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52話 ここで始末をつけなさい
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俺に首を絞められたバーレンは膝をついてその場で咳き込み、デンスが連れていた神龍の子供は血まみれになってロディオの腕に抱かれている。ガストンとドリアスは石化した状態。俺とタニアとマンダは、デンスを捕まえようとしていて――
「バーレンの仲間がきたんです!! 僕も応戦したんですが、狭いところなので、リアスを巻き添えにしてひとりを石化させるのが精一杯で――」
「石化? きゃっ! やだ、なにあれ、血?!」
マルガレーテが、神龍の血で顔も服もまだらに青く染めたロディオを見て、悲鳴をあげた。
「そうです、バーレンが刺したんです! 僕の神龍を狙って、仲間割れをはじめて、ライアンがバーレンの首を締めて――」
デンスの口調には、心なしか愉悦が含まれていた。
俺たちはバーレンの仲間じゃない。しかし助けに来たのは本当だ。
神龍を刺したのはバーレンで。
バーレンの首を締めたのは俺だ。
俺たちはボロボロで、なのに結局何も手に入れられなかった。そして何もしなかったデンスが、あることないことマルガレーテに吹き込んで、すべての罪を他人に押し付け、すべての功績をかっさらおうとしている。王女は、デンスの言うことを微塵も疑っていない――。
俺たちがドリアスを脅迫してここまで連れて来させた、という架空の話を、見て来たように滔々と話すデンスと、それを聞いて顔色を変えるマルガレーテ。
絶望的な気分で見ていた俺の前で、話を聞き終えたマルガレーテが厳かに宣言した。
「――なるほど。わかったわ、デンス。こいつらみんなここで始末しなさい」
「えっ?」
デンスがすっとんきょうな声をあげた。
俺もびっくりした。ちょっと話が短絡的すぎて。
「いや、すぐにここで始末とか、ちょっと野蛮ですよマルガレーテ様。ここは法律にのっとって裁判から」
「王の決定こそが法律よ。王族である私の言うことが聞けないっていうの?」
「えっ、いや……その……あっそうだ、とりあえず僕、助けの兵士を呼んで来ますね!」
「その間にこいつらが逃げたらどうするの?! 今すぐ始末して!」
「いや、その、マルガレーテ様、それは」
自分の手は汚したくない、というより、対峙したら俺にかなうわけがないとわかっているらしいデンスが、言を左右にマルガレーテの命令を交わしている。いっぽうマルガレーテは、頑なにいますぐ俺たちを始末しろと言っている。
――なんとなくわかってきた。
要はマルガレーテは、そうとは知らず俺たちをうかうかと自分の研究室へ案内してしまった失態を隠したいのだ。他の兵士を呼んだり、あまつさえ裁判を開いたりして、俺たちがここへ侵入した経緯をぺらぺらと話すことを恐れているのだろう。
「とにかく、今すぐ、今すぐやっちゃうのよ! デンスがいれば、兵を呼ぶなんか必要ないでしょ?」
「いや、だから――僕は幻獣テイマーであって、血を見るようなのは専門外っていうか――」
「だから、幻獣を使って始末すればいいじゃない」
「ドリアスが――」
「ドリアス?」
「あ、いや…………」
ドリアスが石化してしまった今、デンスが幻獣を使うすべはない。
「そいつに――幻獣など使えるわけがあるかッ!」
たまりかねたようにそう叫んだのは、ロディオだった。
「はあ? なによあなた」
「まともな世話もせず神龍すらもこんなに弱らせるようなやつが、幻獣使いなわけがあるか! まして死にかかっている幻獣を置いて自分だけ逃げようとするなど――貴様に幻獣を扱う資格などなァいッ!」
「なによえらそーに。どちら様かしら?」
「ロディオ様だッ!」
「なにがロディオ様よ、馬鹿じゃないの。このデンスは、私、この国の王女マルガレーテが認めた我が国きっての幻獣テイマーよ。デンス、その力を見せてあげなさい!」
「あ、あの、いや、今は……その、準備が……」
「こんなやつら、サラマンダーで焼き払ってやりなさい! 黒焦げになった死体を、ゴーレムで踏み潰してやるといいわ!」
「だ―ダメなんですよ! この建物の空気の流れが悪い。ここに幻獣を呼び寄せるのはさすがの僕にだって無理です!!」
「え、そ、そうなの?」
「そうですよ。幻獣の研究に力を入れるといいながら、なんでこんなものを建ててるんですか? こんなんじゃあ幻獣の研究なんて進むわけがない!!」
「そ、そんなこと言われても、私が生まれた時からすでに城はこうだったし……」
「言い訳がましいのはどうかと思いますよ、マルガレーテ様」
デンスの舌先三寸に、マルガレーテはしどろもどろになった。
「言い訳とか――あっそうよ、呼べなくても、神龍を使えばいいでしょ?」
「恐れながらマルガレーテ様、状況見えてますか? 神龍はやつらに殺されかかってるんですよ、ほら」
デンスが、ロディオの腕の中の血まみれの神龍を指し示す。
「あ……」
「だからもう兵士を呼ぶしかないんです。すみません、護衛にサラマンダーでもゴーレムでもイフリートでも連れて来ておけばよかったんですけど、今から呼ぶのはちょっと難しくて――」
