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ロストバージンの関係

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 さすがに玲児も抵抗しようとして両手で俺の身体を押し返してきたが、痛くないように優しくその手をベットに押さえつけた。少し力を入れれば跳ね返せる。けれども玲児はそれをしない。
 熱は下がったとはいえ寝汗をかいたのだろう。走った後にも嗅いだことのある匂いが鼻腔を刺激した。押し付けた唇を首筋へと滑らせる。玲児の匂いでいっぱいになった。
「んっ!あっ……」
 首筋に何度か口付けると吐息が漏れた。駄目だ歯止めが利かなくなる。もう一度口付け、声を抑え込んだ。けれども慣れない息苦しさから玲児はぷはっと口を離す。一瞬視線がぶつかると薄く開いた瞳は涙で潤んでいて、たまらず舌を差し入れた。
 ビクつき逃げる舌を無理矢理捉えると、恐る恐る絡ませてくる。初めてなんだろうな良かった。そう思いながらも自然と自分の手が、玲児の服の中に侵入しようとしていることに気が付く。完全に無意識だった。
 ああ、俺、最低だな。
 自分の嫌なところを見てしまい、冷静になって玲児から唇を離した。涙目で俺を見上げ、うっすらと開いた唇を湿らせている。冷静になったそばから理性をぶち壊してくる。めちゃくちゃにしてやりたい。
「はやと……はやと……」
 拘束されていた両手を伸ばし、玲児は俺の首に腕を絡ませた。
「隼人に触っても、いいか……?」
 はぁはぁと息を切らし、吐息混じりに囁かれる。
「ずっと、見ていた……しかし、本当は。ずっと、触りたかったのだ。隼人に」
 ゆっくりと一生懸命に話す可愛い玲児。
 首に巻かれた腕を片方もらい、自分の胸に触れさせた。
「触れよ……好きなだけ」
 玲児は暫く目を閉じて胸に手を当てていた。そしてそっとまた瞼を開ける。
「鼓動が早いな……」
「だろぉ? すっげードキドキしてる。死にそう」
「む?! し、死ぬな……」
「玲児にならこのまま殺されてもいいけど?」
 そう言って笑い、今度はその手を自分の顔へ持っていった。頬に触れさせ、唇にふれさせ、手の甲に口付けた。愛しい。そのまま手の甲に唇を当てたまま話す。
「俺のこと好きか?」
「き、貴様……また言わすのか……」
「聞きたい」
 強い口調で言って見つめると、玲児は顔も真っ赤にしながらもこちらを見て返してくれた。
「隼人が、好きだ」
 嬉しかった。こんな俺を玲児が好いてくれたこと。自分に向けられているんじゃないかと思っていた気持ちは本当だった。
 でもそれと同時に恐ろしくなった。
 だってそうだろ? 玲児は俺のことなんか何も知らない。どうやって生まれて育ち、どんな環境にいたのか。それによって生まれた醜い部分なんて知らない。知って欲しくもない。
 麗奈に汚いと言われたことを思い出す。あれが正常な反応だ。別にあいつが悪いなんて思っちゃいない。だからこそ怖かった。玲児が俺をなんて思うのか。絶対に知られてはいけないと思った。こうなってしまったらもう玲児を手放すことなんかできないから。
「隼人……?」
 そのまま固まってしまった俺の名前を玲児が心配そうに呼んだ。すぐに笑顔を見せ、手の甲にもう一度キスした。
「玲児がそう言ってくれるなら、俺はお前のもんだよ」
 そしてその手に指を絡ませる。
「今度はどこに触りたい?」
 玲児の手がそっと俺の身体の上を滑っていく。肩、胸、腹……とくに腹筋はよく撫でられた気がする。少しくすぐったい。
「隼人……」
「ん?」
「隼人は、女が好きだろう?」
「へっ? なんで」
