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第3話「厚かましいやつと俺の妹」
しおりを挟むそれから数日が経ち、俺の頭と背中のケガはかなり治っていた。目を覚ました日にやってきた医者に頭の裏と背中を5針ずつ縫ったと言われたときはかなり驚いたが若かったのが効いたらしい。
一応、様子見もかねてあと数日間だけ入院して退院できるとのことだそうだ。
あの後、親からの怒涛の「大丈夫なのかい?」連絡には肝が冷えたが今回ばかりは仕方がない。それに、俺も大丈夫ではない。
体はもちろん全快してきてるし絵に描いたかのような元気はあったが精神的な面でかなりやばい状態だ。
一つは入学式に参加できなかったこと。別に思い出を作れなかったとかではないが俺みたいなボッチがああいう集会を参加しないとクラスで浮くからだ。
これが陽キャでクラスの中心的人物になるような人間なら別とも言えるだろうが陰キャボッチ、そしてひねくれの三スキル持ちの俺は入学式から休んだ怠け者ってレッテルを張られて友達が一人もできない未来が見える。
いやはや、たくさん作ろうなんぞ持っていないが尚也以外の友達は作っておきたいと思っていたし、意外と彼女だって何かの間違いでできるんじゃないかと思っていた。
いやまぁ、今回の件でさすがにあきらめたけどね。痛恨のギャグというか励ましが氷波先輩に全くと言っていいほど刺さらなかったし。
そして、もう一つ。氷波先輩が最後にぼそっと言っていた言葉だ。
『ではまた……』
彼女はそう言って病室を去っていったのだ。
無論、長年女子との接点を持っていなかった俺はどうなったかというと――寝不足で医者からのお叱りを受ける羽目になった。
言い訳で屁理屈かもしれないけど、あんな綺麗な人に意味深にまたなんて言われたら誰でもそうなるはずだ。
それに、その相手があの氷波先輩がだ。最近まで知らなかった俺が語るのはおかしいかもしれないがそう語らざるおえない。
清楚で可憐。
純真無垢そうな穢れを知らない美しい雪の女王のような風貌に、鋭い眼光を放っている冷徹な瞳。
近寄りがたくて、でも見つめてしまう。
何かそういう類のものが絡んでいるのではないかと。思ってしまうほどにだ。あの人には魔力がある。男女関係なく見入ってしまう魔力が込められている。
いくら助けたといっても、恩人だとは言っても綺麗で有名で完璧な人が「また」なんて言葉をこんな平々凡々な男に呟くか?
だいたい、恩を感じているのなら目を覚ました時にそばにいてくれたことで恩は返している。
じゃあ一体、何が待ってるというのだ。
—―言葉の綾だった。とか?
いや、そうか。そうだよな。それならおかしくないな。
あのレベルの女子だ。俺なんか眼中にない。綺麗って言って照れたのもきっと見間違えだ。信号ですれ違ったときはめちゃ怖い目をしてたし。
あれはただの社交辞令。自分の非を認めているだけだ。
そらそうだ。
「はぁ……俺、どうして昼間っからこんなことで悩んでるんだろうな」
閑散とした病室にため息がこぼれた。
入院してかれこれ数日。さすがに同じ景色に飽きてきた。
いい加減、家に帰ってマンガ読みたい。
—―と、そんなときだった。
ガラガラガラ!!!!
勢いよく、病室の扉が開く音がした。あまりの勢いが心臓が爆発したかと思ったが目を向けると一気に落ち着いた。
「—―よぉ、元気か樹《いつき》!」
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん‼ 心配したんだよぉおおおおお‼」
そう、そこにはよく見る顔が二つ。
どこかのスーパーの袋を片手に手を振る腐れ縁の尚也に、小柄な女の子が一人。
小柄な女の子。その反応と言葉から察するに説明はいらないと思う。
—―だっだっだ!!
「もう、心配したんだからね! 私、お兄ちゃん死んだら生きていけないんだから! このバカバカバカ!!!!」
地団太を踏むかのようにケガ人のベッドに突っ込んできたのは言わずもがな俺の妹—―藤宮夏鈴《ふじみやかりん》だった。
超が付くほどのブラコンであり、それでいて地元では有名なやんちゃっ子。それでいて俺よりも頭もよく優秀でコミュ力も高い完璧超人と名高い。
そんな可愛くもうるさい、同世代の男子からの人気がえぐい俺の妹だったのだ。
「……おい、ベッドで鼻かむなよ。汚すな」
「うぅ! だってぇ~~お兄ちゃんが交通事故にあったって聞いて心臓止まるかと思ったんだからね! 私、心臓止まっちゃったかと思ったんだから!」
「止まりそうになったのは俺のほうだよ。急にうるさくしやがって……それに」
「ん?」
「そこで『え、俺ですか?』みたいに指を自分に向かって指してるお前もな。なんで尚也もいるんだよ!」
指摘すると少し笑みをこぼしながらも近づいてくる腐れ縁は手に持った袋を棚の上に置くと、耳元まで近づいてきた。
「ん⁉ おま、近いっ」
「いいじゃぁん……俺と樹の仲だろ?」
鼓膜に伝わると息に前進が凍え立つ。
そして、そんな尚也に闘志を燃やし始める妹。
「あぁ、ずるい!!! 私もする!!」
「おま、何やって――—―――っ」
「はぁむ」
「っんがぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
耳をかむ妹、耳元でささやく腐れ縁。そして、大声に駆けつけてきた隣の患者さんと看護師たち。
騒然としていて、状況は混沌と化し、それから病院での俺のあだ名は「モテ男」となったことは言うまでもないことだろう。
皮肉かよ、ふざけんな!!!!
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