「そういうこと? じゃあ……しかたないわね……」
「――いるぞ」
デンスと、それにまんまと懐柔されかかっているマルガレーテに向かって、俺は言った。
「バーレンの仲間がきたんです!! 僕も応戦したんですが、狭いところなので、リアスを巻き添えにしてひとりを石化させるのが精一杯で――」
「石化? きゃっ! やだ、なにあれ、血?!」
マルガレーテが、神龍の血で顔も服もまだらに青く染めたロディオを見て、悲鳴をあげた。
「そうです、バーレンが刺したんです! 僕の神龍を狙って、仲間割れをはじめて、ライアンがバーレンの首を締めて――」
デンスの口調には、心なしか愉悦が含まれていた。
俺たちはバーレンの仲間じゃない。しかし助けに来たのは本当だ。
神龍を刺したのはバーレンで。
バーレンの首を締めたのは俺だ。
俺たちはボロボロで、なのに結局何も手に入れられなかった。そして何もしなかったデンスが、あることないことマルガレーテに吹き込んで、すべての罪を他人に押し付け、すべての功績をかっさらおうとしている。王女は、デンスの言うことを微塵も疑っていない――。
俺たちがドリアスを脅迫してここまで連れて来させた、という架空の話を、見て来たように滔々と話すデンスと、それを聞いて顔色を変えるマルガレーテ。
絶望的な気分で見ていた俺の前で、話を聞き終えたマルガレーテが厳かに宣言した。
「――なるほど。わかったわ、デンス。こいつらみんなここで始末しなさい」
「えっ?」
デンスがすっとんきょうな声をあげた。
俺もびっくりした。ちょっと話が短絡的すぎて。
「いや、すぐにここで始末とか、ちょっと野蛮ですよマルガレーテ様。ここは法律にのっとって裁判から」
「王の決定こそが法律よ。王族である私の言うことが聞けないっていうの?」
「えっ、いや……その……あっそうだ、とりあえず僕、助けの兵士を呼んで来ますね!」
「その間にこいつらが逃げたらどうするの?! 今すぐ始末して!」
「いや、その、マルガレーテ様、それは」
自分の手は汚したくない、というより、対峙したら俺にかなうわけがないとわかっているらしいデンスが、言を左右にマルガレーテの命令を交わしている。いっぽうマルガレーテは、頑なにいますぐ俺たちを始末しろと言っている。
――なんとなくわかってきた。
要はマルガレーテは、そうとは知らず俺たちをうかうかと自分の研究室へ案内してしまった失態を隠したいのだ。他の兵士を呼んだり、あまつさえ裁判を開いたりして、俺たちがここへ侵入した経緯をぺらぺらと話すことを恐れているのだろう。
「とにかく、今すぐ、今すぐやっちゃうのよ! デンスがいれば、兵を呼ぶなんか必要ないでしょ?」
「いや、だから――僕は幻獣テイマーであって、血を見るようなのは専門外っていうか――」
「だから、幻獣を使って始末すればいいじゃない」
「ドリアスが――」
「ドリアス?」
「あ、いや…………」
ドリアスが石化してしまった今、デンスが幻獣を使うすべはない。
「そいつに――幻獣など使えるわけがあるかッ!」
たまりかねたようにそう叫んだのは、ロディオだった。
「はあ? なによあなた」
「まともな世話もせず神龍すらもこんなに弱らせるようなやつが、幻獣使いなわけがあるか! まして死にかかっている幻獣を置いて自分だけ逃げようとするなど――貴様に幻獣を扱う資格などなァいッ!」
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「ロディオ様だッ!」
「なにがロディオ様よ、馬鹿じゃないの。このデンスは、私、この国の王女マルガレーテが認めた我が国きっての幻獣テイマーよ。デンス、その力を見せてあげなさい!」
「あ、あの、いや、今は……その、準備が……」
「こんなやつら、サラマンダーで焼き払ってやりなさい! 黒焦げになった死体を、ゴーレムで踏み潰してやるといいわ!」
「だ―ダメなんですよ! この建物の空気の流れが悪い。ここに幻獣を呼び寄せるのはさすがの僕にだって無理です!!」
「え、そ、そうなの?」
「そうですよ。幻獣の研究に力を入れるといいながら、なんでこんなものを建ててるんですか? こんなんじゃあ幻獣の研究なんて進むわけがない!!」
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「言い訳がましいのはどうかと思いますよ、マルガレーテ様」
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「言い訳とか――あっそうよ、呼べなくても、神龍を使えばいいでしょ?」
「恐れながらマルガレーテ様、状況見えてますか? 神龍はやつらに殺されかかってるんですよ、ほら」
デンスが、ロディオの腕の中の血まみれの神龍を指し示す。
「あ……」
「だからもう兵士を呼ぶしかないんです。すみません、護衛にサラマンダーでもゴーレムでもイフリートでも連れて来ておけばよかったんですけど、今から呼ぶのはちょっと難しくて――」
「そういうこと? じゃあ……しかたないわね……」
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