表裏の狭間で

シルヴィー

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裏社会

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──ヒュン、ヒュンヒュン

風を切る音とともに木々が大きく揺れる。1つの黒い影が、木を伝って飛び回っているのだ。

霧が濃く、迷子になりそうだが、黒い影は慣れているのか、迷いもなく木々を飛び移りながら崖下の入口付近へ来た。と思うと、木に括りつけられたロープを使って、入口目掛けて勢いよく入って行った。

何故か? この辺りの地面は、人間にとって毒にしかならないからだ。そのため、木々を伝って戻るしかない。とはいえ、それは人間である場合だ。

この黒い影とその仲間のほとんどは毒の耐性を持っているため、多少の毒は効かない。木々を伝って戻っていたのは、ただ単にその方が速いからだ。時間短縮の意味合いと基礎体力を保つために行っていただけである。

崖の中は以外に広く、薄暗い光が入ってきていた。そこに前から人が現れた。

「あっ、任務帰りですか?」

反響しそうな空間なのに、全く反響せず話しかけてきた。しかし、黒い影は反応しない。

「あー…、銀さんは任務完了するまで無口ですもんね…。アオ様なら部屋にいますよ」

苦笑いで自己完結すると、黒い影、もとい銀の行く先を見越して居場所を伝える。銀は無言のままその場を通り過ぎた。

迷路のような道を通り抜け、ようやく酒場に着く。この酒場は裏ギルドの憩いの場と言っても過言ではない。表世界では生きられない人達の集まりだった。
階段を上り、蒼の部屋に行くために移動しようとすると、酒場にいた人たちは慌てて銀に向かってひざまついた。

「おかえりなさいませ、銀様」

銀とは、任務中のコードネームである。基本的に銀の出入りする裏ギルドではコードネームでしか呼ばれない。しかし、銀の本名を呼んだ誰かがいた。

それに伴って、任務帰りのためか、銀は殺気立っていた。

銀の本名を呼んだ彼に一瞬で近づき、背後から鋭く細い短剣を首に突きつける。

「……ここでは銀と呼べ、新入り」

銀が淡々とした口調で言う。は冷や汗をかきながらコクコクと必死で頷くと、銀は短剣を懐に戻し、階段を使ってその場から離れた。

短剣を突きつけられて、目の前に現れた何者かが恐ろしく感じ、新入りはしばらくその場から動けなかったという。

「こ、怖ぇぇ……」


∞----------------------∞

蒼は既に銀が来ることが分かっていたらしく、手に資料らしきものを持ったままじっと扉を見つめていた。銀が軽くノックをして部屋に入ると、扉付近で立ったまま任務の報告をし始めた。

「西の国、エリュウラサからの情報によれば、例の山以外にも違法取引場を設けているとの話だ。取引内容は──」

銀の報告は事細かく蒼に伝えられ、数十分が過ぎた。

「ご苦労。ハクがお前を呼んでたぞ」

銀はわずかに眉間にしわを寄せる。無言で蒼の次の言葉を待った。

「なんでも、お前に話があるとか。行ってやれ。お前の分の任務は一旦終わりだ。また入り次第呼ぶ」

「……承知」
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