11 / 30
第11話
しおりを挟む
「その携帯電話をこっちに渡してください…」
ものすごい雑な仕草で『なんで?』と返してくる。もうちょっと考えてくれてもいいだろう。
「なんでじゃないですよ…今撮った写真を削除してください。お願いします…」
少しの怒りを出来るだけ笑顔に包みながら右手を前に伸ばした。顔が熱い。今、どれだけの感情が入り乱れているのだろうか。
「いやだー、これは永久保存版でーす‼︎あ、赤面も撮っとこ‼︎」
また瞬間的にポケットから白色の四角い板を取り出してこちらに向け、シャッター音を鳴らした。
「さっ…桜さぁぁぁん‼︎」
「ほら、いい顔でしょ?」
何故あそこまで素早く動かして微塵もブレていないのか、謎がひしめいていた。いや、今はそんな事態じゃない。この通りならば、恐らく二枚の黒歴史が生まれてしまう。既に生まれたといえば生まれているが、削除してしまえば問題ない。ただ、それをどう実行するのかが未知数である。
「ふふふ、これで日向ちゃんは私の言うことを聞かざるを得なくなってしまったなぁ?」
不敵な笑み…のつもりだろうが、正直に可愛いと思ってしまった。何故この危機的状況で思考回路は正常に動かないのだろうか。
「…それ聞けば…消してくれますか?」
「うん、勿論消すよ?聞いてくれれば、ね?」
いやな予感がするのだ。一つの黒歴史を消すために、新たなる黒歴史が生まれようとしていることは何より自分が分かっている。ここ数日で本性が明らかかになった桜さん。全てにおいて悪く言ってしまえばモンスターである。そんな物に弱みを握られては堪った物でない。早急に対処せねば。
「じゃあ、パーカーの方を消して欲しかったら…」
この流れ、二つ目があるパターンだ。
息を呑み覚悟を決めた。何でも来いと構えていた中に飛び込んできたのは、何か柔らかい言葉だった。
「敬語、やめて?」
…本当に彼女はそれでいいのだろうか。望むものならばてっきり一時間抱擁とか言い出すと思っていた。
しかし、そんなものだ。そんな事だ。そんな些細な事で許されるのであれば喜んで受け入れよう。あの写真が残るよりは断然マシである。
「分かりま……うん。分かった。」
早速危ない。常に注意せねば戻ってしまうだろう。癖とは中々治らないものである。
そんなことを考える裏で、次に桜さんの口から発せられる文に不安を抱いていた。それこそ1つ目で安心させておいて2つ目で…なんて事もあり得るだろう。
「それじゃ、この赤面日向ちゃんを消して欲しくば…」
それもまた、独りよがりだった。
「私の事、下の名前で呼んで?」
これは、僕自身が桜さんの事を勝手に決め付けていた事に独りよがりの理由があるのだろう。
これは、桜さんが僕を『普通』にしようと気遣ってくれているのだろうか。それを断る理由もないし、寧ろ喜ばしい事だ。あの日の夜僕は『桜さんを下の名前で呼びたい』と密かに願っていた。
そんな同等の関係になりたいとあの時は願望ばかりを並べているつもりだった。それが自分の内に秘めた『自然に』というエゴであると決め付けていた故に、今回の発言に少し動揺してしまったのであった。
僕は、これまでとこれからで何度決意を固めるだろうか。
「わ…分かった。み…御影ちゃん……」
口ではどうとでも言える…とは言うものの、これはかなりの羞恥心が身を包んでいた。
それをも消し去るように、彼女は優しく口を震わせた。気が動転して余り聞こえなかったが、恐らく「よろしくね」とか、そう言う事を言っていると感じていた。
「本当…尊い…私の彼女………」
ものすごい雑な仕草で『なんで?』と返してくる。もうちょっと考えてくれてもいいだろう。
「なんでじゃないですよ…今撮った写真を削除してください。お願いします…」
少しの怒りを出来るだけ笑顔に包みながら右手を前に伸ばした。顔が熱い。今、どれだけの感情が入り乱れているのだろうか。
「いやだー、これは永久保存版でーす‼︎あ、赤面も撮っとこ‼︎」
また瞬間的にポケットから白色の四角い板を取り出してこちらに向け、シャッター音を鳴らした。
「さっ…桜さぁぁぁん‼︎」
「ほら、いい顔でしょ?」
何故あそこまで素早く動かして微塵もブレていないのか、謎がひしめいていた。いや、今はそんな事態じゃない。この通りならば、恐らく二枚の黒歴史が生まれてしまう。既に生まれたといえば生まれているが、削除してしまえば問題ない。ただ、それをどう実行するのかが未知数である。
「ふふふ、これで日向ちゃんは私の言うことを聞かざるを得なくなってしまったなぁ?」
