ブルガリブラックに濡れる〜恋人の元・セフレ(攻)を優しくじっくりメス堕ちさせる話〜

松原 慎

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メス堕ちさせた元タチへの愛のあるセックスの教え方③

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 ラジオパーソナリティの質問にすぐ言葉が出なくて「あー」とか「えーとですね」なんて呟きながら困ったように笑う声が可愛い。

『ロロロキさん……えーと、四十代男性の方ですか。俺でいいのかな、元気づけるの。なんだコイツ生意気だなってならないですかね』

 ――汚したくねぇから、抱かないよ……。

 しかし声を聞いていたら、ついあの泣いてるみたいな言葉を思い出してしまい、奥歯がギュッとする。
 あの子が……あんなに大事にしている瑞生を汚してるわけないのに。
 僕に抱かれて快感に溺れたって、抱かれるための身体に作り直してあげたって。君が瑞生を抱き続けていたのは確実に愛情だろう?
 僕とのセックスで得る快感が瑞生に負けるなら、君は僕に抱かれないだろう? 僕に抱かれる必要はないだろう?
 だからだよ。
 君が瑞生を抱けなくなればいいって。
 君が僕を必要じゃなくなったら、嫌だから。
 僕は君の全部を受け止める。
 君の全部を好きになってあげられる。
 それをわからせるために、僕が必要だと思わせるために、快楽ホルモンを一気に放出したせいでバランスを崩した君の精神を、ぐちゃぐちゃに掻き回して引き摺り出してきた。
 最初は意図しないものだった。
 その次は君を知ってあげたかった。
 でも、そんな君をたくさん甘やかしてあげたい、可愛がってあげたい、救ってあげたい。
 そう思い始めた時が、堕ち始めた時だった。

『彼女と過した時間、重いですよね、きっと……長ければ長いほど。でも無駄にはならないと思います。経験したこととか、その時に芽生えた感情って消えてなくて、今の自分もそれがあったからできてるわけで』

 僕が絶対必要な、そんな君にしたかった。
 飲みに行くと隼人は色んな話をしてくれたが、瑞生の話をしている時が一番楽しそうだった。
 恋人のおっちょこちょいなエピソードを今まさに起きてるかのごとくゲラゲラと笑いながら話すし、かと思えばふとした顔や仕草がカッコよくて綺麗で毎回惚れ直すとかデレデレと話してくるし、恋人の友人と自分も仲が良いのについ嫉妬するし普通にムカつくと言って片頬を膨らませてふてくされるし。
 瑞生を大好きな隼人は可愛かった。
 そんな風に思い返しているとどうしたらいいかわからなくなる。
 君の悲しい顔を思い出すと、わからなくなる。

『ロロロキさん、優しそうですよね。文章とか言葉が柔らかくて好きな感じです。ロロロキさんに何か良いことがあるといいな。イケメンパワーで元気をくださいって言うのはちょっと、よくわかんないんですけど。うーん、顔見えなくてもパワー送れるんですかね?』

 ほら、ね。
 僕は君の顔を見ながらじゃ、酷いことできないんだ。
 隼人が誰よりも瑞生を愛してることをわかってる。
 だから絶対に僕に気持ちが向くことはないとわかってる。
 それを全部わかってて僕は、嫉妬して、独占できるところを探して、僕のものだと自分を納得させて。
 でも僕には、出雲がいる。
 わからない。
 わかるけど、わかりたくない。
 僕は隼人が欲しくてたまらないくせに、隼人が振り向くことはない安心感の上であぐらをかいてる。
 選ばれないから、選ばなくていい。
(もっとずるいことに、僕は出雲に対しても自分が選ぶのを放棄している。あの子を拘束していることは間違いだ。あの子には自由でいてほしかった。でも解放してやることはできないから、僕を嫌いになるならそれでもいいと思ってる。僕はずるい)
 手に入れたいのに、瑞生とセックスしてほしくないと思うのに、君たちが上手くいかないのは違うと思ってしまう。
 “瑞生を愛する”ということは隼人そのもので、隼人の存在の半分以上を形作っていると言っても過言ではないと思う。僕はきっとまだ隼人の一部分にすらなれていない。あちこちにある小さな寂しい隙間に僕を無理矢理にねじ込んだだけ。
 だから、選びたくないからとか僕のワガママは関係なく、君たちが上手くいかないのは間違ったことだと思う。
 隼人がなくなってしまうから。
 もしかしたら、いつか自分が埋めてやればいいと思う日がくるかもしれない。
 でも今は。
 いや……わからない。
 自分の考えにも行動にも、一貫性がまるでない。腹の中で今にも戦争が起きそうだ。

『え、そんなんでいいんですかね? えーマジっすか? ちょっと恥ずかしいなぁ……い、イケメンパワー! いや、これ絶対効かなくないですか?!』

 ああもう、可愛いな。
 疲れた顔したサラリーマンだらけの電車の中で、場違いに微笑んでしまうよ。
 このままでは“なんでもいいから君が大好きだ”の不戦勝だ。

『あー恥ずかしかった。めっちゃ顔熱いんですけど……もう。ふぅ』

 僕は。
 絶対に絶対にないことだとしても。
 もし、君が僕を選ぶようなことがあったら、僕は。

『やーでも本当……』

 答えなんか出るわけない。
 ラジオでは、隼人からリスナーへの優しい願いが流れてくる。

『ロロロキさんの毎日に、小さな幸せが積み重なっていきますように。それが大きな幸せにつながりますように。おっ、次のコーナーですか? 次は……』



 ※※※※※※※



『部屋で懐石料理かバイキング』
『ぜってぇバイキング!』
『外せない食べ物』
『和洋中あるとこ! ローストビーフとか蟹とか、あと天ぷら目の前で揚げてくれるやつ!』
『全部は厳しい』
『はぁー? 和洋中はいけんだろ?』
『うん。後半三つの優先順位』
『天ぷら。あと二つは同じくらい』
『洋室か和室』
『部屋に露天風呂ついてるやつって和室じゃねーの?』
『洋室もある』
『でも和室のほうが雰囲気あんじゃね? 布団だと膝痛い?』
『いや、いいよ』
『じゃあ和室な!』
『聞くこと終わり。また連絡する』
『あ、待った!』
『なに』
『ちゃんと浴衣貸してくれるとこがいい』
『浴衣脱がしてほしいの?』
『ちげぇよ、浴衣似合いそうじゃん。お前。三割増しいけんじゃね。俺だってどうせならいい男に抱かれたいんだよ』
『いい男に浴衣脱がされたいの?』
『もーいいよそれで。きもおやじ』
『そのきもおやじが好きなくせに』

 ――ここから、しばらく時間をおいてからの。

『まぁ、好き』

 そこまで間を開けず声で会話するかの如くテンポよくやりとりしていたのに、最後の『まぁ、好き』なんてたった五文字を打つだけで五分の間隔が空いた。
 五分。五分間、隼人はどう返そうかと考えていたのだ。
 初めは「もう知らねぇ」とか言って、スマホを放り出していたのかもしれない。返信なんかしてやるか、と。
 しかし放置してみたら気になって、なにかリアクションをしてくれようとして。
 とりあえず返しただけなのか。僕を喜ばせようとしたのか。これもまた甘えているのか。ただ好きと言いたかったのか。
 その五分を想像するだけで胸がキュッとする。ちょっと息が詰まるくらいなのに、締め付けられる感覚が心地いい。
 今日がくるまで、たくさんの“五分間”を想像した。
 何回も画面を開いて、口角が上がりそうになるのを手を添えて誤魔化して、それでもきっと細めた目は誤魔化しきれなくて。
 僕の中に住む隼人はどれもとても可愛くて。
 夢見すぎたかな、なんて反省して。
 そうして待ちに待った今日を迎え、待ち合わせ場所である駅のロータリーへ車を停める。平日昼間だ、人は多くない。改札から足早に出てくる長い足、周囲より頭一つ大きな隼人を見つけるのはすぐだった。
 ヘッドライトを点滅させて合図をすると、彼の小さな頭に乗せられた大きなキャップのつばをくいっと持ち上げこちらを確認する。
 切れ長で流し目のよく似合う目が、大きく開いてキラキラと輝くのを、遠目なのにこんなにもよく伝わってくる。
 彼が笑顔を見せてくれているのだから僕も笑って返せばいいのに、微笑みなんて呼べないだらしないニヤけ顔になりそうで、顎をさすって顔を隠す。
 それなのに僕は、バックドアを開けてボストンバックを詰む姿をミラー越しに目で追った後、助手席に乗り込みシートベルトを締める横顔に「会いたかった」と零してしまった。
 その言葉に反応して隼人がこちらを向く前に、何ともないふりをして正面へ向き直り車を走らせる。
 夢見すぎなんてことはなかった。
 現実の隼人を目の前にして、自分の中に住む君よりずっと可愛いと思ったことが、気恥ずかしくて堪らない。
 運転していても横目で隼人がじーっと僕の横顔を見つめているのがわかる。しかもなんか、口の端だけ引き上げてニヤニヤとしながら。

「……なに」
「ちゅーしとく?」
「しない」
「ふーん、しねぇの」
「しない」

 素っ気ない僕に「つまんねぇのー」とこぼしながら、レザー素材のバナナ型ショルダーバックから280mlサイズのペットボトルに入ったコーヒーを二本取り出し、一本はドアポケットへ、一本はこちらに渡してくれた。
 隼人のは無糖ラテ、僕のは微糖。車に乗せたのは二度目だが、前も自販機でお茶を二本買ってから乗り込んでいたことを思い出した。こういう所は意外とちゃんとしている。
 自分のスマホのBluetoothと繋げたいと設定方法をごちゃごちゃ聞かれたり(ナビが見たいのだが)、自分も車が欲しいと言うので「軽は狭いからやめろ」、「頭がつかないか、足をある程度伸ばせるかどうかを一番に優先しろ」とだけアドバイスしたり、見慣れない景色が流れるのを眺めながら聞き慣れない店名をぽつぽつ呟くのを聞いたり。
 車内がこんなに賑やかなことが今まであっただろうか。

「なぁー、カーセックスしたことある?」
「ない」
「マジ? 今度する?」
「やだ。狭い」
「えー、なんとかいけそうじゃね? 和人さんに騎乗位してもらったことあるよ。超狭かったけど。俺がお前の膝乗ってさ……」
「公然わいせつ罪」

 いらない情報すぎる。写真でしか見た事のない美人な彼との行為を想像してしまうじゃないか。

「その長い足、どこに伸ばすの?」
「どっかに!」
「無理」
「えーやってみたかったのにな。狭くて密着するし、空気こもる感じが興奮するし、何よりエロいし」

 ツンツンツンツンと、やかましいな。運転してる人間の脇腹をつつくんじゃない。

「君、車内びしょびしょにするでしょ」
「は? あ…………まぁ……そうか」

 すぐに言葉の意図を理解した声は、もじもじと小さくなっていく。脇腹をつつく指を引っ込めて、ぷいっと窓の外を見て、コーヒーを一口飲んで。気まずいんだか照れてるんだか、そんな様子を横目で見ながらくすりと笑う。

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