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28話 スーパーざまぁタイム(されるほう)
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「いやいやいやいや。待て待て待て待て」
思わず思っていたのと同じことを言ってしまった。
「なんだいライアン、僕の言っていることがどこか間違っていた? 嫉妬なんかしてない、本当に僕が大したことのない幻獣テイマーだって言いたい? そう言いたい君の気持ちだってわからなくはないよ。僕のこと、若くてちょっと顔が可愛いだけが取り柄の、大したことないやつだと思っていたんだろ。というか、そう思いたかったんだろ? 僕のことを見下したくてしかたなくてさ。だけど、僕がどれだけ難しいことをしていたか、そろそろわかってくれてもいいんじゃないかな」
「いや、あのだな、デンス……」
いかん。
どこが間違っている、というよりも、全部が全部違いすぎて、どこから訂正すればわかってもらえるものか見当もつかない。いったいどこをどうしたらこんなに勘違いができるんだ。
なんというか、俺たちは同じところに立って同じものを見て、ただ意見が違うだけだと思っていたけれど――実のところ、もとから立っている地平そのものが違っていたんじゃないだろうか。
そうとでも思わなければ理解できない。
あと、さりげなくデンスの顔が可愛いという前提で話が進められてしまったが。
その……いちおう言葉を選んで言えば、美形か可愛い系かと言われれば可愛い系といえなくもないかな、と……
……………………。
……………………。
申し訳ないことに、早くも面倒になってきたのではっきり言うと、デンスはブサイクでこそないが取り立てて言うほど可愛いわけではない。極めて普通の顔だ。言っておくが俺は特別に美醜の基準がずれているとか、可愛さには厳しいということもない、ごくごく一般的な感性の持ち主だ。と、思う。別にデンスの顔が可愛かろうがなかろうがどうでもいいのだが、油断するとなにをぶっこんでくるかわからんなコイツ、という感じで少し怖くなって来たので、一応訂正しておく。
「そうそう、君がいらないと言って僕ごと追い出したこのチビドラゴン、神龍の幼体なんだよね。知らなかっただろ?」
「お前も知らなかっただろ。まあ、そいつの価値とか、以前にドラゴンは俺たちに特に断りなくお前が連れていったわけだけどな」
「僕にはこのドラゴンがただの幻獣とは少し違うって初めからわかっていたよ。ライアン、君は僕の話に耳も貸さなかったけれどね」
「いやいや、そのドラゴンがすごいとかどうとかいう話、あの当時のお前はこれっぽっちもしてなかっただろ。むしろ小さいとか文句言ってなかったか?」
「……さっきからなんなんだ、君は? あのさ、そういう話、僕はしたよ? したよ? 何度も、わかりやすくね。君が聞いてくれなかっただけだろう?」
いやしてない。絶対してない。すごいなこいつ。よくもまあここまで。捏造した過去を、それを知っているはずの俺に対して、堂々と主張できるな。自分が当事者じゃなかったら絶対騙される。当事者である俺ですら、自分を疑いたくなってきてるくらいなんだから。
「それを、僕が悪いみたいに言わないでほしいよね。まあ、君みたいな平凡な人には僕は理解の範疇を超える存在なんだろうからしかたないのかな。多少の才能ならばいいけれど、飛び抜けた才能のある人間は逆に迫害されるって本当だね。やれやれ。まあ、そのおかげでようやく僕の価値がわかる人間に出会えたわけだから、追い出してくれてむしろよかったんだけど。ああ、そうそう、まあ参考までにって話なんだけど、僕はいまスカウトされて王宮に仕えているんだ。僕としてはまだ自由にあちこち冒険していたいから、王宮勤めなんて前歴を持ちたくなかったし、まして王様だの貴族だのと知り合いになって変なしがらみに縛られたくなかったんだけどさ。頼むからうちに来てくれって王様だの大臣だの総出で頭をさげられちゃあさあ。頭をあげてください、って頼むのが大変だったよ。僕のほうが低くさげようとがんばっちゃったりね。勲章あげるからって言われたけど別にいらないし。まあ、どうしてもっていうから受け取ることにしたけどさ。一番低いやつだっていうからオーケーしたのになんか勝手にランクが勝手に1つあげられちゃっててびっくりしちゃったよ~。別に僕は今まで通りやってるだけなんだけど、わかるひとにはわかるっていうか、向こうが勝手に僕のことを評価しちゃうんだよね」
