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恋人の元セフレと浮気したのがバレたと思ったら発情された①

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 帰宅すればリビングに人の気配はなく、しんと静まり返っていた。毎朝起きてすぐに出雲が開けているはずのカーテンも、本人不在のため閉めきったままとなっている。
 冷房がついているため屋内環境は問題ないが、日中なのに暗いためかなんとなく陰気臭い。カーテンはそのままにしておき、とりあえず昨日から着たままのワイシャツとスラックスを着替えるため寝室へ向かう。
 どこからも物音がしないので眠っているのかもしれない。起こさないようにそっと扉を開けて、クローゼットより先にベッドへ近づき一応姿があるか確認してみる。
 するとやはりそこには、ベッドの真ん中で赤ん坊のように背を丸め、いつも通りサイズの大きなTシャツ一枚だけ身につけている僕の可愛い子がいた。
 頬と目の下が赤く、よく見れば目尻に涙のつぶが光っている。手元を見れば、片方は柔らかい男性器に添えられ、もう片方は太ももに挟まれており「不安な時はパニックを起こす前に気持ちよくなって寝てしまうように」という言いつけを今回もきちんと守れただろうことが見て取れた。
 寝息にまじってひくひくとしゃくる声が聞こえ、思わず着替えるよりも前にベッドに腰掛け、濡れた目尻に手を伸ばす。

 出雲からは連絡が三件、着ていた。
 一件は電話の着信。残り二件はメッセージが入っていた。

『おはようございます。夜はゆっくり休めましたか? 電車は通常通り動いているみたいでよかったです。帰宅する頃、連絡ください』
『まだお休みでしょうか? お疲れかと思いますのでゆっくりで構いませんが、心配なので一度連絡をくださると嬉しいです』

 そんな内容のものが朝と昼に一件ずつ。
 午後二時にホテルをチェックアウトして、電車に乗る際に連絡を入れたが既読にはならなかった。きっと既にその頃には不安が積もり積もって我慢できなくなっていたのだろう。

「ごめんね……」

 自然と口から謝罪がこぼれる。
 停電により真っ暗闇になっていては、慣れた部屋でも一人でいるのはきっと心細かっただろう。
 電車が止まってホテルに泊まっていくと連絡はしていたが、こんなに長い時間離れることもないのでとても寂しかっただろう。
 不安で仕方なかっただろうに、僕を気遣い、連絡は最小限にして、言いつけもしっかり守って。
 もっと早く帰ることもできたのに、僕は大鳥とセックスしていた。出雲は一人で泣いていたのに。
 出雲のことを想うと、胸がむず痒いような痛いような、とにかく内側を掻きむしりたくてたまらなくなるような、むずむずと変な感覚に陥った。これはたぶん、罪悪感。
 さっきまであまり深く考えていなかった。
 しかしいざ出雲を目の当たりにすると、出雲以外に欲情し、裏切ってしまった事実がギリギリと僕を責め立ててくる。
 これまで「浮気をしないように」と意識をすることがなかったので(そもそも他の人間と性行為をしたいという欲求がなかったため)、こういう事態になることを全く想定していなかった。僕は出雲と普段通りに接することができるのだろうか。
 出雲が寝ているうちに少し気を落ち着けようと、ベッドから離れようとした。
 しかしそのタイミングで出雲が寝返りを打ち、仰向けになりながら小さく口を開く。

「はやと……?」

 まさかと振り返る。
 なんで今その名前なんだ。
 出雲は閉じていた目を薄く開いて、僕のワイシャツの裾を掴んだ。

「はやと……」

 体がこわばって、息が苦しくなる。
 ごくりと唾を飲み込み一呼吸置いてから、確認をとるように恐る恐る名前を呼んだ。

「出雲?」

 僕の声を聞いた出雲は、カッと目を見開いて自分がシャツを握る男の姿を上から下まで確認した。そして飛び跳ねるように起き上がり近づいて来たと思えば、かなりの至近距離で顔を見つめられた。
 驚いたまま、まだいつもより大きな目で、じっと。

「寝ぼけてる……?」
「いえ」
「怒ってる?」
「いえ」
「遅くなって、ごめんね? ただいま」

 起きたら帰ってきていたことに驚いたのか、自分が「はやと」と言ったことに驚いたのかわからないが、抱きしめて落ち着けようかと腰に手を回してぐっと寄せ付けたら、出雲の顔が一瞬で真っ赤に染まった。そして、驚いていた顔のパーツがへなりと下がって困った顔に変わっていく。
 そのまま実際にぎゅうっと抱きしめれば「あぁ」とため息のような声を漏らした。

「どうしたの?」
「あ、えっと……おかえり、なさい……」
「うん。いい子で、待ってくれてたんだね。偉いね」

 褒めて頭を撫でればいつも力の抜ける出雲の身体は、そわそわと落ち着かない。
 それどころか……下半身を揺すって、ベッドに押し付けているようにすら思える。

「気持ちよくなってたみたいだね。まだ火照ってるの?」
「ふぁっ……ちがう、先生、違います」
「うん?」
「隼人の匂いが、します……今まで、隼人とお食事に行かれて帰られた後もこんなことありませんでした……どうして? 隼人に抱きしめられてるかと、思うほど。こんなに隼人の匂いがする……」

 すんと鼻を動かしながら、ぴくりと背を震わせて、ため息を漏らす。 
 これでは……これでは、まるで。
 君が大鳥に発情しているみたいじゃないか。

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