記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

記憶と正体

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ジニアはひと通りリュカスに何があったかを伝えると、短い沈黙が訪れた。その沈黙を破ったのは、ジニアでもなく、リュカスでもなかった。


「……僕はもう、ここに居られなくなるのかな…」


アガーべの小さな呟きだった。悲しそうな、沈んだ声にジニアは否定する。


「何言ってるのよ! これからじゃない!」

「……僕は、本当は生きてちゃいけない存在なんだ」

「そんなこと、言っちゃダメ! どうしてそう思うのよ」

「本当のことだもん! 僕は生きてちゃいけない。ペディアのは本来の場所に戻った。僕も戻らなきゃ……!」


アガーべは死にたいとは思っていない。むしろ、まだ生きていたい。自分の運命に葛藤し、大粒の涙を流しながら口を噛む。早口で言いまくしたてたアガーべの一言にジニアは引っかかる。


「……片割れ? どういうこと?」

「武器屋のお姉ちゃんも見たでしょ? 黒髪と青い瞳をした僕と同じくらいの身長の人。あの人はペディアの片割れなんだ。
僕の片割れはフェイン。でも、あの人は僕を拒絶してる。だから、元に戻れないし、認識すらしてくれない。……でも、時期は来てるんだ。僕は人間じゃない。だから、この世界に長くは留まれない。早くしないと、僕は消えるし、フェインの記憶も戻らない」

『なるほど、それでおぬしはあの時焦ったわけか』


アガーべの言い分に、リュカスは納得したように頷く。あの時とは、ジニアとペディアがフェインの中から出てきた時にアガーべは焦りを見せていたのだ。

アガーべはペディアを見た瞬間に悟ったのだ。がペディアの元に戻り、完全体になったことを。


「リュカスさん、どういうこと?」

『この少年は、あるじが創り出したものだ。それと同様に、ペディアにも同じような存在を創っていたのだろう』


ジニアは理解に苦しんだ。ジニアの中でとは、双子であるペディアとフェインのことなのだ。その2人に、それぞれが居ることがどうしても理解できないのだ。


「とにかく、僕はどうにかして……フェイン姉のところに戻る。僕じゃどうにも出来ない。狼さんとお姉ちゃんでどうにか説得してよ」

「説得……って、言われてもねぇ……」


ジニアは初めてフェインに会った時のことを思い返しながら、難しそうだなあと思った。ジニアがフェインと仲良くなるまで半年以上時間がかかったのだ。


『ジニアよ、ここでいくら考えていても仕方がない。まずはフェインを捜し出し、説得しよう』

「……ペディアはどうするの?」


ジニアはチラリと未だ起きないペディアを案じる。


「ペディ姉は僕がておくよ」

「アガーべは……まあいいか。今日のうちにフェインをここへ連れ戻せるか分からないし……。」


ジニアは、フェインとすぐに打ち解け、アガーべを受け入れてくれるならと連れていこうとしたが、やめた。


『少年のタイムリミットがあるなら、今すぐにでも向かった方が良いだろう。ここの地域は夏場とはいえ、夜は冷える。
我は、我があるじの行きそうな場所をいくつか知っている。夜が 更ける前に行こう』

「分かった。じゃあ、アガーべ。ペディアをお願いね」


ジニアはリュカスの背に乗ってから言う。アガーべは両手で手を振った。


「うん! 行ってらっしゃい」
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