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影日向の告白

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 だめだ、だめだ、絶対に嫌だ。イキたくない。
 抵抗したい、身体を動かせ。しかし必死になってやっとできたことは頭を力なくどうにか左右に振って嫌だと意思表示するくらいだった。
 胸の尖端をちゅっちゅと音を立てて舐められながら、じっくり指の出し入れを繰り返され自然と腰が浮く。ろくに抵抗もせずにこんな反応をしていては気持ちが良いと言っているようなものだ。浅人もそれがわかってふっと笑う。その息にまた敏感に身体が震えてしまう。
「ごめんね、玲児。違うんだよ。見たくないって言ったけど知りたいんだ。だから見せていいんだよ、ほら気持ちいいもんね?」
「や、ぁ、あぁ、あ……や、だ……ぁ……っ」
「隼人しか知らない玲児を見せて。僕の知らない玲児が見たいんだ」
 熱い。
 指がゆっくりゆっくり腸壁を擦りながら引き抜かれていく。そうして引き抜く寸前までいくと、また侵入して。それを何度かすると中の硬くなった部分を撫で回され……隼人にされているような指の動きだ。浅人も隼人にされているから、似た動きになるのだろう。
 こんな風に隼人にされてるように気持ち良くされたらもうわけがわからない。相手は浅人なのに。
 もういやだ、やだ、いやだ。
「きもちいのやだっ……も、やめ……ぅ、あぁ……きもちいぃ……やだぁ……はぁ、あっ、きもちい……」
「そんなに気持ちいいの?」
 意識が朦朧として聞かれたことに素直に頷いてしまう。気持ちよくて気持ちよくてもう嫌だ。そんな俺を見て浅人はため息をもらして可愛いと囁いた。
「入れようか。エッチしよっか。僕、実はすっごい立っちゃってて……ほら触ってよ」
 言うと指がするりと引き抜かれる。名残惜しいかのように最後にキュッと締めてしまい、変態だね可愛いねとまた言われてしまった。そしてその場で立膝になると片手でベルトを外し始め、するりとズボンが落ちた。ボクサーパンツを押し上げるそれが見える。
 やっとまともに浅人の顔に目をやると、余裕のない、見た事のない顔をしていた。こちらの視線に気が付き目が合えば微笑んでくれたが、いつもの朗らかな笑顔と違って慈しむような、随分と大人びた男性的な表情に怖くなった。こんな浅人は知らない。
「いやだ浅人、見たくない……したくもない……」
「そんな事言わないでよ。玲児はエッチなんだからすぐその気になるでしょ。舐めたりするの? ほら触って」
 ベットに投げ出されていた右腕を強引に引かれ、身体がガクンと揺れ頭に激痛が走った。
「痛っつ……!」
「玲児?  うわぁ、腕熱いな……」
 確実に熱が上がってるのは自分でも感じている。頭は痛いし何もされてなくても息は乱れているし、もう、もうやめてほしい。しかし手に硬い感触がして、浅人は自分の手を俺の手に被せてそれを握らせた。熱く湿っていて直接触らされていると気付き、手を引こうとするがやはりできない。浅人の手により上下に動かされ扱かされ、彼の甘い吐息が聞こえてくる。
「ん、ん……玲児の手……大きいけど華奢だなぁ……はぁ、もう少しちゃんと握ってよ? ほら……」
 手の甲に被さっていた袖をまくり上げられたと思えば、手の動きが止まった。男性器から手が離されるが、腕を掴んだまま上へ引かれる。
「なにこれ……」
 息を飲む音にうっすらとまぶたを開く。目を開けるのも辛い。さきほどまで頬を上気させていたその顔は驚きに大きく目を開き固まっていた。
 視線の先にあるのは手首の痣。
「両手首とも紫色だよ?! どうしたのさ、これ……」
 ああ、良かった俺の幻じゃなかった。ちゃんとまだ跡が残ってるんだ。
 すぐに薄れ始めた手首の痣に不安を感じていたのでこんな状況にも関わらず安心してしまった。
「隼人に、な……抱かれたんだ」
 ぼんやりとしながらも笑みが漏れてしまう。
「隼人が抱いてくれた……はじめて、抱いてくれたんだ」
 言葉にして、浅人が痣を確認してくれて、ざわついた心が静かになっていくのを感じる。ちゃんと隼人が残ってる。でもこのままでは浅人に塗りつぶされてしまう。この身体は隼人にしかあげたくない。
「初めてだったの?」
 浅人の声は優しい。いや、優しく努めているような、低く抑えた声だった。
「嬉しかったんだね、抱かれて」
「うれしかった……」
 そう、と答えながら浅人は俺の足を開き、間に割って入る。また割れ目を撫でられ何度が往復すると穴をつつき、そのまま指を沈めていく。
 声が出ぬよう口をつむぐが、んっ、んっ、とどうしても漏れでて情けない。もう嫌だ。浅人の腹部に手をついて腰を引いてなんとか逃れようとこの重い体を動かそうとする。
 しかし浅人はそんな俺を嘲笑うように、入口を撫で回していた指を奥まで入れてダメなところを擦りあげるのだ。今までの行為とは比べ物にならないほど強く、ぐりぐりと押し回される。男性器の先までびりびりきて、鈴口がぬるぬるになっていくのが、少しずつ少しずつ先走りが漏れ出てしまっているのが敏感にわかってしまう。
