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 背中がピンっと伸びて棒立ちになってしまう。そんな私の状況にもお構いなしに扉が開いて、廊下の光が細く長く伸びて入ってくる。
 待って!入っていいなんて言ってない!!

「エーヴァルト殿下」

 私の動揺なんてお構いなしに扉を開いた王子に慌てて姫様としての仮面を張り付ける。
 スカートの裾を摘んで礼を……しようとして、自分の格好を思い出した。ダメだ、そんな事したら色々丸見えになる。ついナイトドレスの前をかきあわせてしまって、そんな私の奇妙な動きにエーヴァルト殿下が小さく微笑んだ。

 前世でさんっざん二次元キャラの格好良さを目の当たりにして目が肥えまくった私でも思わず見惚れてしまう。
 エーヴァルト殿下は「完璧王子」として近隣諸国でも有名だ。
 完璧な生まれ、完璧な育ち、完璧な性格、そして完璧な外見。輝く金髪と青く晴れた澄んだ海の色の碧眼。肌は白いけど病的さは欠片もない。

「ディアナ、私達はもう夫婦になったのだからそんな他人行儀な呼び方はしないでくれないかい?」
「ぁ……」

 後ろ手にエーヴァルト殿下が扉を閉めてしまう。途端に廊下の明るさが遮断されて、部屋に二人きりになってしまったことが強く意識された。
 完璧な形の眉に二重の瞳、通った鼻筋や微笑みを浮かべる唇。神絵師さんが人生掛けて描いた渾身の力作を3Dプリントしたらこうなるのかもしれない。
 それくらい文句の付けようの無い完璧に整った顔。その顔がゆっくりと近付いてくる。

「ディアナ?」

 何も言えずに見惚れてしまう私に、小さく首を傾げるエーヴァルト殿下。そんな些細な動きですら計算され尽くした角度で、神作画アニメのレベルだなって納得した。

 何よりその声が低くて甘い。ちょっと大御所の声優さんを惜しみなく使い過ぎじゃないです?あ、それ地声?すごいですね、そんなとこまで完璧なんですね。流石エーヴァルト王太子殿下!
 って、脳内オタク語りをしてる場合じゃない。

「……エーヴァルト、様?」

 呼び捨てなんてとてもじゃないからこれで勘弁して欲しい。
 イエスロリータ・ノータッチ!
 ……いや違う間違えた。
 とにかくイケメンとは画面越し、もしくは舞台の下から眺めて崇めるものだって意識が刷り込まれてるわけでして。ねえ?そんな対等に呼び捨てなんて、ほら姫様のキャラとも合わないじゃん。

 内心の言い訳を重ねる私にエーヴァルト様がどんどん近付いてくる。

「いいね。ディアナ、もっと名前を呼んでくれ」
「え……エーヴァルト、様」
「うん、もっと」
「エーヴァルト様」
「もっとだ」
「エーヴァルトさ……きゃぁっ」

 広い部屋で近い距離、手を伸ばせば届きそうだって思った瞬間に実際に手を掴まれて引っ張られた。ぽすんと、細そうな見掛けよりずっと逞しい胸に抱き締められる。
 これが細マッチョか!?
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