不敵な笑み…のつもりだろうが、正直に可愛いと思ってしまった。何故この危機的状況で思考回路は正常に動かないのだろうか。
「…それ聞けば…消してくれますか?」
「うん、勿論消すよ?聞いてくれれば、ね?」
いやな予感がするのだ。一つの黒歴史を消すために、新たなる黒歴史が生まれようとしていることは何より自分が分かっている。ここ数日で本性が明らかかになった桜さん。全てにおいて悪く言ってしまえばモンスターである。そんな物に弱みを握られては堪った物でない。早急に対処せねば。
「じゃあ、パーカーの方を消して欲しかったら…」
この流れ、二つ目があるパターンだ。
息を呑み覚悟を決めた。何でも来いと構えていた中に飛び込んできたのは、何か柔らかい言葉だった。
「敬語、やめて?」
…本当に彼女はそれでいいのだろうか。望むものならばてっきり一時間抱擁とか言い出すと思っていた。
しかし、そんなものだ。そんな事だ。そんな些細な事で許されるのであれば喜んで受け入れよう。あの写真が残るよりは断然マシである。
「分かりま……うん。分かった。」
早速危ない。常に注意せねば戻ってしまうだろう。癖とは中々治らないものである。
そんなことを考える裏で、次に桜さんの口から発せられる文に不安を抱いていた。それこそ1つ目で安心させておいて2つ目で…なんて事もあり得るだろう。
「それじゃ、この赤面日向ちゃんを消して欲しくば…」
それもまた、独りよがりだった。
「私の事、下の名前で呼んで?」
これは、僕自身が桜さんの事を勝手に決め付けていた事に独りよがりの理由があるのだろう。
これは、桜さんが僕を『普通』にしようと気遣ってくれているのだろうか。それを断る理由もないし、寧ろ喜ばしい事だ。あの日の夜僕は『桜さんを下の名前で呼びたい』と密かに願っていた。
そんな同等の関係になりたいとあの時は願望ばかりを並べているつもりだった。それが自分の内に秘めた『自然に』というエゴであると決め付けていた故に、今回の発言に少し動揺してしまったのであった。
僕は、これまでとこれからで何度決意を固めるだろうか。
「わ…分かった。み…御影ちゃん……」
口ではどうとでも言える…とは言うものの、これはかなりの羞恥心が身を包んでいた。
それをも消し去るように、彼女は優しく口を震わせた。気が動転して余り聞こえなかったが、恐らく「よろしくね」とか、そう言う事を言っていると感じていた。
「本当…尊い…私の彼女………」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
初めて本気で恋をしたのは、同性だった。
芝みつばち
恋愛
定食屋のバイトを辞めた大学生の白石真春は、近所にできた新しいファミレスのオープニングスタッフとして働き始める。
そこで出会ったひとつ年下の永山香枝に、真春は特別な感情を抱いてしまい、思い悩む。
相手は同性なのに。
自分には彼氏がいるのに。
葛藤の中で揺れ動く真春の心。
素直になりたくて、でもなれなくて。
なってはいけない気がして……。
※ガールズラブです。
※一部過激な表現がございます。苦手な方はご遠慮ください。
※未成年者の飲酒、喫煙シーンがございます。
女の子なんてなりたくない?
我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ―――
突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。
魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……?
ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼
https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
さくらと遥香(ショートストーリー)
youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。
その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。
※さくちゃん目線です。
※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。
※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。
※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる