ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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本命(ウケ)と浮気相手(タチ)とその彼氏(ウケ)と宅飲みなんて泥酔覚悟で飲むしかない①

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 玲児の寂しそうな空気が肌に刺さるようで、あれから互いの部屋を行き来するのさえ避けがちになっていた。
 会ってもよそよそしくて、いつもより人一人ぶんほど距離を開けて座って。
 近くに置かれた手が俺を待っているようで、でも触るのも怖くて遠ざかる。
 でも、今日は違う。
 カーペットの上に置かれた手。指先を伸ばせば、玲児の人差し指と俺の中指がぶつかる距離。そっと関節を伸ばしてみる。そうして中指の腹で、人差し指の表面を撫でた。
 ハッとして上げた顔は驚きと、戸惑いと、喜びと、緊張と。
 とにかくいろんな感情を含んでいたけれど、緊張が一番大きいように見えた。ほんの少し頬が赤みを帯びて、それでも油断しないよう唾を飲むのがわかる。
 そんな彼と向き合っている俺も、似たような顔をしているかもしれない。
 うつむき加減の上目遣いでお互いを探る。まるで鏡を見ているようだ。

「玲児、触っていい?」
「む……」

 小さく了承する声に安堵して、手のひらを重ねる。そして下から掬い上げるように手を取り、繋いだ。

「あ……」
「もっと触りたい」
「しかし……いいのか? 無理はするな、どうだあれから……病院では何か……」
「ああ、それでさ。ゆっくり触ってみたいなって思ったんだ。汚いなんて言って傷つけて、ごめん。今日はたくさん触ってみていい?」
「いいに決まってる……」

 玲児と繋いだ手を離して、手のひらを見る。
 いろんなものに触れてきた、この手。どれほどのものに触れてきたかわからない。どれだけの体液に汚れてきたか、わからない。
 それでも今目の前にあるこの手は清潔なはずだし、今までだってたくさん玲児に触れていたんだ。
 玲児のひんやりとした頬の感触を手のひらが覚えている。身体に触れて手のひらを押し付ければ、肋骨の凹凸が伝わってくる、薄い身体。秘めた場所を開いたときに感じる、弾力のある肉が乗った太もも、熱をもった愛らしい窄み。
 玲児の身体はどこまでも綺麗で、俺の手はその身体を愛してきたんだ。
 愛していいんだ。
 この手は人を愛することだって。
 愛されること、だって。
 知ってる。
 烏滸がましくも自分が触れてきた玲児の姿に自分を重ねると、この手が愛しくすら思える。愛してくれる手。それを俺はちゃんと知ってるんだ。
 大丈夫だ。汚くない。たくさん、たくさん、気持ちを伝えられるはずなんだ。

「玲児……」

 頬に触れる。ほら、記憶通りだ。
 玲児のすべてを記憶した手。汚くなんかない。

「愛してる」

 玲児は頷くことはせず、おきまりの「む」の相槌もなく、目を細めて俺を見つめ、静かに瞳を揺らしていた。そうして声を発さずに小さく頷いた時、ぽろぽろと涙の雫をこの手のひらに落とした。手の中の頬の温度が高まっていく。
 口づけて、ゆっくりと細い体をクッションに倒す。
 ベッドへ誘導してやりたかったが、流れを止めることをしたくなかった。
 何度も何度も唇を重ねる。まだ少し怖い。二の腕に触れて、肘を撫で、脇腹に手を置く。

「玲児、嫌じゃない?」

 聞かれ、玲児は悲しそうに眉根を寄せた。そうして首を左右に振る。

「嫌だなんて思ったことはない。いつもお前が勝手に怖がっているんだろう? 怖がるな。嫌なわけない」

 ――でもそれは、知らないからだ。

 心の遠いところから卑屈な声がする。
 違う、知らせないのは俺の勝手なんだ。
 それにもう、受け入れてもらえたんだ。汚くても大丈夫。大丈夫。大丈夫。
 背を支えてくれる大きな手の存在に後ろめたさはある。罪悪感もある。
 それでも、君の前で俺は“俺”でいたいから。
 その為にこっそりその手に縋る。

