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第2話
しおりを挟む「ここならいいかなっ」
数分ほど歩いて、私たちは大広間の外。
近衛騎士隊の見張りも少ない夜空が見えるベランダに来ると、アイン様は振り返りそう言った。
「は、はいっ。私は大丈夫です!」
「君は大丈夫でも僕がね?」
「あ、す、すみませんっ」
「冗談」
「え?」
「ちょっと意地悪しちゃくなっちゃってね……大丈夫、冗談。ジョークだから」
「あ、は、はいっ……その、すみませんっ。アイン様」
「なんで謝るの……まあいっか。あと、僕のことはアインでもベルでも呼び捨てで大丈夫ですよ?」
「そ、そんな————できないですよ‼‼」
「じゃあ、理由は話さないよ?」
「うっ……そ、それは……ずるいです」
「ずるい? どこがかな?」
微笑みながら凄いこと言ってくるこの王子。
まさか、凄くドSなのでは? とさえ思ってしまう。
「な……、そんなことは……」
「じゃあ、言ってくれない?」
「そのっ……えっと…………べ、べ……ベル様?」
「ありがと、ロベリア」
っ。
一瞬で顔が赤くなった気がする。
なんですか、この王子は。
「それで、本題行きましょうか」
彼がそう言うと、一気に重苦しい雰囲気が漂っていく。
思わず生唾を飲み込んで、私はそのお話に耳を傾けることにした。
☆☆
「——僕は明日、死のうと思っているんです」
真っ暗な夜空、そして遠くから聞こえてくるパーティの賑わった大衆の声。
星々が微かにアイン様の顔を照らす中、彼はそう言った。
「え?」
思わず、聞き間違いだろうと考えた。
意気揚々と小国とは言え、王家でいい位置に着く王子様がそんなことを言うわけがない。そう思っていた私は思わず、一音を洩らしていた。
「いやぁ……ね。僕は一応、王子として王位継承権も与えられてるんだけど、どうやら父さんに気に入られてるっぽくてね、それで兄さんから嫌われて……そんな感じになるならいっそのこと死のうって」
「そ、え……な、何を言って」
もちろん、声なんて出るわけもなかった。
そんな深刻な表情と声色に何かができるわけもない。
ただ、そんな言葉を呆然と立ち尽くしながら聞いていた。
「ははっ……それにさ、もういい頃かなって」
「まだ……20歳じゃ……」
すると、彼は唇に人差し指を付けて、静かにしてと目配せを送る。
びっくりしてしまって、思わず叫んでしまった。
「なんで、そんな……」
「嫌がらせも飽き飽きだし、帝都の女性たちからの声援も正直……足枷にしかならないんですよ。何を言っているのかって思われるけど、プレッシャーも凄いし、少し顔がいいだけだし……もう、辛くて……」
「やめて、ください……よ」
私は咄嗟にそう言ってしまっていた。
ついさっき、運命的な出会いを果たした私から言わせてもらえばそんなことは言わないでほしい。まして、憧れの的で、今やベールスホット帝国では特に人気な方なのだ。そんな不幸には思えないし、まさか死のうなんざ考えているわけない……と。
しかし、彼は今にも泣きそうな目で。
「あははっ、ごめんね。君の様な綺麗な女性にこんな情けないこと言っても……」
「いや、そんなことは‼‼」
「ははは……」
悔しそうな顔、そんな姿を見て私は何もできていなかった。
どうしたらいいのか、一体、何をすればいいのか?
彼を婚約者にしたい―—そんな当初の目標ですら忘れるくらい、私はその場に突っ立っていた。
「そう言えば、ロベリアさん」
「な、なんでしょう?」
「その、明日、冥途の土産と言いますか……良かったら僕と一緒にデートでもしていただけないでしょうか?」
「え、わ、私でいいんですか?」
「はい、凄く綺麗ですし……こんな泣き言も聞いてもらって、もしよければその、お返しをしたいので……」
「いえ、むしろ‼ 歓迎ですよ‼‼ その、私でいいのならっ」
「では、明日よろしくお願いしますね……」
そんな、成り行きで始まった関係は徐々に変化を見せていくことをこの時の私はまだ知らない。
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