ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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メス堕ちさせた元タチへの愛のあるセックスの教え方⑧

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 大浴場に行こう。そう、やり取りをしていたわけだが。
 性欲の落ち着いた隼人は足伸ばしてデカイ風呂に入りたいと言っていたのだが。

「腰にちんこ当てんなよ」
「当ててない」
「でけーんだよ」
「僕のせいじゃない」
「チッ……」
「こら。舌打ちだめ」
「ちぇっー!」
「かわいい」
「は? そういう反応求めてなかったわ」

 僕らは結局大浴場に行くことはなく、隼人の背中をギュッと抱きしめ、隼人は僕に寄りかかって、部屋についている露天風呂に二人で小さくなってハマっている。
 長方形に枠組みされた檜風呂は、ビジネスホテルやラブホテルに比べたらふたまわりほどは大きく見える。二人でこうしてくっついて入れば身動ぐ余裕もある。それでも大柄の男二人が余裕で足を伸ばしてくつろげると言えるには程遠い。
 隼人は「足伸ばしたい」「人のいないでかい風呂で泳ぐ」「サウナと水風呂を順番に入るやつやってみたい」としばらくごねていたが、すっかり元気な人みたいな発言をしている顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。
 目の周りの赤みが引かなくて、あまり力が入らずにぽーっとして。
 とても外に出せる状態ではなかった。
 というより、こんな隼人を誰にも見せたくなかった。
 本当に……本当に、あんなことするんじゃなかった。即尺してもらった後、たまに口でお返ししてあげると喜ぶし、舐めてあげればよかった。
 少し前は出雲の可愛いふにゃちんに慣れすぎて隼人の立派なモノを咥えるのは多少抵抗があったが、たくさん可愛がってあげられるようになってきた。
 ああ、もう。だめだ。気分が落ちる。

「暗くなる前に入れてよかったなー。景色すっげぇじゃん。ちょー葉っぱ。黄色とか茶色混じってるけどさ、夏とかすげー緑になんのかなぁ」
「うん」

 露天風呂と寝椅子、それに小さなテーブルが設置された大きなテラスから一望できる渓谷を眺め、リラックスした状態で僕に背中を預けてくれている。そんな彼の後頭部やこめかみに、気持ちを込めてキスをする。
 さっきから悔恨に苛まれる度にこうしてキスをしている。酷いことをしてごめんねと、もっと大事にするねの誓い……の、つもりかもしれない。

「なぁー見てないだろおまえー」
「君の方が……綺麗、なんだもん」
「顔見えてねぇーじゃん」
「髪の毛アップにしたうなじも、火照った耳も、凹凸の浮かぶ背筋も……すごく、綺麗」
「でもいつでも見れんじゃん」
「ほんと? いつでも見たい、な」
「いつでも見れば?」
「うん……」

 ちゃぷんと鳴って、隼人が振り返る。
 向かい合って、両頬を包まれる。
 はじめはちゃんと目を合わせていたが、まだ赤い目元や少し腫れぼったい瞼が見ていられず俯いた。

「なぁー? 落ち込んでんだろ?」
「うん?」
「お前は別に何っも悪くねぇからな?」
「それはない」
「俺がおかしいだろ、あんなこと言って」

 頬を指先が滑る。撫でられてるみたいに。
 そうして隼人は屈んで、俯く僕の顔を覗き込んで、眉を下げた困り顔で僕と目を合わせてきた。

「だからそういうなんか……悲しそうな声とか顔とか、やめろよ。こっちが落ち込むっつーの……」

 可愛くて、本当に大好きで、抱きしめて頬ずりする。

「僕が、悪い」
「なんでだよ」
「君が辛くなること、させた。僕の言うこと聞いてくれる君が、可愛いから」
「うんうん」

 頭をよしよしされる。なんだか余計に悲しくなった。
 隼人は頭を撫でながらギュッと肩を抱き返してくる。

「つーことは? 俺が言うこと聞いてくれると嬉しいわけだ」
「全部聞く必要、ないよ」
「元から全部なんて聞かねぇーよ。そうじゃなくて。今から三つ、お前の言うこと聞いてやるよ。あ、でも今すぐな? じっくり考えんの禁止。ほれほれ、言ってみろ」
「……え」
「ほら一個めー」
「ちょっと、待って……え?」
「お、待ってが一個めかー?」
「違う……じゃあ、キスして。僕が次のお願い、考えられるくらい……長いの」
「おっけー。ちゃんと考えろよ」

 頬と頬を合わせていた顔が目の前にくる。唇が開いて、舌を垂らして、僕の下唇を悪戯に舐める。

「オラ。俺がしてやるからお前も舌出せよ」
「あ」
「ん、よしよし。今は俺に任せろよ? お前は俺に合わせて……ん、ぁ……」

 垂らした舌の舌先から根元に向かって、れろぉっと舌が這っていく。舌を擦り合わせ、舌と舌の間で唾液が絡まって、口の中に入ってくる。
 我慢できなくてずいっと舌を隼人の口内へ押し込めようとしたら、舌で器用に押し返され、うなじを抓られた。肉がないたころなので結構痛くて舌が自然と引っ込む。