「俺も隼人を愛している……」

 玲児に愛してもらえる自分でいたい。
 それなのに、愛してると言われて胸が痛む。
 探り探り、触った箇所よりも表情を観察し、見つめ合いながら、肌を合わせる。
 前を開いてしまったシャツを閉じようとはしないものの、恥ずかしそうに裾を握る姿がいじらしい。
 胸の先に触れて、舌先で撫でて、玲児の白い肌が薄桃色に染まっていく様をため息混じりに眺める。
 頭上で聞こえる、まだ声にもなっていない息遣い。はぁ、はぁ、と息を吐いて快感を逃したり、かと思えば息を飲んで我慢したり。
 不意に下半身に触れれば「あっ」とやっと一声もらえた。
 好きだ、好きだ、この肌の全て愛してる。
 玲児との行為は神聖な儀式のようだ。
 冷たい玲児の肌に俺が愛情をかけて熱を灯す。
 汚くなんてない、愛情から生まれる行為。
 頭ん中も身体ん中もめちゃくちゃになるんじゃなくて、ううん違う、あれだって。あれだって、愛情に溢れる行為だった。
 好きだ好きだと欲望に燃えた、けれど間違いなく愛情に溢れた気持ちをぶつける純粋なセックスだった。
 快楽だけじゃない、愛情に溺れてたんだ。汚いことなんかじゃなかった、ずっと。
 そう思えるだろうか。







「あ、あ、みなわ、みなわぁ……っ! もっと、もっと……」

 細いけれど、骨格に恵まれたがっしりとした背中に縋り付く。大柄な自分でも安心して身を任せてしまう広い肩幅。じっとりと重たい汗がまとわりつく二人の肌が合わさって、表面で混ざる。
 もう少し、もう少し、もう少しでいっぱいになれる。
 もっと奥まできてほしくて腰を浮かせ、ぶぢゅ、と音を立てて腹の中が潰された時、脳が焼ける。 男性器から意味のもたない液体が弾け飛ぶ。

「おッ、あ、あぁぁぁぁ……」
「あー……きもちいい……はやと、きもちいい、きもちいいよ」
「しゅき、みな、みなわ、しゅき、しゅきっ」
「うん、かわいいね……だいすきだよ」

 焼けたのに、足りない。
 もっと、もっと、もっと。
 こんなにどろどろでぐちゃぐちゃでも、汚くないって思わせてくれるなら、汚くてもいいって思わせてくれるなら、もっと。






 痛くないように、傷つけないように。
 少しづつ指を動かしていく。
 触ったこともないくせに楽器を奏でる時はこれくらい繊細なタッチだろうかと考えながら。

「ここがいい?」
「んっ……む、そこ……あッ、だめだ、隼人っ、だめ……」
「だめってなっちゃうくらい気持ちいい?」
「やめろ、言うな…………そのとおりだが、そんな、だめっ……」
「玲児のここ、ピンクでかわいいよな」
「やっ、あっ……! かわいくない、そんな色してなっ……ぅあっ」
「してるよ。可愛いし、すっげぇ綺麗なんだ。いくら抱いても、ずっと綺麗だ」

 ――俺のとは全然違うな。

 過ぎる声につい後ろを意識して、すぐに脳内に浮かぶ(水泡に形容された)イメージをかき消した。
 ぞくぞくぞくっと中が震え上がるのが指に伝わる。つま先がピンと伸びて力が入って、口をへの字に曲げて、一生懸命イッてる。
 丁寧に丁寧に、会話を重ねながら愛撫を続け、玲児の体は全身くまなく温かくなった。
 そろそろだと、中の収縮が落ち着いた頃に指を引き抜く。

「玲児……もう入れていい? 玲児のこと抱きたいんだ。気持ちよくなりたいんじゃない、玲児と繋がりたいんだ」

 絶頂の余韻に力の抜けた顔をしたまま、玲児の腕が伸びてきて俺の首を抱く。眉間には何もない、ただあどけない顔をしたたれ目の青年がそこにはいた。
 口角がふっと上がって微笑むと、灰色がかった瞳が涙で艷めく。

「気持ちよくなって、いいんだ。一緒に……」

 首を抱く手が、襟足に伸びる髪を撫でる。そわりとして背筋が伸びた。

「俺は隼人にも気持ちよくなって欲しい。気持ちよくしてやりたい」

 肌の上を滑って転がり落ちていく、水の粒の一つ一つが輝いて見える。玲児は何もかも全部、こんなに綺麗に見せてしまう。目の前に広がる光景に毎秒感動してるんだ。

「その言葉だけでめちゃくちゃ気持ちよくなれるよ」

 二人でお互いの瞳の奥の奥まで覗く。そのまま瞳に吸い込まれて一つになるみたいに玲児の中に入って本当に一つになる。
 水泡に言えなかった言葉がいくつもいくつもこぼれ落ちる。