勲章がいらなかったのなら、もらった勲章を見せびらかすようなところにつけているのはなぜだろう、と俺は思ったが、それをデンスに尋ねるとまた嫉妬だなんだと言い出して面倒なことになりそうだったので黙っていた。
「まあ、でも、宮廷生活はけっこう充実してるよ。困っていることといえば王女であるマルガレーテさまに付きまとわれていることくらいかな。デンス、デンスって、僕をそばからはなしたがらないんだよね。”私は可愛いものが好きなの”っていうんだけど、男が可愛いとかいわれて嬉しいわけないよ、まったくもう。お姫さまってやつはわがままだからさあ。マルガレーテさまってのは人の好き嫌いが激しくて、お世話係もなかなかいつかないらしいのに、なぜか僕だけは気に入られちゃったのがまたややこしくて。僕が王宮に雇われたのは幻獣テイマーとしての能力を買われたからであって、顔は関係ないってのにさぁ。しかも周囲もこれ幸いとお相手役認定して、なにかといえばデンス殿お願いします、って。マルガレータ様のお世話係なんか引き受けた覚えはないんですけどー? みたいな。でも、僕しかいないって言われると断るのも悪いなあってついつい引き受けちゃってさ。面倒くさいけど、まあマルガレーテ様も顔は美人だから黙っていれば悪い相手じゃないんだけど。この間、ふたりでバルコニーで話をしてたら、通りがかった大臣が、まるで絵画のような光景ですねなんて……」
…………あっ。
まずい。一瞬寝落ちしてた。
俺にはこれっぽっちも興味のない話を延々しているが、デンスはなにがしたいんだ?
もしかして……と思っていたが。
自慢、なのか、これは?
羨ましいかどうかでいえば、牢屋に収監されていないことが一番羨ましいんだが。
というか、ついさきほど、知っている俺にとっては明らかな虚偽を真に迫って語られた今となっては、俺の知りようもない今のデンスの立場について、デンスの口からあれこれ語られても、とうてい信じられるはずもなく――どこまでが本当かわからないので、聞けば聞くほどデンスのことに対し、悲しいやつ、という感情しか浮かばなくなってくる。
「――あっ、そういうわけでこれからマルガレーテ様に呼び出されてるからもう行くね。今夜は旧友と語り明かしたかったんだけど、そう言ったらマルガレーテ様が、私とその人どちらが大事なのですか、なんていい出しちゃってさあ。そういうことじゃないんだけど、まあ、王女様のご機嫌を損ねるとあとあと面倒だからしかたないよね」
「おう」
マルガレーテ様だかなんだかよくらないが、ようやくデンスの話が終わりそうなことに、俺は心底ほっとした。まともに人と話すのはひさしぶりだったが、こんなどうでもいい話を延々聞かされるくらいだったら、あと一年くらい沈黙しっぱなしでもかまわんという気持ちだ。
しかし、デンスは最後にとんでもない隠し球をぶっこんできた。
「そうそう、君の死刑執行日、明日に決まったから」
「……えっ?」
「かつての仲間がそんなことになるなんてとてもとても正視できる気がしないから、今のうちに会いに来たんだ。最後に話せてよかったよ」
「え、明日? それはほんとか、本当なのか、デンス?」
「僕はそう聞いているよ。僕としてはかなり一生懸命反対して、君の更生について僕が後見人になるとまで言ったんだけど、君のやらかしたことがあまりにひどくてさ。かばいきれなかった。力になれなくてごめんよ。じゃあね、ライアン。さよなら」
慌てる俺の顔を確認したデンスは、満足そうな笑顔を浮かべ、首輪のついたチビドラゴンを引きずるようにして去って行った。
「おい、デンス……デンス!」
俺は鉄格子の隙間からデンスの背中に向かって呼びかけたが、振り返りもしない。
明日が死刑執行? 死刑日の前日は豪華な夕飯が振舞われるって巷の噂から少なくとも明日はないものと安心していたが、あれは嘘だったのか?
それとも明日が死刑執行という話のほうが嘘なのか? デンスの俺に対する嫌がらせ?
どっちだ。
どっちなんだ。
「うあ」
突然、自分の口から声が漏れた。漏れたことに驚いた。
「あ……ぁ……」
これまで冷静を保って来たつもりだった。
けれど。
俺の中の何かが、限界に達しようとしている。
俺は死ぬ? 明日? 本当に?
なぜだ。
なぜ、なぜこんなことに?
