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第17章 戦いの終わりに
第234話 友達は言ったもの勝ち
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不思議そうに小首を傾げながら待っていると、ライザは諦めたように息をつき、俺に向かって頭を下げた。
「礼を言う。お前らのおかげで、俺たちエルフは救われた」
いつになく真面目な顔になるライザに、俺は目をぱちくりさせてしまった。だが、その真摯な姿勢を前にすると、知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた。
「……お礼を言うのは俺のほうだよ。リオンを預けてくれてありがとう。でも、そのお礼の言葉は仲間たちにも言ってあげてくれよ」
「他の連中には改めて言う。でも……どういう訳かお前には今言わなきゃいけないような気がした。ただ、それだけだ」
「はは……お前、本当に勘が鋭いな」
この鋭さは脱帽する。しかし、ライザのほうはその意味深な発言を訝しそうに眉をひそめた。そんな彼に向け、俺は端的に告げた。
「俺、自分の世界に帰ることになった」
一瞬ポカンとしたライザだったが、すぐに納得したように「ああ」と頷いた。彼の中でようやく俺が別の世界から来た転生者だったということが結びついたみたいだった。
「それで、目的が済んだからこの世界とおさらばって訳か」
「そう言うこと。多分、もう会えることはないと思う」
そう言うと、ライザは「ふーん」と興味なさそうに返した。正直、こいつにとっては俺が転生者だろうが、元の世界に帰ろうが、どうでもいいみたいだった。けれども、俺は違った。
「あの……ありがとな」
照れくさそうにしながらも、ライザに手を差し伸べる。自分でも腑に落ちないが、どうやら少なからず俺はこいつのことを友人だと思っているようだ。心が、ライザに握手を求めていた。
俺の行動が余程意外だったのか、差し伸ばされた手を見て目を瞠ったまま固まったが、やがてフッと口角を上げ、俺の手を握り返した。
「じゃーな。せいぜい頑張れよ、人間」
「お前もな。このヤンキーエルフ」
前にも言った似たようなセリフにお互い笑う。しかし、固い握手もすぐに解かれ、ライザは「よっと」窓の縁を降りた。
「んじゃ、俺は行く」
「もう? リオンには?」
「言っただろ。用があったのはお前だけだ。俺は、あいつの帰る場所になってやらねえと」
と言って、ライザはウィンド・コア・ピンを使ってエルフの里へと帰っていった。
渦巻いた風が俺の短い前髪を靡かせる。その風が消えるまで窓の外を見つめていると、買い出しに行っていたアンジェとリオンが入違いで戻ってきた。
「あら、ムギちゃん。窓の外なんか見てどうかした?」
「もしかして、僕たちが戻ってくるのわかったの?」
「あー、まあ、そうだな。うん、そうだ」
明らかに適当な返しに二人は不思議そうにしていたが、多分、これでよかったのだろう。ライザが自分に会わずに来たなんてリオンに言ったら彼に不貞腐れそうだし。いや、今のリオンなら、そんなこともないか。
「それにしても──餞の言葉か」
短い間とはいえ、ライザと別れの言葉を交わしたことで急に実感が沸いてきた。こうしてだらだらとこの岬の家にいるが、本来なら挨拶に行くべきなのだろう。神官のミドリーさん。シスターのモネさん。ギルドのフーリとセントリーヌ。ああ、神官長のオズモンドさんにもライトが迷惑をかけたことを謝らないと。
こうして少し考えるだけでも、次々と会いたい人が出てきた。だが、そもそも俺は『オルヴィルカ』を追放されているし、会えたとしても、下手に『エムメルク』の世界に触れて元の世界に戻る決心が揺らぎそうだ。
「なあ、アンジェ……『オルヴィルカ』に帰ったら、みんなによろしく伝えてくれないか?」
青空を仰ぎながらそう請う。その請いにアンジェは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにゆっくりと首を横に振った。
「それは、あなたがもう一度この世界に来た時に自分で言いなさい」
「え? でも、俺……この世界に戻って来れるか……」
「いいじゃない、それくらい。少しはこの別れに希望を持たせてよ」
