦悶くもんの唸り声を漏らす。
 続けて鉤爪を幾度となく振るっていると、やがてライガーは口から血を吐き、その場にドスンと倒れ込んだ。

 よしっ! これで後一匹だ。このままあの蛇も――

『ぐあっ!』

 フィルの元に駆け寄ろうと振り向いた瞬間、今まで誤魔化していた痛みがのしかかってきた。

 あまりの痛みに耐えられず、俺は地面に倒れ込んでしまう。
 動こうとしても全く力が入らない。

 流石にもう限界か。
 悪いフィル、加勢は難しそうだ。後は任せたぞ。
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