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2 洞窟での試験

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あの夜から3日経った。

満月の微笑みは洞窟の前に集まっている。リーダーのクランクが、あの夜の出来事をラノイへ伝えているところだ。パーティーの雰囲気がどことなくピリつき、メンバーの表情も、いつもより強張っているように見受ける。

「……ってことなんだがラノイ、わかったか?」
「あ、はい」

ラノイは生気のない返事で応答する。

「じゃあ君もそれでいいかな? えっと、名前は……」
「ユロ・デゥラードです。もちろん、僕もそれでいいですよ」

ラノイの横にいるこの男が、シュードが話していた回復術師である。背丈はラノイとさほど変わりなく、黒髪で、吊り目が特徴的だ。その目で、クランクが説明している時から、パーティーの女子達をちらちらと見ている。

「よし、じゃあ依頼されたモンスターを討伐しに行くぞ。俺について来てくれ」

クランクを先頭に、皆洞窟の奥へと歩いて行く。ふと、幼馴染みのエルマがラノイに近づいて来た。

「ちょっと、あんた今やばい状況なのわかってる?」
「わ、わかってるさ」

他のメンバーに聞かれないように、二人は小声で話を続ける。

「いい、今日は絶対失敗しないでよ」
「そ、そんなこと言われても……」
「みんな敵だ! 戦闘準備」

突如としてクランクが叫ぶ。

「とにかく、あんな男に負けないでよ」

そう言い残し、エルマは前線へと走っていった。






道中何度か敵モンスターと対峙したが、誰一人欠けることなくボスがいると言われている洞窟の一番奥まで来ることができた。

「情報だと、この先にボスがいる……よし、ラノイ回復を頼む」
「は、はい」

いつもと変わらない回復の所作でさえも、どこかぎこちなさを感じる。ラノイの指先は終始震えていたが、それでもなんとか全員の回復を終えることが出来た。

「それじゃ、ボスを討伐しに行くか」

かくしてパーティーはボスが待つ洞穴へと入っていった。

「真っ暗で何も見えないな。シュード、みんなに暗視の魔法を…」

刹那、クランクの頬を何かが掠めていった。それは勢いそのままに岩壁に直撃し、暗闇の中で煌々と輝いている。

「やばい、シュード、早く暗視の魔法を」
「はい! 暗視ヴィジョン・ソンブル!」

シュードが唱えると、さっきまで真っ暗だった洞窟が外のような明るさになった。

「おいおい、こいつが今回の討伐対象かよ……」

良好になった視界でモンスターを見上げる。

赤い鱗に覆われたはち切れんばかりの筋肉、それを支える四つの足と二枚の翼、全てを喰らうかのような表情。これら全ての特徴を余すことなくその身に携えたそれは、赤竜レッドドラゴン以外に何があろうか。
赤竜はクランクたちを見つけるや否や、口を開き、煌々と輝く火の玉を生成し始める。

「全員、俺の後ろに隠れろ!」

クランクの号令で、全員が後ろに隠れる。

「ガァァァァァァ」

咆哮と共に、赤竜が火の玉を飛ばす。

「救護の盾」

クランクの叫びと共に、持っていた盾が巨大化した。それに火の玉が直撃する。

「今のうちだ。エルマ、リュゼ、赤竜に近づいて攻撃しろ! ラノイ、ユロはこのまま待機。シュードもここで詠唱をはじめろ」
「はい」
「わかった」
「了解」
「わかりました」

クランクの命令に従い、エルマとリュゼが赤竜に近づく。

「心眼!」

赤竜を洞察し、弱点を見出す。

「見つけた、腹だよ。リュゼ」
「わかったー」

リュゼは赤竜の腹に潜る。

「風切断」

赤竜の腹を十字に切りつける。
グロロと苦しそうに唸った後、赤竜は二人の方を見、口の中に火の玉を作る。

「まずい、二人が火の玉の餌食になるぞ」
「僕に任してください。ドラゴン、こっちを見ろ。挑発!」

ユロの挑発によって赤竜はクランクたちの方へ方向を変える。

「ユロ、お前回復魔法以外も使えるのか?」
「クランクさんその話は後で。火の玉きます!」
「救護の盾」

クランクは先ほどと同じように火の玉を防ぐ。
赤竜は疲れているのか、攻撃の手を休めた。

「チャンスだシュード、魔法を喰らわせろ」
「……荒ぶる魂を浄化の聖水を以て鎮められたし。鎮魂の水葬ブリアルレクイスカ!」

シュードが唱えると、赤竜の体をすっぽりと水の塊が包んだ。どれだけもがいても、攻撃しようとも、それが破壊されることはなかった。
やがて赤竜は息絶え、それと同時に水の塊も消えた。

「よぉし、討伐完了だ!」

初めて大型モンスターを討伐したからか、皆大喜びしていた。
ただ一人、ラノイだけは、素直に喜べないでいた。
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