「だめ……俺がやるって言ったろ?」

 低く色っぽい声に吐息混じりで囁かれ、耳元で言われたわけでもないのに耳の奥がぞわりとした。
 隼人の舌は前歯の歯茎の溝のところまで、じっくり丁寧に撫で回している……まずは上から、そして下も。気持ちが良くて、ぞわぞわして、落ち着かない。だめだ、これじゃあ次のお願いなんて何も思いつかない。
 また舌をくちゅくちゅと絡めてきた隼人は、息を荒げながら胸の先を引っ掻いてきた。触っていいなら僕だってと、お返しに小さく尖った乳首を親指の腹でさする。

「ふぁっ…………ン……」

 舌が引っ込んで、ちゅう、ちゅう、と僕の唇を吸ってくる。そうして舌先がまた口内入ってきたタイミングで両方の乳首を優しく摘んで擦ると、可愛い声をあげて唇が離れていった。
 堪らずに追っかけて唇を食べる。ぺろぺろ舐めて、舌を絡めとって、唾液を搾りとるように舌を吸う。

「は、あ、あ……」

 キスと呼んでいいのかわからないほど隼人はぽっかりと口を大きく開けて、舌を差し出してただひたすらにやらしい声を上げている。こんな外で、木々が揺らす冷たい風を熱い頬に感じながら、いつの間にか僕のされるがままになっていた。
 自分からいじりだしたくせに、僕の胸に置かれた隼人の手は、本当にただ胸板に添えられているだけだ。

「ん、ぁっ、みっ、みな、わ……」
「うん?」
「にこめ、決まった……?」
「……どうしようかな」

 腰をそわそわと揺らす隼人の耳の後ろにキスして、そのまま首筋にもたくさんキスして、たまに舌を忍ばせながら、ツンと主張する胸の先を親指と人差し指で浅く摘む。少し引っ張ったり、上下にさすったり。
 全然我慢できないな。触りたくて、触りたくて、たまらない。

「みなわぁ……おねがい、はやく……っ」
「えっちなお願い、してほしそう……お尻舐めたいってお願いしてあげようか?」
「や、ん、んぅ、んなわけっ、ねぇだろ……! 俺がおねがぃすんならっ……もうさわんなって、言ぅっ、からなっ……!」
「ふふ、それはだめ。でも本当にやめてほしいなら、今はやめる」

 ね、やめる? ともう一度聞いて、耳の突起のような軟骨を舐めて、しゃぶって、首筋を吸う。痕をつける気で、吸う。

「あっ、あぁ……やめ、なくていぃ……やめないで、もっと吸って……」
「痕、つけていいの? 大浴場で見せつけちゃうよ?」
「いい……あしたまで、おまえのだから……こんないい男がお前に女にされてるって見せつけてぇの?」
「やらしすぎるな……見せつけたいよ。見せつけたい」

 そんなこと言われたら、みっともないほど卑猥に、そこらじゅうを赤で塗りたくりたくなる。
 明日までじゃなくてずっと僕のものでいてと願いたくなる。
 あと二つ。
 願ってみたいことは山ほどある。
 このまま二人で逃げよう。
 二人で暮らしてみよう。
 全部忘れてしまおう。
 僕のことだけ見て。
 思いつくことはいくらでもあるが、どれも実現するのは難しい。子供が「スーパーヒーローになりたい」と願うくらいの絵空事。いや、スーパーヒーローではなく宇宙飛行士にしておこう。
 でも本当は……舌を吸い終わって君の顔を見た時に、もう決まっていた。

「二個目は……僕のこと、嫌いにならないで。逃げないで」
「…………逃げねぇよ……?」
「うん。叶えてね」
「それでいいのかよ? んーじゃあ三個目は?」
「君のこと、教えて」

 僕を見る目が大きく開き、瞳が凍てつく。
 僕の知りたいことは隼人だってなんなのかわかってる。別に好きな食べ物や音楽やゲームを知りたいわけじゃない。いや、教えくれるなら是非それも聞きたいけれど。

「君の小さい時のこと……聞きたい。でも駄目なら、叶えてくれなくて……いい」
「おれ、進藤先生にもちゃんと……話せてない。篤志さん達も俺が何されてたか聞いてはいるけど、ちゃんと知ってるわけじゃない。誰も、知らない。俺と、叔母さんしか……」
「うん、だから……こんなお願いする僕を、嫌いにならないで。全部知ってしまっても、逃げないで」
「つかもうさ、だいたい分かってんだろ?」
「……ごめん。話したくないなら、いい。おしり舐める」
「ばか、やだよ。今から飯食うんだから」

