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第17章 戦いの終わりに
第230話 勇者の目覚め
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夢を見た。
夢の俺は幼児だった。公園で、ライトと一緒に砂遊びをしている。二人して手を泥だらけにして、服が汚れてもお構いなしで、顔を見合って笑い合っている。
そうやって遊んでいるうちに、どこかから声が聞こえた。
「そろそろ戻りますよ」
口調も、声も、母親の物ではなかった。それでも俺は、「行かなくちゃ」と立ち上がった。
「ライトも戻ろ?」
汚れた手をライトに差し出すが、ライトは微笑んだまま首を横に振る。
何も言わないライトに小首を傾げていると、そのうち視界がどんどん白くなっていった。
ライトの姿が遠ざかっていく。それが無性に寂しくて、悲しくて、なんだか泣けてきた。
目からこぼれた雫が頬を伝う。そんな生温かい感触で、ハッと目が覚める。
「──おはようございます、勇者ムギト」
目を開けると、破顔したエスメラルダさんが俺を覗き込んでいた。
「おわっ! なんで!?」
いきなり現れたエスメラルダさんに俺は思わず飛び起きた。状況が理解できない。『アルカミラ』の火口にいたはずだったのに、いつの間にかベッドの上に横たわっていたらしい。
目をぱちくりさせながらも辺りを見回す。
ここは『イルニス』にある岬の家の一室だ。おそらく倒れた後にみんながここまで運んでくれたのだろう。問題は、どうしてこんなところに神様のエスメラルダさんがいるのか、ということだ。
「エスメラルダ様が直々にお前に会いに来てくださったのだ。感謝しろよ」
ふと声をしたほうへ顔を向けると、人型のノアが壁にもたれかかっていた。
全身血だらけだったはずなのに、彼女の肌はかすり傷ないくらい綺麗だ。そういえば、俺だってライトとセトと戦ってボロボロだったのに、これっぽっちも痛みがない。聞くと、エスメラルダさんが俺たちに治癒魔法をかけてくれた、とのことだ。
「余程お疲れだったのでしょう。あなたは丸二日も眠っていたのよ」
「二日!? そんなに!?」
体感ではせいぜい一時間くらいの睡眠だったから、聞いて度肝を抜いた。しかし、驚愕する俺を差し置いて、エスメラルダさんは話題を区切るようにパチンと手を叩いた。
「さて、お仲間もあなたのことを待っておりますよ。それに、お腹も減っているでしょ?」
俺が返事をする前に、「ぐ~」と腹の音が鳴る。その正直さにたまらず赤面する俺を見て、エスメラルダさんは微笑ましく頬を綻ばせた。
二人に連れられてリビングに向かう。すでにリビングには食欲がそそる良いにおいが充満しており、においが鼻に入るだけで心が満たされた。
台所にはアンジェが立っている。リオンもアンジェの手伝いをしているみたいで、食卓に皿を並べていた。
「みなさん、ムギトが目を覚ましましたよ」
エスメラルダさんのひと声で、二人からの視線が一気に集まる。目を丸く二人を前にどうリアクションすればいいかもわからず、とりあえず「あはは……」と頭を掻いた。
その途端、アンジェもリオンも弾けたように両手を広げて俺に駆け寄った。
「ムギちゃ~~ん!」
「ムギトく~~ん!」
アンジェには犬のように頭を撫でまわされ、リオンには飛びつかれ。しかし、誰も二人を止めることもなく、俺は瞬く間に揉みくちゃにされた。
「わかった、わかったから──」
「どうどう」と二人をなだめていると、今度は玄関の扉がガチャッと開いた。開けたのは洗濯物を入れた籠を持ったセリナだった。ゴレちゃんとムンちゃんも手伝っていたようで、二体とも頭の上に籠を乗せている。
「ム、ムギトさん!?」
俺が起きているとは思わなかったのか、セリナも驚いた声をあげた。しかし、どんなに驚かれても彼女の顔を見たら俺もホッとしてしまい、つい表情が崩れた。そんな俺を見て、セリナも釣られるように笑った。
だが、そんな和やかなムードはゴレちゃんとムンちゃんによって壊された。
「ム~~!」
ゴレちゃんとムンちゃんは持っていた洗濯物籠をぶちまけ、勢い良く俺に突進してきた。
「ごふっ!」
ゴーレムたちの突進に直撃し、たまらず情けない声があがる。けれども当のゴーレムたちには反省の色はなく、むしろ倒れ込む俺の上に乗って嬉しそうに何度もジャンプをした。彼らなりの喜びだった……と、信じたい。だが、そんな理不尽な痛みも仲間たちの微笑ましそうな表情を見るとどこかへ飛んでいった。