「いや、貴様はその……女子に好かれているようだし。やはり普通は女の方が……」
 不安気に語る玲児を見て、そりゃそうだと思った。俺だってまさか男を好きになってしかもその相手もちゃんと自分を好きになってくれるなんて思いもしない。奇跡だ。
「確かに俺モテるけど」
「む、むぅ……」
「めちゃくちゃモテるけど」
 だんだんと唇をきゅっと結んでむくれる玲児。いじめたくなる。でも可哀想なので頭を撫でてやり、すぐに頬に口付けた。
「でも、俺はお前が好きだよ。ごめんな、言わせてばっかりで」
「隼人……?」
「好きだよ、玲児」
 今度はまた唇に口付けた。触れるだけですぐ離す。するとちょっと物足りなそうに俺の唇を見つめてきやがる。なんでこんなに可愛いかね。
「もっとしたいの?」
「い、いや……それもあるが」
「んー? なんだよ」
「慣れているなと……俺は、その、初めて……だから」
 やっぱり初めてなんだ。そう思うと顔がニヤけるのが止められず、俺は玲児の上から隣へとごろんと仰向けに寝転んだ。
 何も手に入れたことなんかないけれど、こいつは俺だけのものにしたい。
「俺の恋愛遍歴なんて聞きたかないだろ、お前だって。腰抜かすぞ」
「そ、そんなにか?!」
「ははは、どうだろな」
 恋愛遍歴ならどれだけマシだったか。そう思いながら適当に笑った。笑ってその場をやり過ごすのは得意だ。
 けれど玲児には隠し事があるぶん、できるだけ嘘はつきたくない。不安にさせないためにできる限り思いを伝えよう。
「なぁ、玲児。こんなこと言ったら笑うかもしんねぇけど、ずっとお前に会いたかった気がするよ」
 隣にいる玲児の手を握って、指を絡ませた。
「ありがとな、ここにいてくれて。好きだよ、信じらんねぇくらい」
 恥ずかしいと思いながらも真面目に話したが、玲児はなんのリアクションもしなかった。
「あれ? さすがに重いか?」
 苦笑いしながら玲児の方へ寝返りを打つと玲児もこちらに向いてくれた。そして俺の両手を握って柔らかく笑った。
「重くなどない……ここに来てくれて、感謝している。隼人、好きだ」
 俺達は笑いあって、両手を繋いだままキスをした。今日だけで何回しただろう。唇を離してまた微笑み合い、キスをする。
 愛しくて、幸せで、冗談じゃなく死んでしまうんじゃないかと思った。これからどれだけ楽しいことが待ってるだろうとも思った。
 まさかこの時が幸せの頂点だったなんて……この時思うわけがなかった。




 一応付き合いだした訳だが、それまでも一緒にいた時間が長かったため、そんなに何か生活で変わったことはなかった。周りに公言なんてできるわけもないし。
 学校で共に過ごして、放課後は玲児の部活が終わるのを待ち、一緒に帰る。これに人目のつかないところでキスをしたり、こっそり帰りに手をつないだりするのが追加されたって感じだ。
 玲児はうぶなクセして、キスがめちゃくちゃ好きでよく強請られた。
「隼人……?」
 語尾をあげて名前を呼び、顔を近付けてくるのが合図。毎回、これもう襲っていいかなぁと思う。
 休み時間は人のいない校舎裏でいつも過ごしていたが、一応周りを確認する。
「誰かに見られんぞ?」
 顔を近づけながらも忠告するがやめる気もない。
「もしそうなっても……構わん」
 そんなかっこいい台詞を吐いて、口付けられる。舌を絡ませ唇が離れる頃には惚けた顔になってるくせに。
 俺は玲児と一緒になった時、女漁りをするのはやめようと思った。けれどもやはり夜は眠れなくなり、玲児もこんな風に求めてくるため、我慢なんてできなかった。玲児の代わりになんかならないのに、余所の女を抱いた。最低だ。