 唇を尖らせてそっぽを向いた隼人が、視線を向けた先に広がっていた景色に意識を奪われる瞬間を、目の当たりにする。不安に暗くなった錆色の瞳が、再び輝く瞬間だ。
 どこまでも広がる木々、一枚一枚くっきり浮かび上がるような葉が茜色に染まっていく。
 もうすぐ、陽がくれる。
 いつもより隼人の髪色も、瞳も、赤く見える。
 いつも会うのは夜ばかりだから気が付かなかった。君がこんなにも夕陽に美しく溶け込むのを。
 水分を含んで重くなった髪の毛を指で梳く。少しも引っかからない、綺麗な髪。
 隼人は横目で髪をいじる指先に目を向けて、甘えるように僕の肩にもたれて身を寄せる。

「あのさ。一個俺も、お願いしていい?」
「うん?」
「お前の話も聞かせろよ。超つまんねーなんでもない話でもなんでもいいからさ。お前の子供の頃とか全ッ然、想像つかねぇし」
「僕の話?」
「そうそう。友達とかいた? ガキの頃からデカかった?」
「いなかった。大きかった」
「えーマジかぁ。あとなんだろー、マジなんでもいいんだけど。夕飯何が好きだったとか。親って飯とか作ってくれるタイプだった? つかお前の親ってどんなだよ、マジ想像つかねー! きょうだいとかはいなかったよな? みなわ父とみなわ母とお前の三人で同じ顔して同じ喋り方してたらめっちゃウケる!」
「えーと」

 子供みたいな転がる笑い声を聞きながら、言われたことを頭の中で整理する。一つずつ頭の中で確認していかないと間違った情報を与えてしまいそうだ。
 うーんうーんと僕が悩んでる間、暇そうに隼人は僕の乳輪のそのまた周りを指でくるくる円を描いて遊んでる。やめなさいと手でそれを払いながらまとめた回答を出力する。

「見た事ない、けど……兄弟はいた、はず……? 人数は、知らない。父親は君も、知ってる……僕らのいた高校の、理事」
「……は? 苗字違くね?」

 肩に預けられた頭が、くっついたまま上をむく。

「違う。母親は、確かに……こんな顔」

 そんな隼人に自分の顔が見えるように首を傾げた。僕は父親には全く似ていない。身長だけは遺伝したが、顔は純度そのまま母親そっくりなのだ。

「あと……ごはん、だっけ? 菓子パン食べてた」
「菓子パンって。朝飯?」
「うん? うん。昼は給食で……夜も、菓子パン。ジャムパンとかクリームパンとか……」
「マジ? 夜も? じゃあ休みん時は?」
「パン」
「えぇ……マジかよ……料理しねぇ親っつーこと? にしてもずっとパンかよ。飽きるだろ。ぜってぇヤダなそれ」
「ううん……なんで、他のもの買わなかったんだろうって……今なら、思うのだけど。その時は、他のものという発想が……なかった。おそらく。家に置かれてるのは……菓子パンか、お金……だったから」

 目を瞑って、なにか思い出そうとしてみる。
 浮かぶのは薄暗い自分の部屋。テーブルにはいつもお札か、菓子パンが置かれていた。菓子パンに加えジュースばかり買っていたから乳歯は虫歯が多く、痛みや不快感に悩まされていた。それが嫌で永久歯が生える頃からは歯磨きやフロスに気を使っていたっけ。
 今ほど便利ではなかったが、パソコンが買い与えられていたのと、近くに本屋があったおかげで情報収集に困ることはなかった。親に教えてもらうよりも正確な情報が得られて良かったと思う。
 親の話、か。母親を思い出そうとすると、その姿がぼやける。顔が僕と似ているという事実は理解しているのだが、思い浮かぶ姿がない。
 思い浮かぶのは、襖の柄。

「話…………してあげたいけど……ないな……ゲームセンターに、いたよ。いつも。やってたゲームの話なら、できるよ?」
「それも聞くけどさ……お前の母親、顔が似てた以外に……なんかねぇの?」

 僕の頬に触れ、触れたのと逆の首筋にちゅ、とされる。なんだかこの子、とろとろしてきてないか? のぼせたかな、そろそろ出ないと。

「へへ、お前が母親似なら、すげー綺麗な人なんだろうなぁ……」
「うーん……と……」

 僕がそもそも隼人の話を聞きたいとお願いしたのだから、何か話してあげたい。でも本当に何も浮かばない。焦る。とりあえず寝椅子にでも移動させたい。

「僕はね、簡潔に言うとネグレクトを受けてたんだ。ネグレクト、知ってる? だから、思い出は……なくて。ごめんね? なにか、あるかな。思いついたら、話したいけど……それより君が心配だよ。くらくら、しない? のぼせてる? 出よう?」
「え、あ…………うん……出る、か……え、つか、え?」
「ほら、肩」
「あー、うん」

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