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31話 嘘から出たまことというやつ

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 掛布の下に詰め物をして牢の中でまだ俺が寝ているように偽装し、鉄格子の鍵もかけなおして、俺とガストンは外に出た。

 ずっと幽閉されていた俺はここが王城の一角であるということくらいしか知らなかったが、俺がいた監獄は城の端にある尖塔の上にあったようだ。

 階段を降りていくと少し広くなっている空間があり、そこに大きな鉄扉がある。よく牢屋の中で開閉音を聞いていた鉄扉だろう。

 普段はそこにも見張りの兵士がいるそうだが、そこはデンスが人払いをしたらしい。ガストンが来た時に慌てていたせいか、分厚い鉄扉が半開きの状態で止まっている。念のため足音を忍ばせて扉まで近づいた俺たちは、そこで不吉な声を聞いた。

「ここです!」
「なかに侵入者がいるというのは間違いないのですか」
「はい。すみません、すぐに知らせようと思ったんですが、脅されてここまで案内させられて……」

 そう言っているのは、デンスだ。

「やはり裏切ったか……」

 ガストンがため息をつく。

「デンスは俺たちを裏切ったとすら思っていないのかもしれないな。ガストンに一時的に愛想よくしていたのも、そうしないと殺されると思ったからしかたなかった、って思ってるんじゃないか、あいつは」
「わしが何かを言う前に、あいつから近づいて来たんだぞ?!」
「でも、ナイフで脅すつもりだったってのはそういうことだろ」
「ナイフだって出してない」
「わかってる。でも、出してないけど、持ってはいたし、使うつもりもあった。それを察したから自分はそうしたんだ、ってデンスに言い訳されたら俺たちは反論できない」
「……たしかに、そうだが……」

 ガストンが悔しそうに拳で壁を叩く。俺たちがコソコソ話をしている間に、扉の向こうでは、このままここで待ち伏せするか、中を見にいくかで議論になっていた。出入り口はここしかないのだからここで待ち伏せするというのが兵士たちの隊長らしき男の主張で、自分たちの知らない抜け穴や援軍がいるかもしれないからいますぐ中に入って見つけ次第切り捨てるべきだ、というのがデンスの主張だ。

 あいつ、どこまで俺たちを殺したいんだ。

「ま、最終的には隊長さんのご判断でいいと思いますよ。それで逃したとしても、僕がなんの責任をとれるというわけではありませんからね」

 デンスの言葉を最後に、扉の向こうで沈黙が落ちる。

 逃げ出した俺たちの立場からすると、隊長の判断は極めて正しい。この塔から逃げようとすれば、出入り口はここしかない。知らない抜け穴があればわざわざガストンが変装までして王宮のなかを歩き回るという危険を侵す必要なんかないし、援軍の存在についてもまた然りだ。

 いっぽうで、言われている隊長側が悩むのもわかる。これで仮に俺たちを取り逃がした場合、デンスは「自分は反対したのに、隊長の身勝手な判断のせいで罪人が逃げた」と騒ぐだろう。デンスはそういうやつだ。デンス自身がそうだと自慢するほどではないかもしれないにしろ、いろいろな話を総合する限り、デンスが最近宮廷のなかである程度の発言力を持っているのは確かなことのようだ。そんなデンスに騒がれては、所詮は一兵卒に過ぎない兵士隊長の立場などひとたまりもないに違いない。

「……わかりました。中を探してみましょう。では、ここの見張りはデンス殿にお願い致します」
「えっ?」
「我々も急なことで人手がありません。デンス殿の言う通り抜け穴がないか探してまわりますので、ここの見張りはお願いします」
「ああ、その、悪いけど、僕はこの後重大な用事があるから」
「重大な用事とは?」
「んー、国家の趨勢に関わることだから詳しくは言えないんだよね」

 ……さっきは王女のマルガレーテ様と呼ばれているとか俺にぺらぺら喋っていた気がするが。

 それが国家の趨勢に関わるとは。つくづく、物は言い様だ。

「ていうか、あくまで僕は幻獣テイマーであって城の警備が仕事じゃないんだよね。たまたま見つけたからせっかく報告しただけなのに、あれもこれも責任負わされるとか、たまんないなあ」
「――っ! わかりました! では! デンス殿は、お好きになさってください! みんな、いくぞ! 猫の子一匹漏らすなよ!」
「はい!」

 隊長の声とともに、鉄扉が開いた。幸い中は薄暗い。俺たちはでかい鉄扉の影に隠れて、兵士たちをやり過ごした。

 デンスに振り回されている隊長の気持ちを考えると正直捕まってやりたい気持ちにすらなっていたが、その先に明朝の死刑執行があるのでは、うかうか仏心も出していられない。

 ガストンが手を伸ばし、開いた鉄扉が人一人、大柄なガストンは無理でも俺ならぎりぎり通れるくらいの幅を残すようにそっと支えていたが、幸い頭に血が上っている隊長たちは気づかないようだ。

「はー、まったく、お城の兵士でーすとか言ってそれなりの給金もらってるくせに、僕がいないとひとひとり、いや、ガストンとふたり、タニアも入れれば三人か。捕まえることすらできないとか。困ったもんだよ」

 鉄扉の隙間をくぐり抜けた俺は、ひとりごとを言うデンスの背後に足音を忍ばせ歩み寄る。どうやらチビドラゴンはどこかに置いてきたらしい。好都合だ。

 十分近づいたところで、背後からデンスの顔の下半分を掴んで自分の胸元に引き寄せ、その喉にナイフの先端を突きつけた。ガストンから借りたナイフだ。

「ひっ?!」
「よお、デンス」
「ら……ライアン! にげ……釈放されたんだね! 実は僕もあの後君が釈放されるよう色々と……」
「残念、脱獄だよ」
「脱獄……いやあさすがライアン、お城の監獄から抜け出すとはなかなかできることじゃ……」
「ガストンに脅されてここまで案内させられたんだろ? 次は俺に脅されて、安全な脱出ルートまで案内してもらうとしようか」
「いやあライアン、悪者がすっかり板についてるね。でも、僕は君が本当は悪いことなんかできない優しい人だって知って……」
「黙れ」
「……はぁい」
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