記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

藍色のローブの子の過去4

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昼間時だけ一緒になり過ごすうちに、小娘の中で何かが揺れているのが分かってきた。

相変わらず荒い言葉遣いは親譲りなのか疑ってみたが、案の定違うようだった。もう少し知能が発達していれば可能性はあるかもしれぬが、長年の経験がものを言った。

『小娘、名は?』

数年の月日のおかげか、警戒心も随分と薄れてきたため聞いてみることにした。小娘は少し考えながら答える。

「名前?……忘れた。フェインって呼ばれていた気はするけど」

『フェイン。良い名ではないか』

「だろう?もっと長い名前だった気がするけど、これしか覚えてねぇや。お前は?なんか名前でもあんのか?」

『我ら魔物に名を持つものは少ない。我もその1人だ』

「ふーん…。名前なくて生活出来んのかよ?」

『言葉があれば、意思疎通は容易たやすい。名など無くとも理解できる』

小娘─フェインは我の言葉に不思議そうな、迷いのあるような目を向けてきた。思い切ったように聞いてきた。

「…なぁ、あたしは別に不便してないからいいけどさ、名前付けてやろうか?」

……ここまで好意を持ってくれているとは思っていなかった。生まれてこのかた、名などもらったことがない。甘えてみるのも悪くないだろう。

『フェインが良いと思うならば、それに甘えよう』

「…今まで小娘って呼んでたくせに。名前で呼ばれるとむずがゆいな」

フェインは笑った。
我は此奴こやつを助けてから今まで、フェインの笑顔というものを見たことがない。わずかに口角を上げ笑う様子は新鮮だった。

はたから見れば、表情の変化はあまりないゆえ、気づきにくい変化だろう。これから先、フェインの笑顔が増えれば嬉しいと密かに願う。

「じゃあ、付けよう。何がいい?」

『ふむ…。しかし、フェイン。おぬしが我に名をくれるなら、使い魔契約を交わすことになる。それで良いか?』

「ん? お前はあたしの約束を全部守ってくれる。なら、別に契約を交わしたところでなんの問題もない。あの時、死にかけたあたしを助けてくれたことに、なんの不満があるんだ?」

『いや、すまない。愚問ぐもんだった』

「うーん、、。あたしは闇と水属性の魔法が使えて、お前は光と聖魔法が使えるから…。"リュカス"ってのは、どうだ?」

『リュカス。"光をもたらす者"という意味だな。良い名をもらった』

そう応えた瞬間、フェインと我の体が一瞬、淡く光った。使い魔契約が完了した証だ。

フェインは満足そうに頷くと、手を伸ばしてきた。今宵こよいき日だ。全てが新鮮であり、ようやく、スタートラインに立てたような心持ちである。

そして、もう1つ、我に許された出来事があった。





「リュカス、今夜は一緒に寝よう」




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