俺は、俺たちは、ごくごく普通の、どこにでもよくいる冒険者として、それなりにやってこられていたはずだったのに――。
なぜだ? なにがいけなかった? どこで間違えた? なぜだ。なぜ俺が、俺が――。
「……ライアン」
冷たい牢屋の床の上に、いつのまにかへたり込んでいた俺を、誰かが呼んだ。
思わず思っていたのと同じことを言ってしまった。
「なんだいライアン、僕の言っていることがどこか間違っていた? 嫉妬なんかしてない、本当に僕が大したことのない幻獣テイマーだって言いたい? そう言いたい君の気持ちだってわからなくはないよ。僕のこと、若くてちょっと顔が可愛いだけが取り柄の、大したことないやつだと思っていたんだろ。というか、そう思いたかったんだろ? 僕のことを見下したくてしかたなくてさ。だけど、僕がどれだけ難しいことをしていたか、そろそろわかってくれてもいいんじゃないかな」
「いや、あのだな、デンス……」
いかん。
どこが間違っている、というよりも、全部が全部違いすぎて、どこから訂正すればわかってもらえるものか見当もつかない。いったいどこをどうしたらこんなに勘違いができるんだ。
なんというか、俺たちは同じところに立って同じものを見て、ただ意見が違うだけだと思っていたけれど――実のところ、もとから立っている地平そのものが違っていたんじゃないだろうか。
そうとでも思わなければ理解できない。
あと、さりげなくデンスの顔が可愛いという前提で話が進められてしまったが。
その……いちおう言葉を選んで言えば、美形か可愛い系かと言われれば可愛い系といえなくもないかな、と……
……………………。
……………………。
申し訳ないことに、早くも面倒になってきたのではっきり言うと、デンスはブサイクでこそないが取り立てて言うほど可愛いわけではない。極めて普通の顔だ。言っておくが俺は特別に美醜の基準がずれているとか、可愛さには厳しいということもない、ごくごく一般的な感性の持ち主だ。と、思う。別にデンスの顔が可愛かろうがなかろうがどうでもいいのだが、油断するとなにをぶっこんでくるかわからんなコイツ、という感じで少し怖くなって来たので、一応訂正しておく。
「そうそう、君がいらないと言って僕ごと追い出したこのチビドラゴン、神龍の幼体なんだよね。知らなかっただろ?」
「お前も知らなかっただろ。まあ、そいつの価値とか、以前にドラゴンは俺たちに特に断りなくお前が連れていったわけだけどな」
「僕にはこのドラゴンがただの幻獣とは少し違うって初めからわかっていたよ。ライアン、君は僕の話に耳も貸さなかったけれどね」
「いやいや、そのドラゴンがすごいとかどうとかいう話、あの当時のお前はこれっぽっちもしてなかっただろ。むしろ小さいとか文句言ってなかったか?」
「……さっきからなんなんだ、君は? あのさ、そういう話、僕はしたよ? したよ? 何度も、わかりやすくね。君が聞いてくれなかっただけだろう?」
いやしてない。絶対してない。すごいなこいつ。よくもまあここまで。捏造した過去を、それを知っているはずの俺に対して、堂々と主張できるな。自分が当事者じゃなかったら絶対騙される。当事者である俺ですら、自分を疑いたくなってきてるくらいなんだから。
「それを、僕が悪いみたいに言わないでほしいよね。まあ、君みたいな平凡な人には僕は理解の範疇を超える存在なんだろうからしかたないのかな。多少の才能ならばいいけれど、飛び抜けた才能のある人間は逆に迫害されるって本当だね。やれやれ。まあ、そのおかげでようやく僕の価値がわかる人間に出会えたわけだから、追い出してくれてむしろよかったんだけど。ああ、そうそう、まあ参考までにって話なんだけど、僕はいまスカウトされて王宮に仕えているんだ。僕としてはまだ自由にあちこち冒険していたいから、王宮勤めなんて前歴を持ちたくなかったし、まして王様だの貴族だのと知り合いになって変なしがらみに縛られたくなかったんだけどさ。頼むからうちに来てくれって王様だの大臣だの総出で頭をさげられちゃあさあ。頭をあげてください、って頼むのが大変だったよ。僕のほうが低くさげようとがんばっちゃったりね。勲章あげるからって言われたけど別にいらないし。まあ、どうしてもっていうから受け取ることにしたけどさ。一番低いやつだっていうからオーケーしたのになんか勝手にランクが勝手に1つあげられちゃっててびっくりしちゃったよ~。別に僕は今まで通りやってるだけなんだけど、わかるひとにはわかるっていうか、向こうが勝手に僕のことを評価しちゃうんだよね」
