記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

イビル·レイン

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ルアンが父の体に入った瞬間、リュカスは聖魔法を行使した。

作戦は2番(『作戦』参照)で行くことにしたので、リュカスが攻撃、ペディアが自分とリュカスに光属性の結界を張り防御にまわる。フェインの活躍は今回は期待しないほうがいいと言われたが、一応リュカスの邪魔にならない程度に応戦するようだ。

「おーまーえーら、俺がパニックになってる時に待とうとは思わんのか!」

ルアンは体にまとわりついた聖魔法を闇魔法で吹き飛ばし、2本の漆黒の槍を形成する。1本は手に持ちリュカスに向かって走り出すが、もう1本は空中でペディアに向かって放つ。

『展開、3の陣。9の陣』

フェインがペディアから5歩ほど離れた場所から敵に手をかざし、魔法陣を発動させる。ペディアに向かってきていた槍は、見えない壁に弾かれたように逆にルアンに向かっていった。フェインがルアンの槍の主導権を奪い、相手に攻撃し返したのだ。

『敵が待つと思うか?』

リュカスは冷静に、聖魔法でルアンの肉体を傷つけず魂のみ攻撃し、ルアンの槍の攻撃を避ける。ルアンは完全無詠唱のリュカスに抵抗できず、攻撃をまともに喰い続ける。

完全無詠唱:魔法の発動条件には、詠唱と魔法名を唱える必要がある。一般的に、詠唱破棄で魔法名のみ唱えることで発動することができるのだが、イメージのみで魔法を発動させるのが完全無詠唱である。ちなみに、これには繊細な魔力コントロールと明確なイメージが出来なければ成立しない。

「クソッ! タチが悪い! 《イビル·レイン》!」

イビル·レイン:闇属性中級魔法。広範囲で黒い雨を降らせることが出来る。感受性が高ければ高いほど効果は大きく、弱みに付け込まれやすい。

「うわぁっ!」

『ペディア!  気を強く持て! 我への結界は無くて良い。おぬし自身への結界は死んでも解くな』

リュカスは、ルアンの攻撃によってペディアの結界が揺らいだため、声をかける。

ペディアは優しすぎる。普段ならば持ち前の魔力量で何とかできたかもしれないが、今はペディアの父への感情で不安定になっている。この状態で《イビル·レイン》の攻撃を喰らえばタダでは済まないだろう。

『展開、14の陣·強化』

フェインは自身に防御を念入りに展開し、雨が止むのを待つ。

ペディアは結界維持が難しく今にも壊れそうだった。
ルアンの展開した中級魔法は、2回り強さを誇る最上級魔法とほとんど変わらない威力の強さだった。ペディアの力では頑張っても上級魔法までであり、相殺するだけの力は持ち合わせていなかった。

『長居は無用だな。できるかは分からないが……』

リュカスは言いながら目の前に真白い魔法陣を展開させたかと思うと、ルアンに飛びついた。ルアンは闇の剣を形成し、リュカスの攻撃をかわしていく。

『おい、ペディ……』

「あああっ……!!」

フェインが声をかけようとした瞬間、ペディアの張っていた結界が壊れた。咄嗟とっさに水属性のシールドをペディアに張るが、水属性はあまり得意ではないため、効果は薄い。ペディアはすぐに意識を失ってしまった。

『チッ、世話のやける……。おい、リュカ! 一旦引くぞ!』

フェインはペディアへの苛立ちを感じながらリュカスに声をかける。すると、ルアンは絶対逃すものか、とでもいうように漆黒の空間に引きずり込んだ。

『分かった。我が合図をしたら、我に触れよ。ペディアのことは任せた』

リュカスはこの種の魔法には慣れているのか、ルアンに対してほとんど反応を示さず返事をする。

「ここは俺の領域だ! 誰もここから出すものか!!」

『できるものなら、やってみるがいい』

リュカスは戦闘に立ちながら挑発する。そしてフェインに目配せした。

「できるものなら? 何を言っているんだ。俺のこの空間から出られた者は1人もいない!」

『では、ここを出られたら、我らの勝ちだな?』

リュカスはニヤリと笑った。……と、思うと、視界がゆがみ、次の瞬間には街の外へと出ていた。リュカスの力である。

『リュカ、さっさとここを離れるぞ。今の拠点には戻らない方がいい。3つほど離れた場所に移動する』
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