「あっ、あぁぁ! やだ、も、やめてくれ、やだっ、やっ」
「やめないよ、ほら玲児のちんちんすっごい濡れてるもん」
「やだ、出てしまう……っ、や、あっ、やだ、いやだぁ……!」
 腰どころか肩甲骨の下から踵まで浮かしてビクンビクンと全身が震え、気が付けば押しのけようとしていた浅人の身体に爪を立てて……声も止まらない、涙が浮かぶ。どうしよう、どうしたらいい、もう我慢できない。
「玲児、足の先ピンッてしちゃってる……ふふ、隼人の前でもそんな風にしたの? あ、隼人って言ったら締まった」
「あ、だめ、はやとって……っ、ぃ、うなぁっ」
「隼人もえっろいなーって思ってるんだろうねぇ? 玲児のそういうところ……」
 はやと、と聞いて耳が喜ぶ。
 相手が隼人じゃないとは当然わかっているのに隼人に見られてるのを連想させられ、ますます先走りが流れどろどろになった尻穴の入口とその中のはもう、限界だった。
 中を擦られるのが気持ちいい、指を動かす度に入口が気持ちいい。
 あ、あ、あ。
「あ、や……はやと、ぁ……あっ、あっ、あぁぁ……」
 尿道を擦り上げながら、精液が排出される。びゅるびゅると中を刺激し出てくるその一瞬がやけに長く感じて、頭がずっと真っ白になる――。
 部屋が湿っぽい。前髪が汗に張りついて、息が乱れて。自分の放ったいやらしい臭いが鼻腔をくすぐる。
 中に入ったままだった指はゆっくりと引き抜かれ、代わりのものが押し付けられる。ゆっくり、ゆっくり、肉をかき分けてくる。
 何かと考えていると浅人は手首を取り、俺の顔の横あたりに縫い止めた。視界にあの痣がうつる。そして脈打つ部分に爪を立てられた。
「隼人に抱かれて、なんでこんなことになっちゃったの。これじゃあレイプされたみたいじゃないか」
「あ……」
「よく見たら……首にも痣がある」
 ほらここ、と耳の下より後ろ当たりを口付けられ、べろりと舐めあげられた。首を絞められた時のだろうか。自分では見えづらい位置なので気が付かなかった。
 そんなところにも痕跡があったのか。隼人のくれた痕が。いやだ。舐めるな。触るな。爪を立てるな。
 全部俺のものだし、隼人のものだ。
 力が出ないのは相変わらずだが、一度性を排出したためいくらか冷静になった気がする。気を抜けば意識を手放しそうなのは相変わらずなのに何を言っているのだかとは思うが。
 ゆっくり、ゆっくり、思考する。
 耳元で聞こえる吐息が気持ち悪い。はぁはぁと息を切らしながら腰を押し進めようと揺らしている。入れようとしてる。
 だめだ、そんなことをしたら。
 それをしたら全部が取り返しのつかないことになる。
 振りほどこうにも腕も上がらない、蹴ろうにも足が動かない。
 あ、あ、はいる、やだ、入ってしまう。
 ギュッと目を閉じ歯を食い絞り、手足がどうにもならないならばと、肩を大きく振り寝返りを打つようにしてその場から離れたが、それでも浅人の手が追うのでこのボロボロの身体でここから逃れるためにはもう、ベッドから転げ落ちるよりなかった。
 ドスンと大きな音を立て、肩から床に落ちた。浅人が驚いてるのかどうか確認することもせず、そのまま床に打ちつけたのとは別の腕を動かし、這いつくばってその場から離れようとする。
「逃げないでよ」
 頭上から声がしても無視して懸命に進む。
 けれども、重なる影が濃くなり暗くなったと認識したと同時に、痩せ細ったこの身体は簡単に仰向けにひっくり返され、またも組み敷かれてしまった。
「あさと……」
 いつも笑って、笑って、怒って、拗ねて、それでもまたすぐ笑って。
 コロコロと表情を変えてこちらを楽しませてくれる浅人。
「こんなガリガリな身体で逃げられると思ったの?」
 しかし見上げた浅人の顔に表情はなかった。
「あさと、すまない……」
「何が?」
「俺は……隼人と……一緒に、いたいから……」
 声が震える。
 七年間。七年間だ。
 そんなに一緒にいたのにこんな顔見た事がない。
 浅人の顔は静かに、ゆっくり、怒りを表し始めた。大きな目がつり上がっていく。
「こんな痣をつけられても? 首なんてこれ、ねぇ、首締められたんじゃ……」
「触るな……っ!」
 首に伸ばされた手に、頭を振って抵抗する。
「いいんだ、何をされたとしても……隼人なら、いい……」
 浅人は伸ばした手を握り、手の甲で俺の頬を撫でた。その手つきが優しくて、感情がぐちゃぐちゃになる。安心したくなる。いつもの彼だと思いたくなる。
「あさと……」
「なあに」
「隼人と、いっしょにいたい……何をされてもいいから、一緒にいたい……すまない、浅人。すまない……だからもうやめてくれ……」
「それは……」
 浅人は一度唾を飲み込んだ。飲み込んで、眉根を寄せて、笑った。
「それは、僕がどうなっても、どう思っても構わないってことなのかな。僕のことはどうでもいいってことなのかな」
 違うと否定したいが、実際は否定できることではなく、無言になるしかできなかった。浅人はふっと笑う。電気をつけず、太陽の明かりに頼っていた部屋はもう、薄暗くなっていた。夕日が差し込み、彼の顔を柔らかい色が照らす。
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