転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
上 下
218 / 242
第16章 魔王は4人で倒すもの

第218話 『この世界を殺すため』

しおりを挟む
「言っておくが、あやつらが同化したからと言って、貴様と同化するのはごめんだぞ」

「奇遇だな。俺もだよ」

 悪態をつきながらもバトルフォークを構えると、セトも「やるか?」と手をかざした。

 かざした手から三叉槍が出てくる。三叉槍からは電流がバチバチと流れ出ていた。もうすでに魔力が溢れているように見える。武器も、なんなら中身ですらも先ほどと変わらないはずなのに、肌で感じ取れる殺気が今までと違う。呼吸が勝手に浅くなるほど、セトには圧力がある。こいつは情けのかけらもない。本気で俺たちと──旧友ノアを殺す気だ。

「お前……どうしてそこまでして戦うんだよ」

 震える体を抑え込みながらセトに問う。すると、彼は目を見開きながら歯を見せて俺に答えた。

「決まってるだろ。この世界を殺すためだよ」

 その答えと迷いなく狂った眼差しでようやく理解した。この世界を潰したかったのはライトではない。セトだ。これはこいつの復讐劇。魔王ライトですらも、あいつの駒でしかない。

「殺させねえよ。世界も、ライトも」

 バトルフォークを握り直しながら、徐に後ろを振り返る。そこにはいつにも増して真剣な表情を浮かべた仲間たちが臨戦態勢になっていた。

「ごめん。もう一戦付き合ってくれ」

 多分、これで最後だ。けれども、一人ではきっと死ぬ。そうやって仲間たちに請うと、彼らはニッと口角を上げた。

「わかってるよ、ムギト君」

「最初からそのつもりだから安心して」

「サポートは任せてください」

 そう言ってくれる仲間たちの迷いない表情を見ていると、自然と笑みがこぼれた。大丈夫。一人じゃない。その思えるだけで、俺の手に自然と力が籠った。

「そんじゃ、戦うとしますか」

 俺たちの戦意を感じたセトが、不敵に笑いながら指をパチンと鳴らした。それが俺たちの戦いの合図でもあった。

「雷の魔法はこうやって使うんだよ!」

 セトが高らかに声をあげながら三叉槍の切っ先を天に向ける。すると、バチバチと流れ出ていた電流が一気に切っ先に集まってきた。集まった電流が球体に変化する。エレキボールだ。

 セトが三叉槍を大きく振り下ろすと、生まれ出たエレキボールがこちらに向かって飛んできた。

 スピードに乗ったエレキボールがまっすぐこちらに飛んでくる。当たったら感電することまちがいないだろう。だが、エレキボールを避けている間もセトの三叉槍からはどんどんエレキボールが生まれており、休む暇もなく次々と飛んでいった。

 避けられないスピードではないものの、次々と飛んでくるエレキボールの間をかいくぐるには反射神経を研ぎ澄ます他なかった。避けるだけでギリギリなのに、これではとてもセトには近づけない。

「ほらほら、まだあるぞ」

 笑いながらセトが三叉槍を空へと突き出すと、三叉槍を中心に黒い雷雲が渦巻き始めた。落雷魔法が来る。けれども、こんなにも辺りにエレキボールが散りばめられているなら、落雷など避けられない。

 そう思った時、リオンが声をあげた。

「みんな! こっちに来て!」

 リオンのひと声で、全員がリオンのそばに寄る。だが、寄ったところで黒雲からはバチバチと音を鳴らしながらプラズマが発生していた。雷が落ちてくるまで、もう数秒もない。

 そう思った時、リオンが天に向けて両腕を目いっぱい伸ばした。

「護って! 『風の盾ウィング・シールド』」

 その詠唱と共に、リオンを中心にドーム型の風の護りが俺を包み込んだ。

 風の盾であるはずなのに、雷が落ちてきても稲妻は風の護りを通さない。エルフの力が流れているリオンが詠唱破棄をせずに唱えた風属性の守備魔法だ。守備力が段違いだ。問題があるとすれば、俺たちもここから動けないということ。そして、俺たちを一か所にまとめたことがセトの狙いだったということだ。

「はい、ご苦労さん」

 労いの言葉とは裏腹に、冷ややかな眼差しを浮かべたセトが三叉槍の切っ先を向ける。

 三叉槍の切っ先からはバチバチと電流が流れていた。しかし、今回はエレキボールも、少し前にライトが飛ばしたような火球も出てこない。ただどこかから漂い始める焦げ臭いにおいに嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...