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ストーリー
3つ目の真実
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『主よ、いつもの聖水だ。飲んでおけ。こっちはペディアに渡せ』
数日経ってようやくペディアが正気を取り戻した頃、リュカスは2つの器に入った水を清めてフェインに渡した。フェインはいつもの様に一気飲みをする。そして、もう1つの器をペディアに渡した。
「ありがとう…」
『なぁ、お前。それを飲んだら話がある』
「うん? 分かった」
ペディアがゆっくりと器に入った聖水を飲み切ると、フェインが話しかけてきた。ぶっきらぼうな言葉は、いつもよりゆっくりと、どこか優しく感じられた。
『お前が放心状態のとき、リュカからお前の家で起こった出来事について聞いた。あいつに会ってショックな言葉を聞かされたとも聞いた。
……これは、あたしのせいかもしれないな。あたしがそうさせたと言っても過言じゃないかもしれない』
フェインは1度言葉を切って、座る体制を変えた。あぐらをかいて身を乗り出すようにして問いかける。
『なぁ、ペディア。お前は父をどう思う? そして、あいつをどう思う?』
フェインはこの時初めて、ペディアの名前を口にした。それは本当の意味でペディアを信頼していることを伝える言葉だった。
「お父さんはいい人だよ。自分が不器用だって分かっていながら、全力で私に尽くしてくれてる。学校にも行かせてくれたし、ご飯も作ってくれた。
もう1人の……あの人は…、正直言って怖い。1歩間違えたらあの世行きになっていそうで…。実力差が烈しいように思う」
ペディアは思い出すだけで鳥肌が立ってきたのか、ぶるりと体を震わせた。フェインは『そうか』と呟きながら目を伏せる。
『よく聞け、ペディア。お前の傷口を抉るようで悪いが、お前の父はこの世に存在しない。何故なら、お前が共にした父はあたしだからだ』
「えっ…? どういうこと?」
ペディアはふと顔を上げた。相変わらずフードを被ったフェインの顔は、表情が読めない。
『……意味が分からないと言いたげな顔だな。お前の父はあいつに殺されている。そして母は生きている』
ペディアは理解が追いつかなかった。お父さんは既に殺されてて、フェインが私と一緒に居た? どうやって? お母さんが生きてるってどういうこと?? お母さんは死んだんじゃなかったの?
ペディアは疑問が一気に頭の中を駆け回る。しかし、質問をさせる隙を与えずフェインは次の話題を持ちかけてきた。
『お前がリュカに助けられた場所、覚えてるよな? かつて執念の森と呼ばれた場所。今はトランテスタ山という名称だ』
「覚えてるよ。正直、記憶が曖昧でハッキリしないけど…」
ペディアは微妙な顔をするが、フェインは気にしていないのか、そのまま話を続ける。
『あの場所はあたしも居たことがある。……幼少期の出来事だ。あの場で何していたかはハッキリと覚えていない。
ただ、これだけ言えるのは確かだ。あの場にいた事によって、あたしの中に悪魔が住み着いたってことさ』
「悪魔が……住み着いた…?」
『ああ。お前も見ただろ? つか、何度も見てるだろ?』
「えっと……、フェインの様子が豹変して凶暴になったり…?」
『そう、そうだ。あたしは悪魔をうまくコントロールする術を持ち合わせていない。だから、よく身体を乗っ取られる。
リュカからもらう聖水でなんとかしてはいるが、効かなくなって来ているのも確かだ。早急に手を打つべきだが、リュカ曰く、幼少期に栄養の補給としてあの山にあった怨念を半分以上吸収していたとか』
フェインはひとつため息を吐き、リュカスの前足に体を預ける。
『なあ、リュカ。本当にこれ以上浄化出来ないのか?』
『早い段階であれば出来たかもしれぬが、無理だ。死なないために起こした本能的行動だろう?』
リュカスは唸りながらフェインの問いに答える。リュカスとフェインのやり取りで、ペディアは純粋に思ったことを質問した。
「ねえ、フェインは闇とか、怨念とか、吸収しやすいタイプなの?」
『そうだな。あの山にあるほとんどの負の念が無くなりかけていた。そしてその元凶が主となれば考えることは1つしかないだろう?』
「……そっか。フェインは何か護ってくれるものは持たないの? 悪いものを拒絶するような何かは…」
『既に持っている』
フェインはそう言いながら、ローブを半分めくってみせた。魔物の毛皮で作られた歪な貫頭衣の中から、首に下げた胸ほどの長さまであるネックレスを取り出した。
真ん中に長方形のソーダライトの石、サイドに剣のような形でクォーツとウォーターメロントルマリン、プレナイトの4つの石が均等間隔に幾つも取り付けられていた。
ソーダライト:心の混乱を鎮める。マイナスの感情や恐怖を和らげ、勇気を持たせる。
クォーツ:魂の純粋化、肉体と精神を清める。魔よけ
ウォーターメロントルマリン:陰陽などの両極のエネルギーバランスを取る。
プレナイト:理性と感情のバランス、周囲との調和が取れる。
「うわぁ……!!すごーい」
ペディアはフェインの持つ石に魅入ってしまった。
『お前はこういう石を見たことがないのか? 武器を作る時、部屋を照らす時、使うと思うが…』
「夜光石なら日常的に見るよ。でも、フェインが持つようなものは見たことない。私が見るのはもっと質の悪いものばっかりだから」
『…ふむ、そうか』
フェインはなにやらブツブツと呟いていた気がしたが、よく聞き取れなかった。
数日経ってようやくペディアが正気を取り戻した頃、リュカスは2つの器に入った水を清めてフェインに渡した。フェインはいつもの様に一気飲みをする。そして、もう1つの器をペディアに渡した。
「ありがとう…」
『なぁ、お前。それを飲んだら話がある』
「うん? 分かった」
ペディアがゆっくりと器に入った聖水を飲み切ると、フェインが話しかけてきた。ぶっきらぼうな言葉は、いつもよりゆっくりと、どこか優しく感じられた。
『お前が放心状態のとき、リュカからお前の家で起こった出来事について聞いた。あいつに会ってショックな言葉を聞かされたとも聞いた。
……これは、あたしのせいかもしれないな。あたしがそうさせたと言っても過言じゃないかもしれない』
フェインは1度言葉を切って、座る体制を変えた。あぐらをかいて身を乗り出すようにして問いかける。
『なぁ、ペディア。お前は父をどう思う? そして、あいつをどう思う?』
フェインはこの時初めて、ペディアの名前を口にした。それは本当の意味でペディアを信頼していることを伝える言葉だった。
「お父さんはいい人だよ。自分が不器用だって分かっていながら、全力で私に尽くしてくれてる。学校にも行かせてくれたし、ご飯も作ってくれた。
もう1人の……あの人は…、正直言って怖い。1歩間違えたらあの世行きになっていそうで…。実力差が烈しいように思う」
ペディアは思い出すだけで鳥肌が立ってきたのか、ぶるりと体を震わせた。フェインは『そうか』と呟きながら目を伏せる。
『よく聞け、ペディア。お前の傷口を抉るようで悪いが、お前の父はこの世に存在しない。何故なら、お前が共にした父はあたしだからだ』
「えっ…? どういうこと?」
ペディアはふと顔を上げた。相変わらずフードを被ったフェインの顔は、表情が読めない。
『……意味が分からないと言いたげな顔だな。お前の父はあいつに殺されている。そして母は生きている』
ペディアは理解が追いつかなかった。お父さんは既に殺されてて、フェインが私と一緒に居た? どうやって? お母さんが生きてるってどういうこと?? お母さんは死んだんじゃなかったの?
ペディアは疑問が一気に頭の中を駆け回る。しかし、質問をさせる隙を与えずフェインは次の話題を持ちかけてきた。
『お前がリュカに助けられた場所、覚えてるよな? かつて執念の森と呼ばれた場所。今はトランテスタ山という名称だ』
「覚えてるよ。正直、記憶が曖昧でハッキリしないけど…」
ペディアは微妙な顔をするが、フェインは気にしていないのか、そのまま話を続ける。
『あの場所はあたしも居たことがある。……幼少期の出来事だ。あの場で何していたかはハッキリと覚えていない。
ただ、これだけ言えるのは確かだ。あの場にいた事によって、あたしの中に悪魔が住み着いたってことさ』
「悪魔が……住み着いた…?」
『ああ。お前も見ただろ? つか、何度も見てるだろ?』
「えっと……、フェインの様子が豹変して凶暴になったり…?」
『そう、そうだ。あたしは悪魔をうまくコントロールする術を持ち合わせていない。だから、よく身体を乗っ取られる。
リュカからもらう聖水でなんとかしてはいるが、効かなくなって来ているのも確かだ。早急に手を打つべきだが、リュカ曰く、幼少期に栄養の補給としてあの山にあった怨念を半分以上吸収していたとか』
フェインはひとつため息を吐き、リュカスの前足に体を預ける。
『なあ、リュカ。本当にこれ以上浄化出来ないのか?』
『早い段階であれば出来たかもしれぬが、無理だ。死なないために起こした本能的行動だろう?』
リュカスは唸りながらフェインの問いに答える。リュカスとフェインのやり取りで、ペディアは純粋に思ったことを質問した。
「ねえ、フェインは闇とか、怨念とか、吸収しやすいタイプなの?」
『そうだな。あの山にあるほとんどの負の念が無くなりかけていた。そしてその元凶が主となれば考えることは1つしかないだろう?』
「……そっか。フェインは何か護ってくれるものは持たないの? 悪いものを拒絶するような何かは…」
『既に持っている』
フェインはそう言いながら、ローブを半分めくってみせた。魔物の毛皮で作られた歪な貫頭衣の中から、首に下げた胸ほどの長さまであるネックレスを取り出した。
真ん中に長方形のソーダライトの石、サイドに剣のような形でクォーツとウォーターメロントルマリン、プレナイトの4つの石が均等間隔に幾つも取り付けられていた。
ソーダライト:心の混乱を鎮める。マイナスの感情や恐怖を和らげ、勇気を持たせる。
クォーツ:魂の純粋化、肉体と精神を清める。魔よけ
ウォーターメロントルマリン:陰陽などの両極のエネルギーバランスを取る。
プレナイト:理性と感情のバランス、周囲との調和が取れる。
「うわぁ……!!すごーい」
ペディアはフェインの持つ石に魅入ってしまった。
『お前はこういう石を見たことがないのか? 武器を作る時、部屋を照らす時、使うと思うが…』
「夜光石なら日常的に見るよ。でも、フェインが持つようなものは見たことない。私が見るのはもっと質の悪いものばっかりだから」
『…ふむ、そうか』
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