【R18】ビッチになった私と、ヤンデレになった幼馴染〜村を出たら、騎士になっていた幼馴染がヤンデレ化してしまいました〜

水野恵無

文字の大きさ
上 下
1 / 16

1.セックス下手な男はお断り

しおりを挟む
『いつか絶対に迎えに来るから、待ってて』

 小さい頃にそう約束して、幼馴染は村からいなくなった。
 バカな私はその言葉を信じて待っていて。
 待って。

 待って。


 待って。



 ずっと待って。




 二十になってやっと、子供の他愛ない約束だったんだって気がついた。



  *


「アリーサ、あなたまたしたの?」
「一回だけね。でも二回目はないなあ。俺上手いだろって感じが見え見えで全然気持ち良くなかったし」
「またそんなこと言って、もう二十三になるでしょう? そろそろ遊ぶのは止めて真面目に相手を探さないと結婚できないわよ」
「いいよ。そしたら一人で生きてくから」

 街に出てきて同じ酒場で働いているってことで仲良くなった友達が、大きなため息をついた。
 この子はこの春に結婚したばかりだ。私もお呼ばれした式はすっごく素敵で感動した。幸せそうに彼の事を話す姿もとても可愛い。
 幸せな結婚は女の子を可愛くすると思う。

 でもそれと同時に結婚が全てだとは思わないし、男に振り回される人生はもうこりごりだ。

「一人って、そんなの淋しいじゃない」
「そうかなあ? ここで働いてれば会話の相手にも生活にも困らないし、毎日楽しいし問題ないよ」
「そんな」

 説明しても食い下がろうとする彼女に、調理されたばかりのお皿を二つを押し付ける。

「それにセックス下手な男はお断り」
「またそういう事を大きな声で言うんだからっ」
「はいはい。それよろしくね」

 半分以上聞き流して、私はビールを注ぎに行く。樽からジョッキに流し入れて、丁度いい泡を立てる。うん、上出来。

「アリーサ、こっちもビール二つ頼む!」
「はいはい、あとでねー!」
「アリーサ、こっちにはウインナーの盛り合わせを!」
「はいはい、順番にねー!」
「アリーサ、さっき注文したチーズはまだか?」
「はいはい、いま持ってくるからねー!」
「アリーサ、今夜空いてるか?」
「はいはい、お店終わるまで待っててくれたらいいよー」

 次々に掛けられる声に返事をして順番にさばいていく。
 働き始めて三年近くにもなれば顔見知りの常連さんも沢山できて、みんな酔っ払っているせいか馴れ馴れしい。
 でもうるさいくらいの喧騒は嫌いじゃない。

 やっとピークも越えた頃に新婚の友達は上がっていく。

「さっきも誘われてたけど、ほいほいと付いてっちゃダメよアリーサ!」
「分かってるわかってる。いいから人の心配より自分の生活を大事にしなって」

 店の外まで背中を押してくと、優しい旦那さんがちょうと迎えに来たところだった。会釈だけして、私は店に戻る。
 羨ましいと思う気持ちが無いわけじゃない。
 でも私は私で、彼女は彼女だ。

 酔ってくだを巻く最後の一人をどうにか追い出して、店の外に出た頃には通りには人の気配もほとんどなかった。
 熱気のこもっていたお店と違う、外の空気の冷たさに身体が震える。

「アリーサ」

 帰るか、それとももっと遅くまでやってるお店で一杯飲んでいくか。
 どちらにしようかと考えた時、路地の暗がりから出てきた人に声を掛けられた。

「あ……、さっきの?」

 濃い茶の短髪と切れ長の瞳の整った顔には見覚えがあった。今は外套を羽織っていて分かり辛いが、腰にはさっきテーブルに立て掛けていた剣を下げているんだろう。
『今夜空いてるか?』と声を掛けてきた男だ。
 どうせお酒の勢いに乗ったその場限りの誘いだと気にも止めていなかったのに、本当にお店が終わるまで待っていたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

処理中です...