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9話 命の盟約

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 鉄格子の向こうで、デンスが残していった額に傷のあるサラマンダーを抱きかかえたロディオが、おかしなポーズで俺を指差していた。相変わらず面倒くさいやつだ。

「こォのサラマンダーにィッ! なァにをしたアァァァァアッ!!!」
「え? ああ、あの、いや、その額の傷は俺じゃなくて……」
「”命の盟約”など結びおってェェェ……それで死刑逃れをしたつもりかアァッ!!」
「命の盟約……?」
「しかたない、死刑は延期だッ! ちょっと来ォい!」
「来いと言われても……」

 牢には鍵がかかっている。そしてロディオがその鍵を持っている様子はない。

 ていうか死刑、やっぱりマジだったのかよ。

 ひとりさっさと歩き出したロディオが、俺がついてこないのに気づいて振り返る。

「鍵……」

 牢屋の鉄格子の隙間から顔を出した俺を見て、ああ、という顔になってから、ロディオはなにか小さく甲高い音を発した。

 その音はどうやらロディオの口から出ているようだが、普通に喋ったり口笛を吹いたりするような声とは明らかに違う音。それに呼応するように、ロディオの足元に何匹かのネズミがやってきた。ロディオはそのネズミたちに向かって同じような音でなにごとかを指示しているようだ。ネズミたちが小さな足音を立てて走り去っていったかと思うと、ほどなくして、チャリンチャリンとやかましい音を立てながら戻ってきた。

 一匹ごとにひとつずつ、鍵を咥えている。ロディはそれらをすべて受け取ると、俺たちの牢屋まで戻ってきて、ひとつひとつ、鍵がはまるかどうか試し始めた。

「ネズミ使えるんですね」

 なんとなく間が持たず、俺は牢屋越しにそう話しかけた。

「当たり前だ。ネズミは小さくてどこにでもいて、なにより賢い」
「幻獣テイマーって、動物は扱えないのかと……」

 デンスのことを思い出して言ったのだが、それを言われたときのロディオの顔は、なんというか、すごかった。

 ウンコって食べられますよね、と言われたら、俺も同じような顔をするかもしれない。

「よし、開いた。ついて来い! まったく、ネズミも扱えないような幻獣テイマーが、なんだって命の盟約を……」

 ロディオがぶつぶつ言いながらまたもさっさとひとりで歩いて行く。

 ロディオの態度からすると呼ばれているのは俺ひとりのようだが、ここに残っていたらうっかり処刑されてしまうかもしれない。

 ロディオの雑な対応をこれ幸いと、俺、タニア、ガストンは三人揃ってロディオの後ろについていった。
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