ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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本命(ウケ)と浮気相手(タチ)とその彼氏(ウケ)と宅飲みなんて泥酔覚悟で飲むしかない③

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「なぁー玲児から聞いたんだけど」
「うん?」

 軟骨まで食い尽くしたチキンを空箱に放り、指先を舐めていたら水泡にウエットティッシュを渡された。それで改めて手を拭い、使い捨てのプラカップに注いだスパークリングワインを飲み干しながら話題を投げる。

「お前ん家でたこパすんだって? お前と出雲と、俺と玲児で」
「……らしい」
「意味わかんね。パーティーするような仲じゃねーだろ」

 たこパ。たこやきパーティーの略である。
 昨日のことだ。大学でたまたま玲児とすれ違って喜んでいたらその計画を伝えられ、天国から地獄へと叩き落とされた気分になった。
 ギョッとしたし、まさかと思った。
 しかも玲児がやりたかったのならまだしも、出雲が言い出しっぺで玲児はそれに乗った形らしいのだ。
 そんなわけないだろと思った。だって出雲は俺たちのこと、ちゃんとではなくても、それでも。
 水泡の家へ行った時のことを思い出す。
 俺の手を握りながら上がっていく息遣い、余裕のなくなる腰の動き、そしてそれらが全て解放される瞬間。
 力いっぱい振り払ったあの瞬間が蘇るようにゾワッと悪寒が走る。心臓から頭の先、顎、肩、肘、指先……腰から足先まで、体を形作るすべてへ伝わっていくように。
 深く深く息を吸って、肺を満たし、それを吐き出して一気に解放する。
 もう一度、今度は口を固く結んだまま鼻から同じように息を吸って、吐き出す。
 それでもまだ胸が苦しくて、ソファーから飛び出すようにベッドへ腰掛けていた水泡の足元に縋り付く。膝の間に押し入って、膝に頭を乗せて、ぎゅっと手を握る。
 握り返してくれた手はあの時とは違うもので、やっと呼吸が落ち着いた。肺からすべて絞り出す、苦しさに震えた吐息ではない。もっと軽くて、あたたかい吐息。

「どうしたの」

 頭を優しく撫でられて瞼を下ろす。

「べつに。うっとーしいから触んな」
「君、来る?」

 触るなっつってんのに無視である。聞こえるように大きく舌打ちしてやった。

「ド変態のお前と出雲がいるところに玲児一人で行かせねぇよ。玲児すげーわくわくしてたからやめろとも言えねぇし……」
「そう」
「お前はいいのかよ?」
「もう、決定事項……みたい」
「つかなに考えてんだよ、お前の嫁は」
「嫁?」
「出雲に決まってんだろ」 
「ああ……」

 ふふ、と笑う声が聞こえる。何がおかしいんだよ。
 握った手の、人差し指の第一関節をカリカリと爪でいじる。
 やめてと水泡はもう一方の手で俺の手を剥がそうとしたが、その手を払ってもう一度握る。

「お前が拒否んなよ。クソが」
「だって」
「俺またあんなことになったらヤダからな」
「あんなこと?」
「あと酔っ払って俺にベタベタしたりセクハラしたりすんなよ、玲児の前でさ。絶対ありえねーから」
「それ……僕の、セリフ?」
「はぁ?」

 聞き捨てならない言葉に膝から顔を上げて睨みつけるが、なんか上手いこと差し出された水泡の手のひらに顎を乗せちまった。その状態でよしよし頭を撫でられて。
 この姿って完全にあれじゃん。飼い主に甘やかされる大型犬。