 玲児を抱けばいいとも思ったが、実際には勇気が出ない。男は相手にしたこともないし、痛い思いをさせるかもしれない。何よりも可愛い可愛い玲児を、俺が、こんな俺が汚してしまうのは嫌だと思った。怖かった、他の女みたいに玲児を抱くのが。どうしようもなく、怖かった。
「はぁ、はやと……」
 唇を離すと、玲児に袖を掴まれた。校舎の壁に寄りかかり二人で並んで座っていたが、俺の前に移動して足の間に入ってくる。
「おいおい、それじゃあ見られた時に言い訳できないだろ」
 そんなことを言いながらも頭を撫でてやる。艶やかでしっかりした髪質で触り心地がいい。
「そんなに見られるのは嫌か?」
「そりゃあ、だってお前……」
「隼人……」
 切なそうな細い声で呼び、胸に頭を預けてくる。変わらず俺は頭を撫で続けた。
 付き合い出して三週間ほど経ったが、玲児はどんどん甘えん坊になっていく気がした。俺としては一向に構わないのだが、学校では少し心配もある。俺は適当な付き合いしかしてないし、今更なんて言われようがどうでもいい。けれど玲児は陸上部などの人間関係もある。
 しかし色々考えはするものの、実際に甘えられると何も拒否できない。こちらとしても嬉しいし、いくらでもその身体に触れていたい。
「でも、あれだな」
「む?」
「最近寒いし、抱きしめたくはなるよな」
「む……そうだ。貴様は体温が高いだろう? 暖めろ」
「おう、いくらでもどーぞ」
 ギューッと力いっぱい抱きしめて笑い合う。俺は確かに少し体温が高めだ。そして玲児は逆に低い。もう十一月だ。たくさん暖めてやらなくちゃな。
 しかしその時だった。
 ガサガサと葉の音がし、校舎から人影が見えた。二人で同時にそちらへ向くと、驚いた顔をした女生徒がいた。見たことのあるやつだった。
 その女生徒は何も言わずに急いで走り去って行ったので、あとを追うために玲児の身体を自分から剥がして立ち上がった。チラリと玲児を見やると、少し不安そうな顔をしていて。
「玲児、大丈夫だ。知ってるやつだから話してくる、教室戻ってろ」
「隼人、待っ」
 玲児の言葉を聞かず、女生徒のあとを走って追う。口止めしておかないとまずいだろ、さすがに。すぐに女の姿を見つけ、呼び止めようとしたが、名前が出てこない。あの喘ぎ声がでかいやつ。
「先輩!!」
 相手が三年生でよかったと思いながら呼んでみると、彼女は振り向いた。幸い中庭に出る手前で人はそこまでいない。
「隼人くんって、男の子でもいいの?」
 向かい合って第一声がそれだった。
「いやいやいや、そんなんじゃなくて」
「一回デートしたっきりで冷たくなっちゃってさ。私寂しかったのに、他の子とも遊んでるんでしょ?」
 あっさり股開いたくせに何が寂しいだよ。反論してやりたかったが、相手を怒らせても仕方ない。けれども主導権も握られたくないので、校舎の壁際に追い詰めた。
「先輩可愛いとこあるじゃん、嫉妬したんだ」
「そ、そんなんじゃないけどぉ」
「なぁ、受験勉強ってやっぱ大変なの? また家に行きたいな」
「え? 来てくれるの?」
 笑顔で頷くと、ぱぁっと顔が輝いた。単純だな。玲児以外だとなんでこんなに罪悪感もなんにも感じないもんか疑問だ。これなら何度か相手してやれば平気だろ。
 見られた時は焦ったが、誤魔化せそうな相手で心底安心した。早速放課後に来いと言うので仕方なく了承し、教室に戻る。すると玲児は既に自分の席について窓の外を見ていた。
「玲児、いつも窓の外見てるなぁ、なんかいいもんあるのか?」
 席の前に立つと、はっとしてこちらを見上げた。
「隼人……大丈夫だったか?」
「おう」
 つい頭を撫でようと手が出るが、いやいや教室だしと我に返って宙に浮いた手で前髪をかきあげた。本当に危ない。気を付けないと、見られずともいつかやらかしそうだ。
