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番外編
【番外編】前日譚
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アルファポリスさまより書籍化していただけることになりました。
詳細を近況ボードに記載してありますので、どうぞよろしくお願いいたします。
***
「え、振られちゃったの?」
「うん」
「突然?」
「……うん」
「理由もなしで?」
「…………うん」
「ブロックまでされて?」
「………………」
個室の居酒屋で良かったなと思う。
大きな声で伝えたばかりのことを繰り返されて、これが違うお店だったらいたたまれない視線を集めただろうから。
「なんで泣き寝入りしているの、美緒。相手の会社は分かっているんでしょ? だったら……」
「千尋ちゃんなら直接乗り込んでいける?」
私の問いかけに、対面に座っていた千尋ちゃんが「……無理だけど」と肩を落とした。
大学で同じ英文学科だった千尋ちゃんは、私と似たタイプだ。賑やかで大勢の人がいる場所より、少人数で静かな場所の方が好きなところとか。
違うのはお酒があんまり強くない私と反対に、とっても強くて飲むのが大好きなところ。
今も冷酒のグラスを両手で握りしめている。
「でも、許せないよ。付き合ってって言ってきたのは向こうの方なんでしょう?」
「そうだけど……」
それももう自信がなくなってきてしまった。もしかしたら私の夢か妄想だったのかもしれない。
初めて人に誘われたのも、デートをしたのも、告白をされたのも。
でもメッセージアプリを立ち上げると彼の名前は間違いなく表示されている。つまり拒絶されたのも、間違いなく現実なのだ。
「……私、何かそんなにいけないことをしちゃったのかな?」
デートをしたあの日、彼を怒らせるか失望させるかのことを。
考えようとしても心当たりはない。あの日はとても緊張していて、あんまりよく覚えていないのも原因かもしれない。でも彼はずっと笑顔でいてくれていたと思うのだけど……。
「ひどいね、私」
「美緒?」
「ほんの一瞬だとしても付き合った相手なのに、何が原因かもわからないなんて」
自分のことではないのに悲しそうな顔をしてくれた千尋ちゃんに冷酒の入ったグラスをすすめられた。断るのも申し訳ない気がしてちびりと舐めてみる。
……できればもう少し甘くて飲みやすい方がいいなぁ。
そんなふうに思いながらお礼を言う。
「ねえ美緒、こういうのって考えても仕方がないし、ちょっと発散してみれば? 気持ちがすっきりするかもよ」
「発散、かあ」
そういう気分転換もいいかもしれない。思いきり買い物をしてみるとか、暴飲暴食してみるとか?
「確かに、いいかも」
振られてからずっとじめじめ考えすぎている。
有休はほとんど使わないから溜まっている。この機会に休みを取って、一日遊んでみようかな。
「それなら旅行とかはどう? どうせなら一週間くらいぱーっとさ」
「一週間も!? そんなに要らないよ」
「海外旅行とか行くなら、一週間でも足りないと思うけど」
「……海外、かあ」
「美緒は英語が喋れるからどこの国に行ってもそんなに困ることはなさそう」
「日常会話くらいならなんとかってレベルだけどね」
本を読むのが好きで原文で読みたいがために英語を覚えて英文学科に進んだだけだから、喋るのはあんまり得意じゃない。
そう言うと千尋ちゃんに苦笑された。
「十分すぎるよ。私も読むのはできるけど、喋るのは全然だったんだから」
海外。
確かに今まで日本以外に行ったことなんてない。こんなキッカケがなければ、一生行く機会なんてないかもしれない。
「失恋の傷を癒すのには新しい恋って言うでしょ? 海外で素敵な彼氏でもできれば、悲しい気分も吹っ飛んじゃうって」
「もう、千尋ちゃんってば」
素敵な彼氏はともかく、気分転換はしたい。行ったことのない場所で、国で、いつもと違うことをすればこのもやもやした気持ちも晴れるかな。
