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1.セックス下手な男はお断り
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『いつか絶対に迎えに来るから、待ってて』
小さい頃にそう約束して、幼馴染は村からいなくなった。
バカな私はその言葉を信じて待っていて。
待って。
待って。
待って。
ずっと待って。
二十になってやっと、子供の他愛ない約束だったんだって気がついた。
*
「アリーサ、あなたまたしたの?」
「一回だけね。でも二回目はないなあ。俺上手いだろって感じが見え見えで全然気持ち良くなかったし」
「またそんなこと言って、もう二十三になるでしょう? そろそろ遊ぶのは止めて真面目に相手を探さないと結婚できないわよ」
「いいよ。そしたら一人で生きてくから」
街に出てきて同じ酒場で働いているってことで仲良くなった友達が、大きなため息をついた。
この子はこの春に結婚したばかりだ。私もお呼ばれした式はすっごく素敵で感動した。幸せそうに彼の事を話す姿もとても可愛い。
幸せな結婚は女の子を可愛くすると思う。
でもそれと同時に結婚が全てだとは思わないし、男に振り回される人生はもうこりごりだ。
「一人って、そんなの淋しいじゃない」
「そうかなあ? ここで働いてれば会話の相手にも生活にも困らないし、毎日楽しいし問題ないよ」
「そんな」
説明しても食い下がろうとする彼女に、調理されたばかりのお皿を二つを押し付ける。
「それにセックス下手な男はお断り」
「またそういう事を大きな声で言うんだからっ」
「はいはい。それよろしくね」
半分以上聞き流して、私はビールを注ぎに行く。樽からジョッキに流し入れて、丁度いい泡を立てる。うん、上出来。
「アリーサ、こっちもビール二つ頼む!」
「はいはい、あとでねー!」
「アリーサ、こっちにはウインナーの盛り合わせを!」
「はいはい、順番にねー!」
「アリーサ、さっき注文したチーズはまだか?」
「はいはい、いま持ってくるからねー!」
「アリーサ、今夜空いてるか?」
「はいはい、お店終わるまで待っててくれたらいいよー」
次々に掛けられる声に返事をして順番にさばいていく。
働き始めて三年近くにもなれば顔見知りの常連さんも沢山できて、みんな酔っ払っているせいか馴れ馴れしい。
でもうるさいくらいの喧騒は嫌いじゃない。
やっとピークも越えた頃に新婚の友達は上がっていく。
「さっきも誘われてたけど、ほいほいと付いてっちゃダメよアリーサ!」
「分かってるわかってる。いいから人の心配より自分の生活を大事にしなって」
店の外まで背中を押してくと、優しい旦那さんがちょうと迎えに来たところだった。会釈だけして、私は店に戻る。
羨ましいと思う気持ちが無いわけじゃない。
でも私は私で、彼女は彼女だ。
酔ってくだを巻く最後の一人をどうにか追い出して、店の外に出た頃には通りには人の気配もほとんどなかった。
熱気のこもっていたお店と違う、外の空気の冷たさに身体が震える。
「アリーサ」
帰るか、それとももっと遅くまでやってるお店で一杯飲んでいくか。
どちらにしようかと考えた時、路地の暗がりから出てきた人に声を掛けられた。
「あ……、さっきの?」
濃い茶の短髪と切れ長の瞳の整った顔には見覚えがあった。今は外套を羽織っていて分かり辛いが、腰にはさっきテーブルに立て掛けていた剣を下げているんだろう。
『今夜空いてるか?』と声を掛けてきた男だ。
どうせお酒の勢いに乗ったその場限りの誘いだと気にも止めていなかったのに、本当にお店が終わるまで待っていたらしい。
小さい頃にそう約束して、幼馴染は村からいなくなった。
バカな私はその言葉を信じて待っていて。
待って。
待って。
待って。
ずっと待って。
二十になってやっと、子供の他愛ない約束だったんだって気がついた。
*
「アリーサ、あなたまたしたの?」
「一回だけね。でも二回目はないなあ。俺上手いだろって感じが見え見えで全然気持ち良くなかったし」
「またそんなこと言って、もう二十三になるでしょう? そろそろ遊ぶのは止めて真面目に相手を探さないと結婚できないわよ」
「いいよ。そしたら一人で生きてくから」
街に出てきて同じ酒場で働いているってことで仲良くなった友達が、大きなため息をついた。
この子はこの春に結婚したばかりだ。私もお呼ばれした式はすっごく素敵で感動した。幸せそうに彼の事を話す姿もとても可愛い。
幸せな結婚は女の子を可愛くすると思う。
でもそれと同時に結婚が全てだとは思わないし、男に振り回される人生はもうこりごりだ。
「一人って、そんなの淋しいじゃない」
「そうかなあ? ここで働いてれば会話の相手にも生活にも困らないし、毎日楽しいし問題ないよ」
「そんな」
説明しても食い下がろうとする彼女に、調理されたばかりのお皿を二つを押し付ける。
「それにセックス下手な男はお断り」
「またそういう事を大きな声で言うんだからっ」
「はいはい。それよろしくね」
半分以上聞き流して、私はビールを注ぎに行く。樽からジョッキに流し入れて、丁度いい泡を立てる。うん、上出来。
「アリーサ、こっちもビール二つ頼む!」
「はいはい、あとでねー!」
「アリーサ、こっちにはウインナーの盛り合わせを!」
「はいはい、順番にねー!」
「アリーサ、さっき注文したチーズはまだか?」
「はいはい、いま持ってくるからねー!」
「アリーサ、今夜空いてるか?」
「はいはい、お店終わるまで待っててくれたらいいよー」
次々に掛けられる声に返事をして順番にさばいていく。
働き始めて三年近くにもなれば顔見知りの常連さんも沢山できて、みんな酔っ払っているせいか馴れ馴れしい。
でもうるさいくらいの喧騒は嫌いじゃない。
やっとピークも越えた頃に新婚の友達は上がっていく。
「さっきも誘われてたけど、ほいほいと付いてっちゃダメよアリーサ!」
「分かってるわかってる。いいから人の心配より自分の生活を大事にしなって」
店の外まで背中を押してくと、優しい旦那さんがちょうと迎えに来たところだった。会釈だけして、私は店に戻る。
羨ましいと思う気持ちが無いわけじゃない。
でも私は私で、彼女は彼女だ。
酔ってくだを巻く最後の一人をどうにか追い出して、店の外に出た頃には通りには人の気配もほとんどなかった。
熱気のこもっていたお店と違う、外の空気の冷たさに身体が震える。
「アリーサ」
帰るか、それとももっと遅くまでやってるお店で一杯飲んでいくか。
どちらにしようかと考えた時、路地の暗がりから出てきた人に声を掛けられた。
「あ……、さっきの?」
濃い茶の短髪と切れ長の瞳の整った顔には見覚えがあった。今は外套を羽織っていて分かり辛いが、腰にはさっきテーブルに立て掛けていた剣を下げているんだろう。
『今夜空いてるか?』と声を掛けてきた男だ。
どうせお酒の勢いに乗ったその場限りの誘いだと気にも止めていなかったのに、本当にお店が終わるまで待っていたらしい。
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