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第16章 魔王は4人で倒すもの

第221話 イメージと情熱とノリ

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「頼む。今、二人を護れるのはお前だけなんだ」

 俺の仲間で体力も魔力も残っているのは彼だけだ。盾になるなら、少しでも力がある者がいい。むしろ、これはアンジェにしか頼めないことなのだ。しかし、情けないことに彼に頼み込んだ声が裏返るくらいに震えた。この期に及んで俺も恐怖を感じているのだ。俺自身が死ぬ恐怖。そして、仲間を巻き込んで死なせてしまうかもしれない恐怖。その恐怖心を感じ取ってか、瞠っていたアンジェの目が静かに閉じて、小さく吐息を漏らした。

「死ぬつもりじゃないんでしょ?」

「もちろん。約束だ」

 力強く頷くと、アンジェは持っていた剣を無言で鞘に収め、倒れ込んでいるセリナとリオンの元へと向かった。こんな無茶な請いを受け入れてくれた彼に、俺は心から感謝した。

 アンジェがセリナから受け取った「風の盾」を構えて風の魔法を発動させる。あの風の護りがあれば、ひとまず仲間たちのダメージは減らせるだろう。

 ごくりと唾を飲み、一歩、また一歩とセトへと近づく。そんな緊迫した俺の顔を見て、セトがまた嘲笑う。

「作戦会議は終わったか?」

「ああ……わざわざ待っていてくれたことだけは感謝してるよ」

「そりゃそうさ。俺だって楽しみたいのでね」

 そう言いながらセトは両腕と両翼を大きく広げた。その動きに反応するようにセトの周辺でプラズマが駆け巡っている。俺との圧倒的な魔力の差を見せつけるように。

「それで、勇者様は何を思いついたのだ?」

 俺の頭の上にいたノアがゆっくりと肩元に降りてくる。たとえ俺が何をするかわかっていなくても、奴は俺から離れる気がないらしい。

「まあ、どちらに転がろうが私たちは共倒れだ。気にせずにやれ」

 生きる時も一緒。死ぬ時も一緒。それが、神の使いと契約者との関係性だ。それに恥じぬよう、ノアは俺のそばにいてくれているみたいだ。この肩の重みが、今は無性に心強い。

「……ありがとよ、ノア」

 柄にもなく礼を言う俺にノアは意外そうな顔をしたが、すぐに口角を上げた。

 徐に両腕を伸ばし、神経を集中させる。元々ないマジックパワーを練っているのだ。効果があるかはわからない。だが、前にノアが言っていた。『力というのは、貴様の中にしかねえんだ』と。

 目を閉じ、さらに魔力を研ぎ澄ます。今、俺のマジックパワーは三十。その後に『集団即死魔法《ディジリッド》』を使ったから、残りはもう半分程しかないだろう。案の定、魔力が足りない。だが、そんなの関係ない。捻り出すのだ。体の底からでも。周りに漂う瘴気を利用してでも。俺の生命力を削ったとしても。

「お前……なんだそれは」

 セトの焦った声がしたので、閉じていた目をうっすらと開けた。俺の手の中には紺色と紫色が綺麗に混ざった光の球が生まれていた。紺色の光はノアから受け継いだ氷の魔力。そして紫色の光は、辺りを渦巻いている瘴気の魔力。初めて見る代物でもわかる。これは、俺の魔力が具現化したものだ。今なら行ける。絶対に行ける。

 魔法は『イメージ』と『情熱』と『ノリ』。

 やってやるよ。この一撃に、全てを賭けてやる。

「ぶっ壊せ。『大爆発魔法イクスプリジッド』」

 これが俺の切り札。初めて使った魔法で、初めて使えなかった魔法。

 魔法を詠唱すると、両腕の先にあった光の球がフラッシュを焚いたかのような強い光を放った。

 放たれた光からわずかに遅れ、耳をろうするような猛烈な爆発音が一瞬にして辺りに響き渡る。地面が揺らぎ、爆発が山岳まで広がる。だが、そこで俺の視界が宙にぶれた。その爆発に巻き込まれ、風になぶられて吹っ飛ばされたのだ。

 爆破された峰がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。崩れたのは峰だけでない。地面も、その辺に転がっていた岩も、俺の近辺にあったもの全てが爆発に巻き込まれたのだ。名前通りの「大爆発魔法」。加減ができていないところが、なんとも【赤子の悪魔ベビー・サタン】らしい。

 吹っ飛ばされている間、走馬灯のように目に入る光景がスローモーションに見えた。

「ムギちゃん!」

「ムギトさん!」

 アンジェとセリナが青ざめた顔で俺の名を叫ぶ。リオンは、うっすらと瞼を開けて目を凝らしながら俺を見上げる。

 セトはというと、諸に爆撃を食らったせいで顔が狼狽と苦痛で歪んでいた。俺がこんな大技を出せるとは思っていなかったのだろう。どいつもこいつも、俺のことを舐めやがって。

「ざまあみやがれ」

 そうやって歯を見せて笑いながら、俺は魔王共に言い捨てた。後頭部に強い衝撃と激痛を感じてぷっつりと意識が途切れたのは、その言葉を吐いたすぐ後のことだった。
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