記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

藍色のローブの子の過去1

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ペディアが洞窟どうくつの入口へ来ると、リュカスが振り向いた。ペディアがある程度近づくと、長い尻尾で制をする。

『いま、あるじがようやく眠ったところだ。少し外に出よう。水もみに行かねばならぬ。少し付き合えるか?』

ペディアは黙って頷くと、リュカスはそっと藍色のローブの子から離れた。通常サイズである3~5mの体長から大型犬サイズになってペディアの隣を歩く。

川はすぐ近くにあるので、ゆっくり目に歩いた。狼の姿のリュカスは表情が読みにくいが、ため息をつきそうな声で言う。

『ここのところ、あるじはずっと体調がすぐれぬ。一体何をすれば良くなるのか、我には分からない』

「それって、いつからなの?」

『さあ…、詳しくは覚えていないな。数年は具合が悪いようだったが、おぬしをここへ招いてからは、さらにひどくなっているのは確かだ』

「えっ!…私、居ない方がいいんじゃ…?」

ペディアは驚いて、水をむのが終われば、洞窟どうくつから離れようと思った。リュカスは肯定こうていしつつ、事実も告げる。

『そうだな。原因はお前ペディアであって、おぬしではない。もし、おぬしが原因ならば、あるじは自分の住処すみかに招き入れることはせぬ』

「ええ…っと、一応は歓迎されてるってこと?」

ペディアはリュカスの言い方が分かりにくいと思いながら、自分なりに解釈したことを聞く。

『そうだ。おぬしに、父の元へ帰らぬよう伝え、我の所に拠点を置くことを彼奴あやつすすめた』

「ちょっと警戒されてるような気はするけど…」

ペディアは川に着いて、水を入れるための袋をふところから数個取り出す。

『すまぬな。それはあるじの持つ性格と我の教育のせいだろう。森には危険が多い。人間の中には悪をたくらむ者も居る。全てにおいて慎重しんちょうに行動しろと、あるじの幼き頃から伝えてきたことだ。
もっとも、おぬしのようなき者であっても、初対面には心を開くまでに多少の時間がかかるのは事実だろう?』

ペディアは袋に水を入れることを何度か繰り返しながら、何も考えずに返事をし、ふと顔を上げた。引っかかる言葉を聞いたからだ。

「うん。……ん? まさかと思うけど、あの子…、ずっと森の中にいたの?」

『そうだ。やむをなかったのだ。我があるじを見つけた時は、かなり衰弱すいじゃくしきっていて、明日あすをも生きられるか分からぬ状態だった』

「なんで……?!」

ペディアは驚いて川に沈めた袋を手放しかけて、慌てて引き上げる。一体何があったというの…?

『この話は少し長くなる。あるじの様子を見てから話すとしよう。良ければ、おぬしの言う、アガーべとやらにも会ってみたいものだ』

リュカスはペディアの布で巻かれた左腕をちらりと見、来た道を戻ろうとした。水を入れた袋は、1人で持つには重く、リュカスの背にいくつか載せてもらった。
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