15 / 42
ストーリー
藍色のローブの子の過去4
しおりを挟む
昼間時だけ一緒になり過ごすうちに、小娘の中で何かが揺れているのが分かってきた。
相変わらず荒い言葉遣いは親譲りなのか疑ってみたが、案の定違うようだった。もう少し知能が発達していれば可能性はあるかもしれぬが、長年の経験がものを言った。
『小娘、名は?』
数年の月日のおかげか、警戒心も随分と薄れてきたため聞いてみることにした。小娘は少し考えながら答える。
「名前?……忘れた。フェインって呼ばれていた気はするけど」
『フェイン。良い名ではないか』
「だろう?もっと長い名前だった気がするけど、これしか覚えてねぇや。お前は?なんか名前でもあんのか?」
『我ら魔物に名を持つものは少ない。我もその1人だ』
「ふーん…。名前なくて生活出来んのかよ?」
『言葉があれば、意思疎通は容易い。名など無くとも理解できる』
小娘─フェインは我の言葉に不思議そうな、迷いのあるような目を向けてきた。思い切ったように聞いてきた。
「…なぁ、あたしは別に不便してないからいいけどさ、名前付けてやろうか?」
……ここまで好意を持ってくれているとは思っていなかった。生まれてこの方、名などもらったことがない。甘えてみるのも悪くないだろう。
『フェインが良いと思うならば、それに甘えよう』
「…今まで小娘って呼んでたくせに。名前で呼ばれるとむず痒いな」
フェインは笑った。
我は此奴を助けてから今まで、フェインの笑顔というものを見たことがない。僅かに口角を上げ笑う様子は新鮮だった。
傍から見れば、表情の変化はあまりない故、気づきにくい変化だろう。これから先、フェインの笑顔が増えれば嬉しいと密かに願う。
「じゃあ、付けよう。何がいい?」
『ふむ…。しかし、フェイン。お主が我に名をくれるなら、使い魔契約を交わすことになる。それで良いか?』
「ん? お前はあたしの約束を全部守ってくれる。なら、別に契約を交わしたところでなんの問題もない。あの時、死にかけたあたしを助けてくれたことに、なんの不満があるんだ?」
『いや、すまない。愚問だった』
「うーん、、。あたしは闇と水属性の魔法が使えて、お前は光と聖魔法が使えるから…。"リュカス"ってのは、どうだ?」
『リュカス。"光をもたらす者"という意味だな。良い名をもらった』
そう応えた瞬間、フェインと我の体が一瞬、淡く光った。使い魔契約が完了した証だ。
フェインは満足そうに頷くと、手を伸ばしてきた。今宵は善き日だ。全てが新鮮であり、ようやく、スタートラインに立てたような心持ちである。
そして、もう1つ、我に許された出来事があった。
「リュカス、今夜は一緒に寝よう」
∞----------------------∞
相変わらず荒い言葉遣いは親譲りなのか疑ってみたが、案の定違うようだった。もう少し知能が発達していれば可能性はあるかもしれぬが、長年の経験がものを言った。
『小娘、名は?』
数年の月日のおかげか、警戒心も随分と薄れてきたため聞いてみることにした。小娘は少し考えながら答える。
「名前?……忘れた。フェインって呼ばれていた気はするけど」
『フェイン。良い名ではないか』
「だろう?もっと長い名前だった気がするけど、これしか覚えてねぇや。お前は?なんか名前でもあんのか?」
『我ら魔物に名を持つものは少ない。我もその1人だ』
「ふーん…。名前なくて生活出来んのかよ?」
『言葉があれば、意思疎通は容易い。名など無くとも理解できる』
小娘─フェインは我の言葉に不思議そうな、迷いのあるような目を向けてきた。思い切ったように聞いてきた。
「…なぁ、あたしは別に不便してないからいいけどさ、名前付けてやろうか?」
……ここまで好意を持ってくれているとは思っていなかった。生まれてこの方、名などもらったことがない。甘えてみるのも悪くないだろう。
『フェインが良いと思うならば、それに甘えよう』
「…今まで小娘って呼んでたくせに。名前で呼ばれるとむず痒いな」
フェインは笑った。
我は此奴を助けてから今まで、フェインの笑顔というものを見たことがない。僅かに口角を上げ笑う様子は新鮮だった。
傍から見れば、表情の変化はあまりない故、気づきにくい変化だろう。これから先、フェインの笑顔が増えれば嬉しいと密かに願う。
「じゃあ、付けよう。何がいい?」
『ふむ…。しかし、フェイン。お主が我に名をくれるなら、使い魔契約を交わすことになる。それで良いか?』
「ん? お前はあたしの約束を全部守ってくれる。なら、別に契約を交わしたところでなんの問題もない。あの時、死にかけたあたしを助けてくれたことに、なんの不満があるんだ?」
『いや、すまない。愚問だった』
「うーん、、。あたしは闇と水属性の魔法が使えて、お前は光と聖魔法が使えるから…。"リュカス"ってのは、どうだ?」
『リュカス。"光をもたらす者"という意味だな。良い名をもらった』
そう応えた瞬間、フェインと我の体が一瞬、淡く光った。使い魔契約が完了した証だ。
フェインは満足そうに頷くと、手を伸ばしてきた。今宵は善き日だ。全てが新鮮であり、ようやく、スタートラインに立てたような心持ちである。
そして、もう1つ、我に許された出来事があった。
「リュカス、今夜は一緒に寝よう」
∞----------------------∞
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる