転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
上 下
230 / 242
第17章 戦いの終わりに

第230話 勇者の目覚め

しおりを挟む
 夢を見た。

 夢の俺は幼児だった。公園で、ライトと一緒に砂遊びをしている。二人して手を泥だらけにして、服が汚れてもお構いなしで、顔を見合って笑い合っている。

 そうやって遊んでいるうちに、どこかから声が聞こえた。

「そろそろ戻りますよ」

 口調も、声も、母親の物ではなかった。それでも俺は、「行かなくちゃ」と立ち上がった。

「ライトも戻ろ?」

 汚れた手をライトに差し出すが、ライトは微笑んだまま首を横に振る。

 何も言わないライトに小首を傾げていると、そのうち視界がどんどん白くなっていった。

 ライトの姿が遠ざかっていく。それが無性に寂しくて、悲しくて、なんだか泣けてきた。

 目からこぼれた雫が頬を伝う。そんな生温かい感触で、ハッと目が覚める。

「──おはようございます、勇者ムギト」

 目を開けると、破顔したエスメラルダさんが俺を覗き込んでいた。

「おわっ! なんで!?」

 いきなり現れたエスメラルダさんに俺は思わず飛び起きた。状況が理解できない。『アルカミラ』の火口にいたはずだったのに、いつの間にかベッドの上に横たわっていたらしい。

 目をぱちくりさせながらも辺りを見回す。

 ここは『イルニス』にある岬の家の一室だ。おそらく倒れた後にみんながここまで運んでくれたのだろう。問題は、どうしてこんなところに神様のエスメラルダさんがいるのか、ということだ。

「エスメラルダ様が直々にお前に会いに来てくださったのだ。感謝しろよ」

 ふと声をしたほうへ顔を向けると、人型のノアが壁にもたれかかっていた。

 全身血だらけだったはずなのに、彼女の肌はかすり傷ないくらい綺麗だ。そういえば、俺だってライトとセトと戦ってボロボロだったのに、これっぽっちも痛みがない。聞くと、エスメラルダさんが俺たちに治癒魔法をかけてくれた、とのことだ。

「余程お疲れだったのでしょう。あなたは丸二日も眠っていたのよ」

「二日!? そんなに!?」

 体感ではせいぜい一時間くらいの睡眠だったから、聞いて度肝を抜いた。しかし、驚愕する俺を差し置いて、エスメラルダさんは話題を区切るようにパチンと手を叩いた。

「さて、お仲間もあなたのことを待っておりますよ。それに、お腹も減っているでしょ?」

 俺が返事をする前に、「ぐ~」と腹の音が鳴る。その正直さにたまらず赤面する俺を見て、エスメラルダさんは微笑ましく頬を綻ばせた。

 二人に連れられてリビングに向かう。すでにリビングには食欲がそそる良いにおいが充満しており、においが鼻に入るだけで心が満たされた。

 台所にはアンジェが立っている。リオンもアンジェの手伝いをしているみたいで、食卓に皿を並べていた。

「みなさん、ムギトが目を覚ましましたよ」

 エスメラルダさんのひと声で、二人からの視線が一気に集まる。目を丸く二人を前にどうリアクションすればいいかもわからず、とりあえず「あはは……」と頭を掻いた。

 その途端、アンジェもリオンもはじけたように両手を広げて俺に駆け寄った。

「ムギちゃ~~ん!」

「ムギトく~~ん!」

 アンジェには犬のように頭を撫でまわされ、リオンには飛びつかれ。しかし、誰も二人を止めることもなく、俺は瞬く間に揉みくちゃにされた。

「わかった、わかったから──」

「どうどう」と二人をなだめていると、今度は玄関の扉がガチャッと開いた。開けたのは洗濯物を入れた籠を持ったセリナだった。ゴレちゃんとムンちゃんも手伝っていたようで、二体とも頭の上に籠を乗せている。

「ム、ムギトさん!?」

 俺が起きているとは思わなかったのか、セリナも驚いた声をあげた。しかし、どんなに驚かれても彼女の顔を見たら俺もホッとしてしまい、つい表情が崩れた。そんな俺を見て、セリナも釣られるように笑った。

 だが、そんな和やかなムードはゴレちゃんとムンちゃんによって壊された。

「ム~~!」

 ゴレちゃんとムンちゃんは持っていた洗濯物籠をぶちまけ、勢い良く俺に突進してきた。

「ごふっ!」

 ゴーレムたちの突進に直撃し、たまらず情けない声があがる。けれども当のゴーレムたちには反省の色はなく、むしろ倒れ込む俺の上に乗って嬉しそうに何度もジャンプをした。彼らなりの喜びだった……と、信じたい。だが、そんな理不尽な痛みも仲間たちの微笑ましそうな表情を見るとどこかへ飛んでいった。

「そうだ! ムギト君、こっちに来て」

 何か思いだしたリオンにいきなり腕を引っ張られる。
 為すがままに連れられ、外に出てみると、目の前に広がった光景に息を呑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...