「そうだ! ムギト君、こっちに来て」
何か思いだしたリオンにいきなり腕を引っ張られる。
為すがままに連れられ、外に出てみると、目の前に広がった光景に息を呑んだ。
夢の俺は幼児だった。公園で、ライトと一緒に砂遊びをしている。二人して手を泥だらけにして、服が汚れてもお構いなしで、顔を見合って笑い合っている。
そうやって遊んでいるうちに、どこかから声が聞こえた。
「そろそろ戻りますよ」
口調も、声も、母親の物ではなかった。それでも俺は、「行かなくちゃ」と立ち上がった。
「ライトも戻ろ?」
汚れた手をライトに差し出すが、ライトは微笑んだまま首を横に振る。
何も言わないライトに小首を傾げていると、そのうち視界がどんどん白くなっていった。
ライトの姿が遠ざかっていく。それが無性に寂しくて、悲しくて、なんだか泣けてきた。
目からこぼれた雫が頬を伝う。そんな生温かい感触で、ハッと目が覚める。
「──おはようございます、勇者ムギト」
目を開けると、破顔したエスメラルダさんが俺を覗き込んでいた。
「おわっ! なんで!?」
いきなり現れたエスメラルダさんに俺は思わず飛び起きた。状況が理解できない。『アルカミラ』の火口にいたはずだったのに、いつの間にかベッドの上に横たわっていたらしい。
目をぱちくりさせながらも辺りを見回す。
ここは『イルニス』にある岬の家の一室だ。おそらく倒れた後にみんながここまで運んでくれたのだろう。問題は、どうしてこんなところに神様のエスメラルダさんがいるのか、ということだ。
「エスメラルダ様が直々にお前に会いに来てくださったのだ。感謝しろよ」
ふと声をしたほうへ顔を向けると、人型のノアが壁にもたれかかっていた。
全身血だらけだったはずなのに、彼女の肌はかすり傷ないくらい綺麗だ。そういえば、俺だってライトとセトと戦ってボロボロだったのに、これっぽっちも痛みがない。聞くと、エスメラルダさんが俺たちに治癒魔法をかけてくれた、とのことだ。
「余程お疲れだったのでしょう。あなたは丸二日も眠っていたのよ」
「二日!? そんなに!?」
体感ではせいぜい一時間くらいの睡眠だったから、聞いて度肝を抜いた。しかし、驚愕する俺を差し置いて、エスメラルダさんは話題を区切るようにパチンと手を叩いた。
「さて、お仲間もあなたのことを待っておりますよ。それに、お腹も減っているでしょ?」
俺が返事をする前に、「ぐ~」と腹の音が鳴る。その正直さにたまらず赤面する俺を見て、エスメラルダさんは微笑ましく頬を綻ばせた。
二人に連れられてリビングに向かう。すでにリビングには食欲がそそる良いにおいが充満しており、においが鼻に入るだけで心が満たされた。
台所にはアンジェが立っている。リオンもアンジェの手伝いをしているみたいで、食卓に皿を並べていた。
「みなさん、ムギトが目を覚ましましたよ」
エスメラルダさんのひと声で、二人からの視線が一気に集まる。目を丸く二人を前にどうリアクションすればいいかもわからず、とりあえず「あはは……」と頭を掻いた。
その途端、アンジェもリオンも弾けたように両手を広げて俺に駆け寄った。
「ムギちゃ~~ん!」
「ムギトく~~ん!」
アンジェには犬のように頭を撫でまわされ、リオンには飛びつかれ。しかし、誰も二人を止めることもなく、俺は瞬く間に揉みくちゃにされた。
「わかった、わかったから──」
「どうどう」と二人をなだめていると、今度は玄関の扉がガチャッと開いた。開けたのは洗濯物を入れた籠を持ったセリナだった。ゴレちゃんとムンちゃんも手伝っていたようで、二体とも頭の上に籠を乗せている。
「ム、ムギトさん!?」
俺が起きているとは思わなかったのか、セリナも驚いた声をあげた。しかし、どんなに驚かれても彼女の顔を見たら俺もホッとしてしまい、つい表情が崩れた。そんな俺を見て、セリナも釣られるように笑った。
だが、そんな和やかなムードはゴレちゃんとムンちゃんによって壊された。
「ム~~!」
ゴレちゃんとムンちゃんは持っていた洗濯物籠をぶちまけ、勢い良く俺に突進してきた。
「ごふっ!」
ゴーレムたちの突進に直撃し、たまらず情けない声があがる。けれども当のゴーレムたちには反省の色はなく、むしろ倒れ込む俺の上に乗って嬉しそうに何度もジャンプをした。彼らなりの喜びだった……と、信じたい。だが、そんな理不尽な痛みも仲間たちの微笑ましそうな表情を見るとどこかへ飛んでいった。
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