勲章がいらなかったのなら、もらった勲章を見せびらかすようなところにつけているのはなぜだろう、と俺は思ったが、それをデンスに尋ねるとまた嫉妬だなんだと言い出して面倒なことになりそうだったので黙っていた。
「まあ、でも、宮廷生活はけっこう充実してるよ。困っていることといえば王女であるマルガレーテさまに付きまとわれていることくらいかな。デンス、デンスって、僕をそばからはなしたがらないんだよね。”私は可愛いものが好きなの”っていうんだけど、男が可愛いとかいわれて嬉しいわけないよ、まったくもう。お姫さまってやつはわがままだからさあ。マルガレーテさまってのは人の好き嫌いが激しくて、お世話係もなかなかいつかないらしいのに、なぜか僕だけは気に入られちゃったのがまたややこしくて。僕が王宮に雇われたのは幻獣テイマーとしての能力を買われたからであって、顔は関係ないってのにさぁ。しかも周囲もこれ幸いとお相手役認定して、なにかといえばデンス殿お願いします、って。マルガレータ様のお世話係なんか引き受けた覚えはないんですけどー? みたいな。でも、僕しかいないって言われると断るのも悪いなあってついつい引き受けちゃってさ。面倒くさいけど、まあマルガレーテ様も顔は美人だから黙っていれば悪い相手じゃないんだけど。この間、ふたりでバルコニーで話をしてたら、通りがかった大臣が、まるで絵画のような光景ですねなんて……」
…………あっ。
まずい。一瞬寝落ちしてた。
俺にはこれっぽっちも興味のない話を延々しているが、デンスはなにがしたいんだ?
もしかして……と思っていたが。
自慢、なのか、これは?
羨ましいかどうかでいえば、牢屋に収監されていないことが一番羨ましいんだが。
というか、ついさきほど、知っている俺にとっては明らかな虚偽を真に迫って語られた今となっては、俺の知りようもない今のデンスの立場について、デンスの口からあれこれ語られても、とうてい信じられるはずもなく――どこまでが本当かわからないので、聞けば聞くほどデンスのことに対し、悲しいやつ、という感情しか浮かばなくなってくる。
「――あっ、そういうわけでこれからマルガレーテ様に呼び出されてるからもう行くね。今夜は旧友と語り明かしたかったんだけど、そう言ったらマルガレーテ様が、私とその人どちらが大事なのですか、なんていい出しちゃってさあ。そういうことじゃないんだけど、まあ、王女様のご機嫌を損ねるとあとあと面倒だからしかたないよね」
「おう」
マルガレーテ様だかなんだかよくらないが、ようやくデンスの話が終わりそうなことに、俺は心底ほっとした。まともに人と話すのはひさしぶりだったが、こんなどうでもいい話を延々聞かされるくらいだったら、あと一年くらい沈黙しっぱなしでもかまわんという気持ちだ。
しかし、デンスは最後にとんでもない隠し球をぶっこんできた。
「そうそう、君の死刑執行日、明日に決まったから」
「……えっ?」
「かつての仲間がそんなことになるなんてとてもとても正視できる気がしないから、今のうちに会いに来たんだ。最後に話せてよかったよ」
「え、明日? それはほんとか、本当なのか、デンス?」
「僕はそう聞いているよ。僕としてはかなり一生懸命反対して、君の更生について僕が後見人になるとまで言ったんだけど、君のやらかしたことがあまりにひどくてさ。かばいきれなかった。力になれなくてごめんよ。じゃあね、ライアン。さよなら」
慌てる俺の顔を確認したデンスは、満足そうな笑顔を浮かべ、首輪のついたチビドラゴンを引きずるようにして去って行った。
「おい、デンス……デンス!」
俺は鉄格子の隙間からデンスの背中に向かって呼びかけたが、振り返りもしない。
明日が死刑執行? 死刑日の前日は豪華な夕飯が振舞われるって巷の噂から少なくとも明日はないものと安心していたが、あれは嘘だったのか?
それとも明日が死刑執行という話のほうが嘘なのか? デンスの俺に対する嫌がらせ?
どっちだ。
どっちなんだ。
「うあ」
突然、自分の口から声が漏れた。漏れたことに驚いた。
「あ……ぁ……」
これまで冷静を保って来たつもりだった。
けれど。
俺の中の何かが、限界に達しようとしている。
俺は死ぬ? 明日? 本当に?
なぜだ。
なぜ、なぜこんなことに?
俺は、俺たちは、ごくごく普通の、どこにでもよくいる冒険者として、それなりにやってこられていたはずだったのに――。
なぜだ? なにがいけなかった? どこで間違えた? なぜだ。なぜ俺が、俺が――。
「……ライアン」
冷たい牢屋の床の上に、いつのまにかへたり込んでいた俺を、誰かが呼んだ。
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