そんな安易な気持ちで思い立った旅行先で、まさか結婚してしまうことになるなんて、この時の私に想像できるはずがなかった。
詳細を近況ボードに記載してありますので、どうぞよろしくお願いいたします。
***
「え、振られちゃったの?」
「うん」
「突然?」
「……うん」
「理由もなしで?」
「…………うん」
「ブロックまでされて?」
「………………」
個室の居酒屋で良かったなと思う。
大きな声で伝えたばかりのことを繰り返されて、これが違うお店だったらいたたまれない視線を集めただろうから。
「なんで泣き寝入りしているの、美緒。相手の会社は分かっているんでしょ? だったら……」
「千尋ちゃんなら直接乗り込んでいける?」
私の問いかけに、対面に座っていた千尋ちゃんが「……無理だけど」と肩を落とした。
大学で同じ英文学科だった千尋ちゃんは、私と似たタイプだ。賑やかで大勢の人がいる場所より、少人数で静かな場所の方が好きなところとか。
違うのはお酒があんまり強くない私と反対に、とっても強くて飲むのが大好きなところ。
今も冷酒のグラスを両手で握りしめている。
「でも、許せないよ。付き合ってって言ってきたのは向こうの方なんでしょう?」
「そうだけど……」
それももう自信がなくなってきてしまった。もしかしたら私の夢か妄想だったのかもしれない。
初めて人に誘われたのも、デートをしたのも、告白をされたのも。
でもメッセージアプリを立ち上げると彼の名前は間違いなく表示されている。つまり拒絶されたのも、間違いなく現実なのだ。
「……私、何かそんなにいけないことをしちゃったのかな?」
デートをしたあの日、彼を怒らせるか失望させるかのことを。
考えようとしても心当たりはない。あの日はとても緊張していて、あんまりよく覚えていないのも原因かもしれない。でも彼はずっと笑顔でいてくれていたと思うのだけど……。
「ひどいね、私」
「美緒?」
「ほんの一瞬だとしても付き合った相手なのに、何が原因かもわからないなんて」
自分のことではないのに悲しそうな顔をしてくれた千尋ちゃんに冷酒の入ったグラスをすすめられた。断るのも申し訳ない気がしてちびりと舐めてみる。
……できればもう少し甘くて飲みやすい方がいいなぁ。
そんなふうに思いながらお礼を言う。
「ねえ美緒、こういうのって考えても仕方がないし、ちょっと発散してみれば? 気持ちがすっきりするかもよ」
「発散、かあ」
そういう気分転換もいいかもしれない。思いきり買い物をしてみるとか、暴飲暴食してみるとか?
「確かに、いいかも」
振られてからずっとじめじめ考えすぎている。
有休はほとんど使わないから溜まっている。この機会に休みを取って、一日遊んでみようかな。
「それなら旅行とかはどう? どうせなら一週間くらいぱーっとさ」
「一週間も!? そんなに要らないよ」
「海外旅行とか行くなら、一週間でも足りないと思うけど」
「……海外、かあ」
「美緒は英語が喋れるからどこの国に行ってもそんなに困ることはなさそう」
「日常会話くらいならなんとかってレベルだけどね」
本を読むのが好きで原文で読みたいがために英語を覚えて英文学科に進んだだけだから、喋るのはあんまり得意じゃない。
そう言うと千尋ちゃんに苦笑された。
「十分すぎるよ。私も読むのはできるけど、喋るのは全然だったんだから」
海外。
確かに今まで日本以外に行ったことなんてない。こんなキッカケがなければ、一生行く機会なんてないかもしれない。
「失恋の傷を癒すのには新しい恋って言うでしょ? 海外で素敵な彼氏でもできれば、悲しい気分も吹っ飛んじゃうって」
「もう、千尋ちゃんってば」
素敵な彼氏はともかく、気分転換はしたい。行ったことのない場所で、国で、いつもと違うことをすればこのもやもやした気持ちも晴れるかな。
そんな安易な気持ちで思い立った旅行先で、まさか結婚してしまうことになるなんて、この時の私に想像できるはずがなかった。
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