そうやって話すアンジェの顔は儚く、とても悲しそうだった。だが、全部彼の言う通りだ。
「そうだな。そうするよ」
彼の言葉の重みをしっかりと受け止めながら、俺は深く頷いた。
「礼を言う。お前らのおかげで、俺たちエルフは救われた」
いつになく真面目な顔になるライザに、俺は目をぱちくりさせてしまった。だが、その真摯な姿勢を前にすると、知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた。
「……お礼を言うのは俺のほうだよ。リオンを預けてくれてありがとう。でも、そのお礼の言葉は仲間たちにも言ってあげてくれよ」
「他の連中には改めて言う。でも……どういう訳かお前には今言わなきゃいけないような気がした。ただ、それだけだ」
「はは……お前、本当に勘が鋭いな」
この鋭さは脱帽する。しかし、ライザのほうはその意味深な発言を訝しそうに眉をひそめた。そんな彼に向け、俺は端的に告げた。
「俺、自分の世界に帰ることになった」
一瞬ポカンとしたライザだったが、すぐに納得したように「ああ」と頷いた。彼の中でようやく俺が別の世界から来た転生者だったということが結びついたみたいだった。
「それで、目的が済んだからこの世界とおさらばって訳か」
「そう言うこと。多分、もう会えることはないと思う」
そう言うと、ライザは「ふーん」と興味なさそうに返した。正直、こいつにとっては俺が転生者だろうが、元の世界に帰ろうが、どうでもいいみたいだった。けれども、俺は違った。
「あの……ありがとな」
照れくさそうにしながらも、ライザに手を差し伸べる。自分でも腑に落ちないが、どうやら少なからず俺はこいつのことを友人だと思っているようだ。心が、ライザに握手を求めていた。
俺の行動が余程意外だったのか、差し伸ばされた手を見て目を瞠ったまま固まったが、やがてフッと口角を上げ、俺の手を握り返した。
「じゃーな。せいぜい頑張れよ、人間」
「お前もな。このヤンキーエルフ」
前にも言った似たようなセリフにお互い笑う。しかし、固い握手もすぐに解かれ、ライザは「よっと」窓の縁を降りた。
「んじゃ、俺は行く」
「もう? リオンには?」
「言っただろ。用があったのはお前だけだ。俺は、あいつの帰る場所になってやらねえと」
と言って、ライザはウィンド・コア・ピンを使ってエルフの里へと帰っていった。
渦巻いた風が俺の短い前髪を靡かせる。その風が消えるまで窓の外を見つめていると、買い出しに行っていたアンジェとリオンが入違いで戻ってきた。
「あら、ムギちゃん。窓の外なんか見てどうかした?」
「もしかして、僕たちが戻ってくるのわかったの?」
「あー、まあ、そうだな。うん、そうだ」
明らかに適当な返しに二人は不思議そうにしていたが、多分、これでよかったのだろう。ライザが自分に会わずに来たなんてリオンに言ったら彼に不貞腐れそうだし。いや、今のリオンなら、そんなこともないか。
「それにしても──餞の言葉か」
短い間とはいえ、ライザと別れの言葉を交わしたことで急に実感が沸いてきた。こうしてだらだらとこの岬の家にいるが、本来なら挨拶に行くべきなのだろう。神官のミドリーさん。シスターのモネさん。ギルドのフーリとセントリーヌ。ああ、神官長のオズモンドさんにもライトが迷惑をかけたことを謝らないと。
こうして少し考えるだけでも、次々と会いたい人が出てきた。だが、そもそも俺は『オルヴィルカ』を追放されているし、会えたとしても、下手に『エムメルク』の世界に触れて元の世界に戻る決心が揺らぎそうだ。
「なあ、アンジェ……『オルヴィルカ』に帰ったら、みんなによろしく伝えてくれないか?」
青空を仰ぎながらそう請う。その請いにアンジェは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにゆっくりと首を横に振った。
「それは、あなたがもう一度この世界に来た時に自分で言いなさい」
「え? でも、俺……この世界に戻って来れるか……」
「いいじゃない、それくらい。少しはこの別れに希望を持たせてよ」
そうやって話すアンジェの顔は儚く、とても悲しそうだった。だが、全部彼の言う通りだ。
「そうだな。そうするよ」
彼の言葉の重みをしっかりと受け止めながら、俺は深く頷いた。
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