「玲児、今日さ、用事を思い出したんだ。放課後は先帰るな」
「む? そうか」
「ごめんな、急に」
「いや。いつも待たせてすまんな」
 こちらの気を使って寂しそうに笑う玲児を見ると、胸が痛んだ。けれど仕方がない。今回のことは玲児を守るためでもある。
 俺達はその会話を最後に、授業を受けそのまま放課後は別れた。同じ女をまた抱くのはあまり気が向かないが、先輩の家に行って散々いじめてやった。しかし最近は誰を抱いてても玲児のことが頭にチラつく。玲児の艶っぽい顔と悲しむ顔が浮かぶのだ。
 自分がどうすればいいのかよく分からない。こんな風になんにも向き合わず逃げて、一時的に楽な措置をとっていていいのだろうか。いつも玲児と歩く夕暮れの時間、先輩の家を後にしながら考えた。




「あ、あ、隼人……っ?! やめっ……!!」
 部活終わりの部室棟の更衣室。玲児が後片付けの最後だったのをいいことに俺はそこに入り、ユニフォーム姿のままの玲児を壁際に追いやった。壁に手をつかせ、腰を抱き、背後から首筋に顔を埋める。汗の匂いがたまらない。
 暫く女はやめてみようと考え、それから五日経った。相変わらず夜はあまり眠れない。しかしそれよりも問題なのは玲児に発情してどうしようもないことだ。
 ランニングの裾から手を入れ脇腹を撫でるとビクビク震える身体。さらに手を上に持っていくと、小さな突起があった。指の先で掠めるだけで可愛い声が響く。
「んっ」
「ちっちゃくて可愛いな」
「や……こんなとこ、でっ……」
「先、尖ってるよ? 気持ちよくねぇの?」
 耳元で囁きながら両手で小さいツンとした乳首を弄ってやる。指の腹で円を描くように擦るのが好きなようだ。
「あっ……あっ……」
「どう? 気持ちいいか?」
「はぁ、わからん……っ」
「こんなにエロい格好でそんなエロい声出してるのに?」
 片手は乳首を遊んだまま、もう片方の手を太ももへやった。全体的に細いのに太ももだけ張りがある。短い裾のギリギリまで撫で上げた。
「はぁ……やぁっ……」
「本当にエロいよな、ユニフォーム。お前肌白いし、おかずにされてるかもよ?」
「たわけっ……そんなこと……」
「ほら、見ろよ。勃ってるの丸見え」
 玲児は自分の股間を反射的に確認し、後ろからでもわかるほど顔を赤くした。玲児の性器は短いランニングパンツの布を押し上げ、頭が出てきてしまいそうなほどだった。
「これ、すげぇ短いよな。前から気になってたんだけど、下どうなってんの?」
 ランニングパンツの裾から手を入れると、中に薄い布がもう一枚あるのがわかった。その中には熱く固くなった性器が自身を主張している。俺はその布越しにそれを握り、摩った。
「あぁっ、ん……あっ」
「インナーがついてんのか、へぇ……今は窮屈そうだな」
 脱がそうとパンツに手をかけたら、最終下校のチャイムとアナウンスが響いた。
 それを聞いてハッと正気に戻る。ここは学校だって言うのに何しているんだ俺は。
 目の前には、こちらに背を向けている玲児のあられもない後ろ姿。やっちまった。
 急いで彼の衣服の乱れを直し、身体から離れた。玲児は恐る恐るこちらを振り返る。立っていられないのか壁に寄りかかり、肩で息をしながら、窓から入ってくる夕陽を背後に浴びている。赤く染まった白い肌も、少し乱れて汗の張り付いた黒髪も、涙に濡れて震える睫毛も、寒さのために息をする度に漏れる白い息も、何もかもが美しかった。
「はやと……」
 そんな姿で名前をゆっくり発音され、息を飲んだ。
 しかしこれ以上は駄目だ。
「悪い、外で待ってる」
 そんな玲児を一人残し、俺は更衣室から逃げ出した。
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