 内臓ごちゃまぜにして掻き回されてるみたい。
 腸がこのままズルッと引き抜かれて死ぬんじゃないかという恐怖と、死ぬような快感に溺れる。
 イキっぱなしで、頭バカになって、はひはひと人として終わってる声をあげる。

「ヒゥッ……はひ、ひ、ひぶっ、ゔ……お、おぉっ…………ぁっ」
「鼻変だね……ん、ふふ、鼻水出すぎ……」

 よしよしと頭を撫でられて、ティッシュで鼻を拭かれ、なんか知らないけど鼻の穴めちゃくちゃ舐められた。ふぐ、ふぐって俺が変な音立ててるの見て笑ってる。

「みなぁ、おれ、おれぇ……しや、ぁせ……」
「うん?」
「しや、あっ、ぅぐ」
「なーに?」

 ぐぽっと引っ掛けていた奥からちんぽが抜け、ケツが浮くほど仰け反った。

「しょごっ、いまっ、ゔぅぅぅーっ……!」
「んっ、あ……はぁー……これ、ぼくが責められてる……? あー、中きもちい」
「ま、ぁ、ま、だしゃ、な、れっ……」
「んー……? それは、出さないで、かな……いいよ、がんばるね」

 また、よしよしされる。
 いっぱいになってくる。
 でも、もう少し。もう少しほしい。もっと。






 腰を打つ度に、細い身体が跳ねる。
 太ももを押さえつけて突き上げたら、骨が歪んでしまいそうだと思った。
 でもそんな繊細な姿を美しいと思う。脂肪のない、筋肉も少ない、磨き上げた陶器のような身体。
 乱暴にしたらひび割れそうな身体。
 肌に浮かぶ雫が汗だなんて到底思えない。朝露のような儚さだ。

「はやと、もっとほしい、もっとはげしくして、いぃ……からっ……」
「辛くない?」
「む、ぁ、んんっ、う……へいきだ、へいき、だから」
「わかった。痛かったら言えよ?」
 頷く額にキスして、腰の動きを早める。
「あっあっあっ、はやとっ、はやとっ、ひぁっ」
「はは、中震えてる。ゾクゾクきた? 抜けんの好きだな?」
「ん、んむっ、あ……はやとっ」
「呼んでる? どした?」
「うれし、ぃ……うれしい……っ! はやとに、抱かれて……っ……はやとぉ」

 閉じた目の端に、涙が滲んでる。
 堪らない気持ちになって、顔のあちこちにキスをした。

「ごめんな、玲児。俺も嬉しいよ」
「ん、ぅんっ……っ! んっ」

 心は満たされているのに、なかなか絶頂感が上がってこなくて、焦らしに焦らす。
 水泡なんてまだ出したくないって何回も動き止めたり俺から抜いたりしてるのに。

「ん……」

 だめだって引き抜いて、息整えてる時の顔を思い出す。顎にだらだら伝うくらい汗流して、垂れた長い前髪を大きな手でかき上げて、伏せたまつ毛が長くって。
 どろどろになりながらも見惚れていたら目が合って、微笑んで。ちょっと待っててねってよしよしされたり、キスされたりして。
 あ、ケツに力いれるときもちいい。

「玲児、イッてい……?」

 抱きしめているため肩にこくこくと鼻の頭がぶつかる。声我慢しなくていいのに、さっきからずっと縮こまってるのが可愛い。
 ケツをぎゅっとしたり、ゆるめたりを繰り返すと中がそれだけでも刺激されて気持ちよく、はぁっ、はぁっ、と何度も深く息を吐いて、俺も声が出るのを我慢して。
 それと同時に玲児の中に打ち込んで、達する。
 荒い息のまま目を閉じてじっとしている玲児に自然と微笑んで、引き抜いて、コンドームを外す。
 冷えていく頭の中でずっと俺はこんな風に玲児の中に射精するのだろうかと考えていた。







 水泡を見ようと思ったら、精液に塗れてどろどろになった自分のちんぽが見えた。
 もう出ないよ。ちゃんとした射精なんかできてない、全部ポタポタと押し出され、溢れ出ただけ。
 そうか、射精になんか大した意味はないのか。
 気持ちよくなれればそれでいい。相手を深く感じて触れ合うことができればいい。心や身体がどう感じるかが一番大事。
 女でもイクことができないやつがいるっていうし、それでもあいつらだってセックスするんだから。





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