記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

アガーべの恐怖

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夢の中で、幼い女の子の姿を最後にペディアはハッと目を覚ます。森の中だった。現実に戻ってきたらしいことにホッとしたが、ペディアは汗だくになり、髪や服がへばりついて気持ちが悪かった。

左腕の契約紋を確認してみると、黄色に戻っていたが、いつもより契約の効果が薄くなっている気がする。その事に疑問を持ちながら立ち上がり、汗を流すために川を求めて歩き始めた。

「ペディ姉……」

少しして消え入りそうな声に振り向くと、大粒の涙を堪えようと自身の服を掴みながらこちらを見るアガーべの姿があった。

「アガーべ。どうしたの? 泣きそうな顔して……」

「ペディ……!! 姉ちゃん怖い! 助けて!!」

アガーべはペディアに駆け寄りぎゅっと抱きついて、堰切せききったように泣き出した。

「ちょ……、大丈夫?? 何があったの?」

「ねぇ、ペディ姉、僕これからどうなるのかな。このままだと僕消えちゃう……!! 嫌だ! 消えたくない!! ペディ姉ともっと一緒に居たいよ!」

ペディアはなんの事か主旨を掴みかねて、とりあえず落ち着いてもらうために背中をさすった。すると、大型犬サイズになったリュカスが近づいてきた。

『ここに居たか、ペディア。捜したぞ』

「あ……ごめん」

『川に行くんだろう。付いてこい』

リュカスはそのまま方向転換して川に向かって歩き出した。

「ありがとう。アガーべ、付いてきてくれる?」

「グスッ ……うん…」


川に着いて、ペディアまず汗を流すために顔を洗ったりしながら体を清めると、すぐには帰らずその場で少し話をした。

『ペディア、聖水これを飲んでおけ』

「……ありがとう。アガーべの分は?」

『逆に不具合が起きる故、必要ない。ところで、おぬしあの者ルアンの攻撃を貰ってしまったわけだが、どこか悪いところはないか?』

「特になにも……。ここどこ?」

ペディアは見慣れない周囲を見回しながら聞く。アガーべはリュカスの背中の上だった。

『我らは街の住人のように1つの場所に定住するようなことはせぬ。おぬしの知るあの拠点は、夏の暑さには耐えられぬ故、北に移動している途中なのだ。敵に拠点を知られる前に移動するつもりでもあったから、好都合だ』

「へぇ……。アガーべ、落ち着いた?」

ペディアはリュカスの言う意味がよく分からず生返事をした。アガーべはリュカスの背に顔を埋めたままピクリとも反応しなかった。

『おぬし、いつまでそうしているつもりだ。いづれこうなる運命であることは初めから分かっていることだろう?』

「でも……、ペディ姉と一緒にいたい…」

『いま、一緒にいるではないか。安心しろ、お前が消えたところでどうとなるものでもない。しかるべきところに戻るのみ』

「でも! ヒッ……」

アガーべはガバッと顔を上げると、目の前にいつものローブとフードを被ったフェインが居た。

『でもでもってうるっせぇな。殺っ──』

「うわっ! ペディ姉ー!」

「ちょっと、リュカス!! それはないでしょ!」

ペディアは突然現れたフェインの姿にも驚いたが、いきなりリュカスが立ち上がって、アガーべとフェインを振り落とす様にもっと驚いてしまった。

慌てて直球で飛んできたアガーべを抱き止める。が、あまりの勢いに数回地面を転がった。

『あーあ、不意打ち使えなかった。まあいいさ、戦いはこれからだっ!』

同じように振り落とされたフェインは、フェインではなかった。受け身を取り、ゆらりと体を起こすのは、フェインを乗っ取るの方だった。
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