「ふふ、ぷくーってしてる。かわいい」

 人見下ろしてくすくす笑って「ぷくーっとしてかわいい」?
 さすがに馬鹿にしすぎだろ。
 腹が立つ。カッと頭に血が上り熱くなる。
 その怒りに任せてちょうど口元にあった、油断しきった顎をさする親指に噛みついた。
 水泡は声を出さず、ただ一瞬手を引こうとした。しかしそれは反射的にそうしただけで、すぐに抵抗はなくなる。
 ただまた頭を撫でて、痛いよ、とだけ言った。
 ムカつく。
 別にいつもこんな態度とられてるけど、すっげームカつく。殴られてないだけマシだろ。
 ムカつく、ムカつく、ムカつく。
 ムカつきすぎて苦しい。痛い。
 胸の奥が痛いし、肺が苦しい感じもある。
 出雲と、玲児と、水泡と。
 並べて思い浮かべるだけでどうしたらいいかわからなくなる。みんなでパーティーするだとか、そんなんじゃなくて、ただ、ただ、重くて、不安。
 気がついたら水泡の親指の付け根に立てた歯は離れて。
 目の前にある噛み跡のついた手が気まずくて、見ていたくなくて、水泡の膝に乗ってぎゅーっとその首に抱きついた。

「ほら……酔ってくっつきたくなっちゃうのは、君。でしょ? 大丈夫かなぁ。不安だなぁ」

 返事はしない。ただ水泡の首に顔を埋める。
 さすがに俺、水泡に対して感情を剥き出しにしすぎじゃないか。
 殴られてないだけマシなんて思ったけど、本当に殴ってしまったら取り返しがつかない。怪我なんてさせたくない。でも抑えきれなくて衝動的になる。
 苦しい。
 心臓をできるだけ水泡の身体にくっつける。押し付ける。ぎゅーって。
 水泡の中に入りたい。エロい意味じゃなくて、水泡の身体の中に入って安心したい。一緒の存在になっちゃいたくなる。

「隼人。ほら。酔ったら、甘えたくなっちゃうもんね?」

 水泡は背中をとんとんと叩きながら、それに反応して身体の向きを変える俺にプラカップを差し出した。さっき俺が飲み干したヤツとは違う、水泡が飲んでいたカップだ。まだ半分以上入ってる。
 むっとする。なんだよ、こっちは落ち込んでんのに。そんなに飲ませたいなら飲んでやるよ。
 さっきカップ一杯分を一度に飲み干したのでちょっと酔いが回っているが、奪うようにそのカップを掴み、グイっとまた一気に飲み干す。泡を放つ黄金色のその液体は、甘みはあるがしっかりとアルコールの味がする。飲み口は甘いけど、鼻に抜ける時は少し辛い。
 空のカップを黙ったまま水泡に渡しながら、拳の裏で口を拭う。水泡が俺の背を抱いて支えながら身を乗り出してカップを机に戻すので、俺は落っこちないようにさらに水泡にぎゅっとしがみついた。

「一気だ……」
「だって……いっぱい酔ったら、いっぱい甘えていーから……」
「酔ったら、なの?」
「ん。いつもは甘えねぇの。でも俺ほんとはさ、結構いつでもどこでも、くっついたり、いちゃいちゃしたいタイプ。だから酔った時は我慢しねぇの」
「なにそれかわいい」

 なぜかいつもより早口になった水泡が面白くて、我慢できずにケタケタと笑ってしまう。

「人目なければ玲児とずーっとくっつきてぇし、二人の時は超ベタベタしてる!」
「僕には?」
「お前はー……だから酔わねぇとさー……」
「瑞生には……酔ってなくても、くっつくの? ずるい……」

 酔って笑ってふらふらと上半身が揺れる俺をしっかりホールドして、頭部とかこめかみとかをすりすりしてくる。

「ずるいってなー、だって玲児は恋人だろ! 愛してんのー! お前と違うのー!」

 そんな水泡を押しのける仕草をしながらも、俺にくっつかれて喜んで、もっとくっついて欲しくて擦り寄って、玲児のこと羨ましがる水泡を見てるだけで本当はいい気分だ。へへっと声が漏れる。そんで今度は俺が犬にするみたいにヨシヨシ頭撫でてやるんだ。

「酔わなくても……くっついていいんだよ?」
「はぁ? やだ、キモイ」
「ひどい。なんで」
「お前にくっつきたいとか思うのキショいじゃん! だから思ってねぇーの! 酒飲んでたら酔ってるからくっついていーの!」

 よしよしして、むちゅーってして、もう一回ちゅっちゅってする。酔ってるからこんなこともする。キショくても。もう一回ちゅーしとこ。水泡の顔がちゅーする度にデレデレ(無表情だけどな、ガン見してる目が怖いような優しいような変な顔)して面白ぇし。

「言ってること、むちゃくちゃ。わかってる?」
「なぁもっとくっつく……」
「これ以上、無理」
「くっつくぅぅー!」
「くっついてるよ?」
「もっとだって言ってんだろ! 馬鹿かよ!」
「いつもそんなに、くっつきたい? くっついてるのに、くっつきたい?」
「んー……」

 水泡の首に抱きついてぎゅーっ、ぎゅーって身体を寄せる。押し付ける。水泡もそれに応えて強く抱き締めて自分に俺の身体を押し付ける。
 でも、もっともっとって心臓擦り付けるみたいに胸の真ん中を押し付ける。
 全然足りない。どうしたら満足できるんだろう。

「どう?」
「なんか違う」
「そんなに……くっつきたいんだ?」

 黙る。とにかく足りない。でもこれ以上どうしようもないのわかるから、黙る。すると。

「恥ずかしいの?」
「キショいの!」
「照れちゃう?」
「キモイんだって!」
「でもくっついてる……」
「そりゃ酔っぱらいだからなー。おい! 手の位置ここ! もう片方はこっち!」

 よく笑うようになったくせに、淡々と静かに問い詰めてくるのにムカついて、背中を抱いていた両手を引っ張って腰と頭に手をおかせる。

「おい撫でろよ、頭に手置いてぼさっとしてんじゃねぇよボケじじい」
「君ねぇ……かわいく「撫でて?」っておねだりできないの?」
「今の「撫でて?」ってちょっと声高くしただろ?! きんもい」

 すんっと鼻息を吸うのがかすかに聞こえる。そのまま何も言わず手も置かれたままの格好で動かないところを見ると、俺の発言が気に入らないらしい。

「なぁー撫でろよ」
「やだ」

 ほらやっぱり。ガキみたいに拗ねた声。

「はぁ? 俺が言ってんのに?」
「キモくてキショいボケじじいに撫でられたくないでしょ……君だって」
「撫でられたくねぇけど撫でろよー、なぁーやだーみなわぁー」
「知らない」
「みなわぁー」
「やだ」

 首に寄りかかったまま顔を上げるがそっぽ向かれる。身体にちょっと隙間できるのがムカつく。

「じゃあ虐待してやる、この!」

 顔の横に垂れてる前髪だかなんだかわかんねー髪の毛束をついついと加減して引っ張る。顔が揺れるほどでもない。でも絶対うざったいやつ。

「ちょっと……やめて」
「はー? やめねぇし。この、このー」
「やだって」
「俺のほうがやだし!!」
「なら……ごめんなさいしたら?」

 あっち向いたまま、目線だけで見下される。どきりとして、髪を掴んでいた手が止まる。

「は、しねぇよ?」
「なら、だめ。撫でない」
「お前ムカつく」
「あぁそう」

 くらくらする。頭がぽーっとして熱い。
 もっとくっつきたい。なんも思い通りにいかない。満たされない。イライラする。不安ばっかり。
 水泡のサラサラの髪が拳の中から抜けていって、その手は水泡の肩に落ちる。一緒に弱い気持ちもおりてくる。

「俺が撫でろって言わなくても悪口吐いても撫でんなって言っても撫でろって言っても絶対撫でてくんねぇとやだ……お前は俺がどんな態度とっても俺にべたべたすんだよバカ……」

 手が動くのを期待する。俺の言うこと聞け、ばか。
 でもまだ撫でてくれなくて、代わりに水泡の顔はこっちに向いて微笑んだ。

「わがままだなぁ」
「チッ」
「舌打ちしないの」
「みなわのばかやろ……」
「うーん…………撫でてほしい?」

 そりゃここで頷けば撫でてくれる。そんなの当たり前だ。それじゃ駄目だ。

「やだ」

 駄目だから俺は顔をしかめる。
 しかし水泡はふっと笑って、頭も腰もいっぱいいっぱい撫で始めた。もう頭に置いた手なんてさ、耳とか、首とか、顎とか、頬とか、あちこち移動しながら撫でまくる。
 酒で熱くなった顔より水泡の手のほうが冷たくて、きもちいい。でもちょっとくすぐったくて笑っちまう。

「うん、よしよしよし……全く君は……」
「あっ……へへ、きもちいい。へへへー」
「撫でられるの嫌なの?」
「やだー」
「はいはい……」

 くすぐるみたいにいっぱい撫でられて笑ってたら、胸の苦しいような、物足りない、もっとくっつきたいって気持ちも少し晴れてきた。
 ざわざわとして落ち着かない感じがあったけど、やっと身体がすとんと水泡の中におさまる。きもちいい。
 今はゆっくりと背中を撫でられながらうとうとしてる。水泡は煙草をふかしてる。

「みんなの前でも、酔っちゃう?」
「んんぅ……?」
「こうやって、くっついちゃおっか」
「だめじゃね……」
「でも、酔ってるから」
「みんなのまえ?」

 ぼんやりする頭で想像する。俺がいて、水泡とくっついてて。それを出雲と玲児が見てる……いやおかしいだろ。それは変だ。玲児も変な顔してんもん、眉間に皺すっごい寄ってるもん。

「くっつきたくなったら、くっついちゃおうよ。ね?」
「んーそれはだめだろぉ……」
「おっぱいもいじっちゃおうかな」
「あっ」

 ぞくっとする。
 腰からゾクゾクときて最初は何されたかわからなかったけど、指の腹で乳首すりすりされてる。
 うとうとしてたのに、なんかきもちいいので変な感じになる。抵抗したほうがいいとか話聞かなきゃとか返事しなきゃとか、でも夢心地の中きもちいいのきて、わかんない。
 体も思考も力が抜ける。

「おっぱいの先っぽきもちいいって言っちゃおうよ? 感じやすいの、教えちゃおう?」
「あん、ん、あっ……」
「ここ、きもちいい?」
「さきっぽ、きもちい……」
「気持ちいいね。こんなにおっぱい気持ちいいの、みんなにもうバラしちゃおっか」
「うーうん、うーうん……」

 水泡の腕の中でもそもそと首を横に振り、身体をよじる。逃げようとしてるのか、感じてくねくねしてんのか、とにかくなんか違うというか、変な感じなんだ。ダメな感じする。
 そのままとけちゃいそうだけど、だめ。
 とにかく水泡の手を握る。でもその手を剥がしたいのか、もっとしてなのか、わからない。
 閉じていた瞼を薄く開けて、指先を見る。小さい乳首が揺れてるのが恥ずかしくて、やらしい。
 でもそれより、それより、さっきつけた噛み跡に泣きたくなった。

「みなわ、かんで、ごめんな」

 再び目を閉じる。水泡に身体を全部預けて、自分がもうどこにいるかもわからない、暗闇の中で浮遊しながら会話する。

「……ううん」
「いたい? ごめんな」
「平気」
「さいきん、イライラすんの、俺……」
「そっか。隼人、眠いね……えっちしないで、寝よう。僕も、ごめんね」
「うん」
「おいで」
「かんでごめん」
「いいよ」
「痛そう……」
「平気だよ」

 自分がどんな状況か、水泡がどんな顔してるか、どんな会話してるか、よくわからないまま沈む。とにかく心地よかった。
 そういえば睡眠薬の量を調整したんだ。最近一日おきの服用じゃ眠れなくて。酒も控えないとな。薬飲まなきゃ。あれ、酒飲んだから駄目か。
 どうすんだっけ。えーっと、くすり?
 くすり、のまないと……。





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